サイコパスの研究が連続殺人を生み出す ー 吉川英梨「5グラムの殺意」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第2弾。

今巻では、少女買春組織がからむ犯罪かサイコパスによる殺人が捜査の方向ぶれまくる中、主人公である「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が「しばらく旅に出ます」というメールを送ってきたっきり、巻の途中まで行方不明になってしまうことと、女性班の捜査に、証拠を台無しにしたり、容疑者をライバル部署に引き渡してしまったり、と「残念なイケメン」として、これからの数巻にわたって、捜査の足を引っぱる鍋島巡査部長の登場がトピック。特に鍋島巡査部長の「大活躍ぶり」はとてつもないので、しっかりとその「残念なところ」を楽しんでください。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 不在
第二章 嘘
第三章 遺留品
第四章 敗北
第五章 追跡
第六章 死神
第七章 研究者

となっていてプロローグで、蓮田美由紀という女性が、訪ねてきた顔見知りらしい女性によって毒殺されるシーンからスタート。ここでの、とばしのケータイで連絡をとってきたところとか、犯行の際に、犯人の女性の「ー目覚めさせなくてはならないの」という発言のところは、本巻の謎解きに重要なキーとなるので、覚えておいてください。

事件のほうは「クラブ・シアマーナ」という店で、客の女の子が、同じく客として来店した少女によって、金属バットで撲殺するというのが第一の事件。犯行の方は金属バットで頭部を何度も殴るという残忍なもので、この犯人が落としたリップクリームに残っていた「口唇」から男性の皮膚片が検出され、捜査は「男性の犯行」ということで一旦進むのだが、これが捜査を撹乱するもとになります。もっとも、跡から読むと、犯人は捜査の撹乱を狙ってのものではないようなので、ここは捜査側の落ち度ということなんでしょう。

で、本筋の事件のほうは第一の少女撲殺事件だけではなく、最近おきた女子中学生の校舎屋上からの転落死や、路上での通り魔的な絞殺事件との関係性が明らかになり、連続殺人事件という様相を呈してきます。そして、第一の事件で殺された少女が売春組織に関わっていたことがわかり、この連続殺人事件も、その関連か・・といった感じで捜査が進むのですが、これもミスリード、と今回も男性捜査陣の失態が目立つ筋立てになってますね。

そして、捜査に復帰した「ハラマキ」は、今回の事件がサイコパスによるものではないかという疑いを抱き、事件の法則性を見出します。それは中学校の出席番号順に少女たちが犠牲になっているというもので、第四の事件を防ぐため、市内の中学校に警戒を呼びかけるのですが防ぐことができません。その犯行現場に出向いた「ハラマキ」は犯人らしい人物に遭遇するのですが、後ろから殴られて昏倒し逃してしまいます。さて、連続殺人鬼の正体は?そしてはんこ次なる犯行は・・・という展開です。

ここで謎解きのキーとなるのが、「ハラマキ」が不在なため、妊娠中で臨月の近い小暮圭子警部補と先述の鍋島巡査部長が二人組で捜査をしている途中に、発達障害の子供を抱えて、育児ノイローゼになっている女性・北村里美という女性に出会い、本筋の捜査とは別に、彼女の悩みの解決に関わっていくというところ。その過程で、子どもたちの育児の不安を解消するためのママ友サークルを主催する元精神科医で、今はレーザーによるがん治療のエキスパート医師である蕨野美花という女医さんに出会うのですが、この人が実は事件で重要な役割をしているので、注意して読んでおいてください。
ネタバレを少しすると、彼女の前歴がサイコパスの医学的特徴を研究している研究所出身というところと、サイコパスは眼窩皮質と扁桃体周辺の機能が乏しい、という説と、それぞれの事件の犯行現場に残されていたリップクリームをはじめとする遺留品ですね。

一見、サイコパスによる愉快犯的な連続事件と思わせる展開なのですが、実行犯はかなり意外な人物です。そしてそれ以上に、今回の連続殺人の本当の真犯人と考えるべきなのは誰なのか、悩み深い結末になってます。

【レビュアーから一言】

今回の事件の犯行の動機ともなる、赤ちゃんの誕生時と同じ重さに調整した「ウエィトベア」ですが、本書では、双子の姉妹が生まれたときに作成したものなのですが、結婚式のときに両親への贈り物として渡すという使い方もされているようです。自分たちが生まれたときの重さを味わってもらい、自分たちを初めて抱いたときの気持ちを思い出してもらうという趣向のようですが、こういうものを贈られた新婦のお父さんは、ますます娘が巣立っていく寂しさを感じて大泣きに輪をかけてしまうのでは、と思ってしまうのですが・・・

【関連記事】

陶芸家一家惨殺事件の原因は十数年前の隠ぺいであった ー 吉川英梨「警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希」

コメント

タイトルとURLをコピーしました