吉宗と紅、そして家継暗殺の陰謀が動く。聡四郎の活躍は? ー 上田秀人「勘定吟味役異聞 8 流転の果て」(光文社文庫)

嫌味なジコチューの新井白石、お金があるのでなんでもやってしまおうという紀伊国屋文左衛門、先代の時の栄誉再びを夢見る柳沢吉保、第二の「柳沢」を夢見る売れっ子ホスト的側用人・間部詮房と、当時の権力者が揃い踏みして権力争いを繰り広げるところに、初心者マークの勘定吟味役・水城聡四郎はビギナーズラック的に大活躍という、上田ワールド全開の時代小説「勘定吟味役異聞」シリーズの最終巻。

勘定筋の出身ながらソロバンがからっきしで、剣の腕はたつ、という旗本・・水城聡四郎が、時の権力者・新井白石に「勘定吟味役」に任じられるところから始まった、このシリーズもいよいよ最終巻。その間、将軍・家宣が死んで白石の権勢は落ちたり、聡四郎は相模屋伝兵衛の一人娘「紅」や紀伊国屋文左衛門と知り合ったり。と境遇の変化はそれぞれに大きなもののがあるのだが、立身出世的なところからいえば、徳川吉宗と知り合ったのが一番大きなところであろう。

今巻では、前巻で設えられた、永渕啓輔が柳沢吉保から依頼を受けた「吉宗」の暗殺を企んでいるし、紀伊国屋文左衛門は七代将軍・家継を暗殺するための刺客を大奥の中に忍び込ませることに成功するといった仕掛けが動き始める。

流転の果て―勘定吟味役異聞〈8〉 (光文社時代小説文庫)
流転の果て―勘定吟味役異聞〈8〉 (光文社時代小説文庫)

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上田 秀人
光文社
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【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 闇の妨げ
第二章 南海の龍
第三章 血の決意
第四章 大奥の客
第五章 命の決着
終章

となっていて、まずは永渕啓輔が吉宗暗殺のために紀州に潜入するところからスタート。紀州徳川家の南伊勢の治世拠点である「松坂」で台風で倒壊した天守の再建もできず、本丸御殿も朽ちた松阪城を見て、

「城は国を守る要。それをおろそかにすいるなど、吉宗は武家の棟梁たる器量ではない。」

と批判したり、吉宗の出した「倹約令」で櫛や簪までもが禁制の対象となっているのを見て

「無駄遣いを止める倹約はよいが、なんでもかんでも買うなでは、人が勢いを失う。・・・どうどう巡りでどんどん悪くなっていく。倹約のしずぎはかえって、世を貧しくする。金にかかわることは、紀伊国屋のいうとおりだな。」

といった感じで、吉宗の評価は最悪である。
前段の武家の棟梁のところは別にして、吉宗の倹約政策が経済政策として成功であったかどうかは論が分かれるところであろう。時代小説でも、高田郁さんの「あきない世傅 金と銀」あたりではよく言われていませんね。

もっとも、永渕の吉宗批判も、吉宗暗殺の絶好の機会を得たところで、吉宗の気迫に位負けして、刃を向けることすらできなかった体たらくを見ると「空元気」としか言いようがないのですが・・。

そして、これに輪をかけるのが新井白石で、聡四郎が自分を見限って吉宗についたと誤解して、聡四郎と吉宗の間を割くために、間部越前守に、『紀州家の中屋敷で花嫁修行をしている「紅」を殺害してくれ』と要請するあたりは「最低~」としか言いようがないですね。
もちろん、間部の手配する伊賀者では聡四郎は倒せないし、紅は紀州の玉込め役が警備して無事、ということで白石の悪巧みは空振りに終わります。

最大のアクション・シーンンは、七大将軍・家継暗殺のために、柳沢が派遣する黒鍬組や紀伊国屋文左衛門が大奥に忍び込ませた、はぐれ忍「庵」との対決シーン。

暗殺は、家継が先祖が祀ってある仏壇の中に隠れ、参拝のときに仏壇の扉が開いたときに手裏剣で狙うというやり口からスタート。近くには月光院やおつきの女中たちもたくさんいて警備の伊賀者も思うように動けない状態になる。手裏剣からは逃れたが「庵」によって家継の生命は風前の灯、というところで、ちょうど大奥の調査に来ていた聡四郎が駆けつけて・・、という展開。今シリーズ最大の見せ場なのでネタバレはここまで。詳しくは原書で。

レビュアーから一言】

物語のほうは、聡四郎もののSeason2となる「御広敷用人」へ繋げる形でおわるのだが、Season2で聡四郎を尻に敷いている「紅」がなかなか苦戦するのが、紀州家での「花嫁修業」で

「いけませぬ。紅さま。そのような箸遣いでは、笑われまするぞ」紀州家中屋敷奥中膓が、紅の食事に苦情をつけていた。
「女が一箸で口にしてよい白米の量は、大豆の大きさ。それ以上多すぎますと、口に入れたときほおばるようで見苦しゅうございまする」
「・・・」
飯を喰う気をなくした紅は、汁に手を伸ばした。
「なりませぬ。汁物は食事の最後にきっちり終わるよう、配分をいたさねば。そのように汁を一気に口にされては、食事の最後で困りまするぞ。茶は、食事が終わるまで口になさることはできませぬゆえ」
中臘に注意されて、紅は汁も飲む気をなくした。

といった感じで、あのお転婆娘も勝手が違う様子。めったにない場面であるので、しっかり記憶に残しておいてくださいな。

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