スミスとタラスの旅はペルシャへ向かう ー 森薫「乙嫁語り 12」

19世紀の中央アジア、カスピ海の都市を舞台に、若い「夫婦」たちの暮らしを描く「乙嫁」シリーズの第12巻。前巻で、悲恋のまま離別してしまうのかな、と思われたところを一挙に持ち直して、一緒になったスミスとタラスのその後の旅の様子を中心に描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第78話 閑暇(前編)
第79話 閑暇(後編)
第80話 サモサ
第81話 髪
第82話 巡礼者
第83話 ペルシアの夜に
第84話 手紙
第85話 みんなで写真撮影
第86話 長いお付き合い

となっていて78話から81話までは、大きな事件もなく、このシリーズの主要な登場人物たちの、ある意味平穏な毎日の暮らしが描かれています。

第78話、第79話では河を渡ることできず、河近くの草原を散歩する「スミス」の回想

カルルクが草原のゲルで修行の暮らしを送っているので、留守番をして暇をもてあましているタミル

大嵐がきたせいで漁にでられず家の中に籠っているサーミとサーム、ライラとレイリの双子同士の夫婦、

ペルシアの大邸宅の中にシーリーンとアニス

第80話では暇を持て余しているタミルと嫁入りのために大量の裁縫をしないといけないのだが、全く気が載らないパリアとが、パリアの飼い猫・サモサと戯れている様子

や、カルルクの兄夫婦が夜中にいちゃついていると、息子のトイレに邪魔される様子

といった感じです。

この当時、この中央アジア地域では、ロシアが自勢力を伸ばそうと虎視眈々と兵力を送り込むことを狙っていますし、それを察知したイギリスやフランスなどの欧米列強もこれを警戒していて、それぞれが支援する勢力間でいつ武力衝突が起きてもおかしくない情勢なのですが、人々の暮らしはそうした政情に関係なく、「滔々」と流れていくのだよ、といった雰囲気を醸し出しています。

第81話で、ようやくスミス一行が河を渡ることができ、物語が動き始めます。河を渡った先の村で「聖地巡礼」から帰還した老人の無事を祝う宴に招待され、そのお礼もかねて、参加者の写真を撮ってやったりするのですが、関係者の喜ぶ様子に、「写真」が当時の最先端技術であったことを改めて感じますね。そして、その流れで、スミスはタラスに、彼が中央アジアに来て旅をしている理由を説明します。

まあ、彼の言うことは、当時の冒険家たちにありがちの、欧米の「博物学者」的な動機で、タラスにとっては理解できないことだったかもしれないですが、

といった感じで、二人の心がしっかりと通い合っている様子は微笑ましいですね。

第83話から、スミスとタラスの旅は、かつてスミスが世話になったアニスとシーリーンの旦那のすむ、中央アジアの古都・ペルシャへ到着します。ここで、二人の旦那さんの厚意に甘えて、数日間過ごすことになるのですが、ペルシャの大貿易商人の家なので、今までの旅とはうってかわって贅沢な毎日を過ごすことになるのですが、詳しく原書のほうで。

ここの読みどころは、習慣も風俗も違う、タラスとアニス・シーリーンたちがかわす会話なのですが、言葉のほうは、なんとか通じ合っている様子です。会話の様子は原書を読んでもらうとして、ここでは中央アジアの美女三人のお姿をお見せしておきますね。

このほかに、この家でのスミスとタラスの写真撮影のドタバタとか、スミス一行が立ち去った後、ペルシャの銭湯の女湯ではどんな話がかわされたか、ってなところもありますので、原書でお楽しみください。

【レビュアーからひと言】

このシリーズには珍しく、途中でスミスが生まれたイギリスの実家の様子がでてきます。彼の実家はロンドンのシティの中の高級住宅で、スミスの父は国会議員をしているようなので、かなり裕福な家であるようです。

ここで、彼の姪っ子と甥っ子が登場するのですが、彼らがどういう役回りになるのかは次巻以降のお楽しみですね。

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