大ヒットの根本には何があるのか ー 原田曜平「それ、なんで流行ってるの?」

「流行」とか「売れ筋」といったことを考えなければいけないのは、一昔前は、マーケティング関係者か商品企画関係者に限られていて、現場でものを製造したり、サービスを提供している人や管理部門に属している人たちは、決められたことをきちんとやっていけばよかった時代があったのだが、グローバリズムの波と業種・仕事の垣根がぐちゃぐちゃに壊れてしまった現代では、ビジネスマンすべてがそういった視点を持ちながら仕事をしないといけない世知辛い世の中になってしまった。

ところが、いざそういった視点を身に着けようとと思っても、「インサイト理論」がどうとかなんか小難しい話が出てきて、さっぱり・・という方も多いはず。

そんなビジネスマンに「マイルドヤンキー」とか「さとり世代」とか時代の切り取りの確かさには定評のある筆者が「広告の本質」「消費のツボ」についてわかりやすく解説してくれるのが本書『原田曜平「それ、なんで流行っているの」(ディスカバー携書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 「マイルドヤンキー」「さとり世代」はなぜ流行語になったのか?
第2章 ヒット商品に共通する、ひとつの法則
第3章 クリエイティブ・ブリーフを作ってみよう
第4章 インサイトを見つけるには
第5章 若者のインサイトを探る
巻末付録 若者トレンドにみる「インサイトフル」な事例

となっているのだが、小難しい理屈のことから始まらずに、そのツボというのを

「そう、それ!」という言葉が発せられるメカニズムをひとことで言うなら、「言いたかったけれど日から出てこなかった言葉を言い当ててくれた」という気分の発露、ではないでしょうか。
かゆいところに手が届いた快感、と言いかえてもよいかもしれません

と端的に表して、素人に体感的にわからせてくれるあたりは手練れの技ではある。

ただ、そのツボがこの「そう、それ」をつかみ取ることだとと頭で「理論的」に理解することと、「実際」につかみ取ることとは多くの場合別物で、

「そう、それ!」は必ずしも「今までになく斬新」である必要はありません

であったり、

ターグットとなる顧客に「売りたいもの」ではなく、彼らが「欲しいもの」を汲んで提供する。
ただし、もう顕在化している「欲しいもの」ではなく、まだ顕在化していない「欲しいもの」を彼らに気づかせる。
それが、顧客の「そう、それ!」を引き出す唯一の方法

といったことを読むと、ただでさえ「アイデアがでないな」と悩んでいるビジネスマンは暗澹たる気持ちになってしまうのである。そんな多くの「フツーの人」へのアドバイスとしては

大切なのはこうした表面上の言葉ではなく、これらの調査を駆使して何をするかです。
調査の最大の目的は、「鋭い仮説を立てる」ことだと私は思っています。
良い仮説が良いインサイトに結びつく確率が大変高い、と覚えておいてください

といったことを基礎に置きながら、

・特に気に留めてなければ通り過ぎていく、目の前の光景や相手の言動。これらを観察することで生じる「違和感力」
・「一般的にはこうだから」「普通はこう」という先入観にとらわれない。作家の直観のような「作家力」
・自分が長年培ってきた価値観とはまったく異なる価値観に遭遇しても、臆せず受け入れる「超受容力」
・聞いた話やその時のしぐさなどをしっかり覚えておく「記憶力」

といったことを磨いていくことが、「インサイトをつかむ力」「消費のツボをつかむ力」を身につけるには大事なことであるようだ。
ハードルの高さに気が萎えている人もあるかもしれないが、筆者によると

日本人の技術力は間違いなく図抜けていて、商品自体の完成度も高い。
これは疑いようのない事実です。
ですから、もうちょっと貪欲に、消費者の(特にこれからは海外の)「そう、それ!」を探り、思考し、それを商売に結びつけることに腐心していけば、日本は最強の国になるでしよう。
日本人の洞察力、すなわちインサイト発見力は世界最強なのですから

ということであるので、諦めずに頑張りましょう。

このほかに、2017年に筆者が若者調査で感じている、「プチ個性」「間接自慢」「母息子ニーズ」「サイコーにちょうどいい」といったあたりは、ちょっと年月が経っているが、若者のインサイトを知る上でまだまだ有効なところも多いのでご一読ください。

【レビュアーからひと言】

大ヒットした言葉や製品を見て、「へー」と驚くと同時に、なんで思いつかなかったのかな、と感じることも多いはず。筆者によれば

自分が作った言葉が流行語になっていった背景や理由、また、近年のヒット商品やサービスがなぜヒットしていったか、ということを考えていくなかで、私が達したひとつの結論は、「ヒットしたモノはすべて因数分解できる」ということでした。
つまり、ヒットしたモノには必ずある程度明確な理由や原因があり、成功因子で分解できる

ということであるようなので、本書などのアドバイスをもとに、それぞれが頑張れば、大ヒットサービスを生み出すのも夢ではないかもしれないですね。

それ、なんで流行ってるの? 隠れたニーズを見つけるインサイト思考 (ディスカヴァー携書)
それ、なんで流行ってるの? 隠れたニーズを見つけるインサイト思考

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