道真は、文徳天皇の母后の企みに巻き込まれる=灰原薬「応天の門」18

宇多天皇・醍醐天皇に寵愛されて政治の権を握ったのだが、藤原一門との政争に破れて太宰府に左遷され、死後、祟り神となって時の権力者である藤原時平ほか藤原四兄弟をとり殺したとされる「学問の神様」菅原道真と、平安時代きってのプレイボーイとして有名な在原業平の二人の活躍を描く『灰原薬「応天の門」(バンチコミックス)』シリーズの第18弾。

前巻で、現帝・清和帝の祖母で、文徳帝の母である五条后こと藤原順子の屋敷へ橋上での非礼を詫びに参上した伴善男の息子「中庸」だったのですが、藤原良房が政治の表舞台から退いたのをきっかけに再登場した「順子」に翻弄されるとも、彼女のある企みに利用され始めます。その企みに意図せずして、道真も巻き込まれることとなるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第九十七話 伴中庸、五条の屋敷に赴くこと 二
第九十八話 菅原道真、大学寮にて怪異を閲(けみ)すること 一
第九十九話 菅原道真、大学寮にて怪異を閲(けみ)すること 二
第百話   太皇太后、西三条第に宴すること 一
第百一話  太皇太后、西三条第に宴すること 二
番外編
宝塚観劇レポート

となっていて、冒頭では、藤原順子の屋敷に参上した伴中庸の後をおって、紀家の厄介者・紀豊城が乱入したところから始まります。

豊城は中庸の行動が不審で後をつけてきたのですが警護の侍たちにつかまり、検非違使へつきだされそうになっています。このままでは、父・伴善男に迷惑がかかると、豊城を自分の従者だとかばう中庸だったのですが、その時、偶然にも屋敷前に居合わせた在原業平と道真も屋敷内へ入ってきて・・という筋立てです。

この偶然で、在原業平は、藤原順子と藤原良相が新たに協力関係に立ったことに気づき、これが後半での彼女の謀略を察知するもととなります。

中盤では、大学寮の教官から、書倉でおきる「怪異」の正体をつきとめてくれ、と頼まれ、夜間の大学寮の書倉に泊まり込むこととなります。それは夜中にギシギシと床を鳴らして歩く音がし、さらに書簡がずりおちるというもので、書から怪が抜け出した、であるとか、大学寮を辞めさせられた学生の怨念だ、とか様々なうわさが飛び交っています。まあ、道真が見つけた「怪異」の正体は、ごく現実的なものであったのですが、彼がこうした雑事にかかわっているうちに、宮廷内では、五条后・藤原順子の企みが着々と進行していて、彼女がその企みを実行するために開く漢詩の宴に、在原業平の随伴として道真も出席することとなります。

当時最高の文明国「唐」に憧れを抱いている「道真」にとっては唐風の宴ときけば是が非でも出席したいイベントだったようですが、業平にとっては苦手な漢詩をつくらされて、ほかの貴族たちの酒の肴にされかねない厄介なイベントであったので、道真は格好の代役であったと思われます。

ただ、五条后が政権に復帰したことを弟の藤原良相が祝いの席を設けるという名目で開かれる今回の漢詩の宴には、なにやら思ってもみない企みが隠されているようで、その標的は、隠棲した藤原良房の義理の息子・藤原基経。そして仕掛けるのは、五条后・藤原順子その人で、手先となるのは人が好いため、完全に順子に篭絡されている伴中庸です。果たして、宴席で何が起きるのか・・といった展開です。

レビュアーの一言

今巻で、五条后・藤原順子が仕掛ける企みのおおもとの原因は、息子・文徳帝の急死です。

日本史では、「徳」の字が使われている諡号を持つ天皇は、生前、何かの恨みを抱いて死んだ天皇が多く、皇太子であった中大兄皇子に妃を奪われ、旧都で孤独死した孝徳天皇や、道教に皇位を譲ろうとして失敗し急死した称徳天皇、保元の乱で敗れ流罪となった崇徳天皇などがありますね。

一説には「聖徳太子」も、という話も。

文徳天皇がどんな恨みを抱いて亡くなったのかは、本書にも少し出ていますので探してみてくださいね。

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