徳川吉宗と竹姫(2019年3月にフジテレビ系列で放映された「大奥 最終章」で浜辺美波ちゃんが熱演したキャラ)の悲恋物語と吉宗に大奥を取り仕切る御広敷用人に任命された水城聡四郎の活躍を描く、江戸中期を舞台にした上田秀人ワールド満載の時代小説の第6弾。
前巻で、竹姫襲撃が失敗して、立場が悪くなった天英院であったのだが、「吉宗憎し」に加えて、「竹姫憎し」という状態になり、これと旧来の「月光院憎し」が合体してだんだんと手がつけられなくなっているのだが、今回は起死回生の一手として「茶会」を催すことを企画する。
そして、同じく御広敷伊賀者だけでなく、江戸城の伊賀者の中での立場が微妙になってきた、御広敷伊賀者の頭領・藤川も、一発逆転の一手を探り始める、というのが今巻。
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【構成と注目ポイント】
第一章 御広敷の乱 第二章 将軍の一手 第三章 女の陰謀 第四章 野点の争い 第五章 忍の未来
となっていて、天英院が、彼女と大奥を二分する実力者・月光院を貶めるための「茶会」を企画するところからスタート。茶会で月光院の茶道具を馬鹿にして恥をかかせようとする企みなのだが、馬鹿にする役目の女中はそのための大奥かた放逐されてもいいでしょ的な、まさに支えてくれる部下のことは考えない、仕えたくない上司の典型である。 ただ、この企みが漏れないわけがないというのが大奥の争いで、両陣営の「菓子自慢」「道具自慢」の競争になっていくのだが、そのとばっちりを受けるのが、またも「竹姫」で、聡四郎の手配の菓子がどこで作られたかわからない「ゲス」なものだと二人に散々馬鹿にされるのである。決着のつかない争いの持って行き先がないと、若い美人イジメは加速してしまいますわな。 今回も最後にやってきて、水戸黄門的な役割をするのは、「吉宗」で、天英院と月光院が馬鹿にした竹姫の「菓子」も、吉宗が仕掛け人であるので、これは最初から何かを仕組むつもりだったのでは、と邪推されても仕方ないであろう。 後半部分は、度重なる失策で、とうとう御広敷伊賀者のいる場所がなくなった元頭領・藤川が館林松平家と本格的に手を組む。さらには、伊賀の郷忍の親玉を、天英院の実家である京都の近衛家に斡旋して「御所忍」復活させようと企む、といった展開で、「武」の部分では聡四郎にかなわない伊賀者を謀略の点では聡四郎をうわ回る才能でありますね。 最後のところは、その郷忍の親玉から、聡四郎の屋敷で治療している「袖」のところに毒針が届けられる。これで聡四郎をなんとかしろ、という命令なのだが、さて袖はどうするのか・・・、といったところで次巻に続きます。【レビュアーから一言】
今回は、「茶会」を舞台にした「女」の「文化・教養」の闘いが中心であるので、刀や手裏剣を使った「戦闘」シーンは少なめで、その分、次巻以降に期待しましょう。そして「東京びいき」の人には申し訳ないのだが、この巻の「野点」で注文された菓子屋は「桔梗屋」「土佐屋」「すはまや」「松尾山城」といった店で、いずれも京都が本店の江戸出店で、すべて「京菓子」だそうですから、吉宗の時代、こういう分野では「江戸」はまだまだ力不足であったようですね。
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