美しい妓女と比丘尼のため、道真が詭計を講じる ー 灰原楽「応天の門 9」

兄の死の真相を知って、藤原北家への反対勢力との関係が深くなったり、学問への向き合い方に疑問をもったり、と自らの立ち位置に揺らぎが生じている道真なのだが、本巻はそういったところとはちょっと離れて、不老不死の比丘尼や、関わると周囲に不幸をもたらす美しい男の子といった謎の解決が描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第四十六話 菅原道真、遊行する比丘尼と会う事 二
第四十七話 菅原道真、遊行する比丘尼と会う事 三
第四十八話 菅原道真、遊行する比丘尼と会う事 四
第四十九話 禍いを呼ぶ男の童の事 一
第五十話 禍いを呼ぶ男の童の事 二
第五十一話 源融、別邸にて宴を催す事 

となっていて、第四十六話から第四十七話は、前巻の最終話からの続き。昔の都があった長岡京にやってきた道真と業平が、困窮している百姓に、自分の手から米や砂金をひねり出す比丘尼に出会うところからスタート。

この比丘尼は青海尼といって、地元民から大層慕われ、敬われている比丘尼らしいのだが、長岡京が都となる前から生きていると信じられていて、道真の世話をしてくれている老人が子供の頃から姿が変わらず、その頃は二人の童女の従者を連れていたらしい。


道真が、青海尼が手から砂金などをひねり出すしかけや不老不死の謎を推理している間に、都では、美妓として有名な「大師」が、彼女を独占しようとする貴族・清原定成に逆恨みされて襲われる。怪我をして、川に落ちた「大師」を助けた業平と道真は、彼女の秘密、そして青海尼の秘密に気づき・・・、といった展開。

大師の頼みを聞いて、道真が企む復讐劇のからくりが見事です。

最後のほうの青海尼の言葉にこれからの生き方のヒントを、道真はつかんだような感じがします。

第四十八話・第四十九話の「禍いを呼ぶ男の童の事」は、藤原北家の一族ながら、藤原良房・基経親子の対抗勢力でもある藤原良相の息子・常行が通っている女性の弟・武市丸にまつわる話。この弟、大変な美童で、そっちの方向の趣味のある貴族や官僚や坊さんたちからたくさんのお誘いを受けている、という筋立て。
このお誘いが嫌でどうこう、とならないのがこの時代の特徴で、家が貧しいため、誰かの世話になろうとするのだが、武市丸が、色よい返事をした相手は、落馬して怪我をしたり、家が火事になったり、伝染病にかかったり、と複数の貴族たちが不幸に見舞われるという変事が続けて起きる。
この弟に苦難を救うため、姉の恋人の藤原常業が、この変事の謎を解くよう在原業平に依頼する。

頼みを断れず、関係者聞き取りにそれぞれの屋敷を回った業平は、途中の上で、自らが乗る牛車が、火の気がないはずなのに、大炎上し・・という展開。
業平に頼られて道真が謎解きに駆り出される、というお決まりの筋立てですね。

最終話の第五十一話「源融、別邸にて宴を催す事」は自慢の庭が完成した源融が、お披露目の会を催すのだが、そこに業平も招待されて・・といった話。政争に道真が巻き込まれるのを嫌った、父親・是善から牛車の中で待機しているよう命じられた道真なのだが、牛追いの童たちのケンカを仲裁をしているうちに、庭に迷い込んでしまい、そこで、藤原基経に出会うのだが、というところなのだが、話の本筋は次巻へ続きます。

【レビュアーから一言】

美人の基準というのは、時代時代で変わっていて、今なら美人の典型の目がぱっちりで鼻筋が遠っていて、というのは江戸時代、平安時代では不美人と考えられていた、というのは有名な話。

この物語の舞台である平安時代は「ひき目かぎ鼻」が美人の条件であったようなのだが、藤原常行の好みは、この時代でも特殊なようで・・、ということで、彼が通う姫君の姿を見れば、美醜の基準のいい加減さを痛感する。

江戸時代では、初期は「色白・豊かで美しい黒髪・ふっくらとした丸顔」、江戸中期の明和の頃は「可憐・なで肩、柳腰・ちいさくぷっくりした唇」、その十年後の天明の頃は「長身で長い手足、細めでシャープな顔立ち・きりりとした眉・涼し気な目元」といったように、時代時代でがらっと変わってしまっているので、皆さんそれぞれに自信持って過ごしましょうや。

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