女性警察官、特に本書の主人公のような県警でプロファイリングに携わる警察官は、佐藤青南さんの「楯岡絵麻」や、吉川英梨さんの「原麻希」のような、気が強くて、やり手のポリス・ウーマンがイメージされることは多いのだが、本シリーズの主人公・原田夏希は、三十をちょっとでた年齢の美人で、東京医科歯科大で医師資格をとり、筑波大学大学院で脳科学、神経科学を学んだという、高学歴女子である。そんな彼女が望むのは「幸せな結婚生活」ということなのだが、次々起こる事件は、そんな彼女の夢を叶えるはずもなく、事件捜査の最前線にかり出していく、といった筋立ての警察ものミステリーが、この「脳科学捜査官 真田夏希」シリーズである。
【構成と注目ポイント】
構成は
第一章 婚活!
第二章 アリシア
第三章 かもめ★百合
第四章 マシュマロボーイ
第五章 ジェノサイド
となっていて、まずは、主人公の真田夏希が「婚活」のため、「織田」というイケメンと横浜でデートをしているシーンからスタート。この主人公、婚活でいろんな「イイ男」と出会ってはいるのだが、彼女のハイレベルすぎる学歴と神奈川県警勤務の警察官といったところから、今まですべて不発に終わっている、というところである。
そして、そんな彼女が、今回のデートで訪れた「みなとみらい地区」の高層ビルの洒落たバーから見た、近くの空き地での「爆発」が事件のスタート。
この爆破事件の捜査本部に夏希が異例ながらプロファイラーとして呼ばれて、犯人像の推理に関与することになるのだが、捜査本部のお偉方をはじめ現場の捜査員まで歓迎していない、というのは、こういう設定のミステリーにおきまり。ただ、爆発物専門の警察犬のアリシアやその担当の小川、所轄の刑事・加藤といった現場の支持者はだんだんと出現してくるので、そこたは安心してください。
事件のほうはこの爆破事件の犯人を名乗る「マシュマロボーイ」という人物が現れて神奈川県警のHPやSNSに犯行宣言や爆破予告をしていくのだが、捜査本部のIT捜査担当捜査官を含め、彼に翻弄されっぱなしとなり、神奈川県警は、ネット民たちのからかいの対象となったりして、警察の権威はだだ下がりの状況となる。
この事態を重く見た本庁が「織田」という腕利きキャリアの理事官を派遣して捜査指揮をとらせるのだが、彼の採った作戦が、夏希をモデルにした県警の心理捜査官「かもめ★百合」という萌えキャラをつくって、犯人と直接SNSなどでやりとりさせて犯人をつきとめていこう、という展開となる。この「織田」という人物が、最初のシーンの夏希のデート相手であった、という設定ですね。もちろん、イケメンで頭脳明晰ではあるが警察権力の威信の保持が第一番というばりばりのキャリアとして描かれています。
そして、夏希と「マシュマロボーイ」とのやりとりが続く中、彼が「第三の犯行」のヒントに仕込んだフェイクに、夏希はじめ捜査本部はまんまとひっかかって、爆破現場にいた「ゲーマー」たちを危険にさらしてしまうのだが、「マシュマロボーイ」がゲーマーを揶揄した投稿をしたために、今までヒーローだった彼は一転して、ネット民たちの非難にさらされることに。
この非難の嵐に逆上した彼は「幸福に酔っている横浜市内の人間を・・・不幸のどん底に落とす」と宣言し、大掛かりな爆破を予告する。彼が、その爆破の舞台のヒントとして送ってきたのが、世界史上有名な4つのジェノサイド(虐殺)の写真なのだが、それに隠された謎は?、そして夏希たちは爆破を防ぐことができるか・・・といった筋立てで、詳細のところは原書でご確認くださいね。
主人公が高学歴に悩む、シェリー好きのドクターで、殺人の玄番は苦手という、軽ーいタッチの、心理捜査ミステリーで、テンポの速さもあって、さくさくと楽しめるミステリーに仕上がっています。
【レビュアーからひと言】
こうしたプロファイラーもの、心理捜査ものの面白さは、ミステリー本体の謎解きとあわせて、合間合間に挿入される心理学、脳科学のエピソードで、本書でも、夏希の最愛の祖母が突然死した時に、悲しみが即座に襲ってこず、仲の良かった従妹から「冷酷」な人物と思われて絶交状態となる原因となった「悲嘆の遅延」という現象や、ぼんやりしている状態は、実は人間は一番高度な思考をしている可能性があるという大脳の「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」の話など、あれこれ雑談に使えそうなTipsがでてくるので、そのあたりを中心にチェックしてみるのもいかもしれません。
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