中央アジアの若夫婦・カルルクとアミルの物語始まる ー 森 薫「乙嫁語り 1」

19世紀の中央アジア、カスピ海周辺の都市を舞台にした物語が本書『森 薫「乙嫁語り 1」(エンターブレイン)』。中央アジアを舞台にしたマンガというのは、あまり見たことがない上に、当方は、風俗、民族ともに「中央アジア」といったところは皆目、無知であるので、異国情緒満載であることには間違いない。

【収録は】

第一話 乙嫁と聟花
第二話 お守り
第三話 騎行
第四話 アミルをかえせ
第五話 風邪

となっていて、第1巻の舞台は、カルルクの住む街がウズベキスタンのあたり、アミルの住んでいた村がカザフスタンのあたりの様子。

ウズベキスタンは、今は、金や石油の埋蔵が豊富で、この資源を使った経済発展も期待されているのだが、当時の産業は、遊牧とかオアシス貿易ぐらいなもんであろうか。しかもイスラム王朝をロシア政府が併合しようとしているところであろうから、実はかなり政情不安であったろうな、と推測する。
その割に、主人公たちの住む街が穏やかに見えるのは、嵐の前の静けさといった類であろうか。

一方のカザフスタンは、18世紀頃には、イスラム系ハン国が力を失って、部族国家の状態なっていたのをロシアが次々と服属させていたようであるから、カルルクの住んでいる街に比べると、民族への圧迫感は強かったのだろうな、と思う。
アミルやアミルの兄弟たちが、弓の手練であったり、馬を駆るのがうまかったり、と遊牧民の様子を色濃く残しているのは、部族国家の状態で、田舎度が強かったせいであろうか。

【あらすじ】

始まりは、12歳の花婿「カルルク・エイホン」のもとに、山を越えた遠くの村から20歳の花嫁「アミル・ハルガル」が嫁いでくるところから始まる。
たいがいの場合、花婿の方が年上であるのが常であるのだろうが、この話の場合は逆。その理由は第一巻では明らかにされておらず、次巻以降に待つというところか。

第一話は、嫁入り後、アミルがカルルクの一家に少しずつ溶け込んでいく話。
突然、狩りの準備を初めて兎狩りに行くアミルの姿と彼女の弓の腕前に驚くカルルク一家の姿が、双方がおずおずと親しんでいく姿が微笑ましい。

第二話は、カルルクの兄一家の末息子・ロステムが主人公。彼が、手伝いをさぼって、出かける近くの大工との話で、中央アジアの家事情とかが知れて、異国情緒をたっぷりと味あえる。手伝いをさぼったお仕置きに、食事を抜く罰を与えるが、あとで心配する母親の姿はどこも共通であるな。

第三話は、カルルクとアミル、二人して、遊牧している親戚のもとへ、刀の鞘を届ける話。
このカルルクたちは街の住民であるので固定の家に居住しているのだが、この遊牧民一家は当然、テントで暮らしている。二人で馬を駆ってプチ・旅行をしていることで、少々ぎこちなかった、カルルクとアミルの仲が近寄っていく姿は、なんとも古風な恋愛もののようでありますね。

第四話は、アミルの兄たちが、アミルの結婚を取り消して連れ戻そうと、カルルクの街へやってくる話。いざこざはあれこれあれど、カルルクの祖母の大刀自の武勇が光ります。もっとも、他の女性たちが弓が使えないところもみると、大刀自も、アミルと同じ部族の出身であろうか。
アミルを連れ戻す話は、すでに第一話のところで、アミルの一族の長老の相談で決まっている。アミルが嫁にいった経緯もなにやら曰くありげでありますね。

第五話は、遊牧をしている親戚・ウマクのもとから返ったカルルクが風邪を引いて高熱を出す。彼の容態を心配して、大騒ぎをする、アミルの天然ぶりが可愛らしい。

【まとめ】

第一巻の筋立ては、ほんとーに若い夫婦がゆっくりと愛情をつくっていく話なんであるが、その舞台がなじみのない中央アジアということで、なぜか、アラビアン・ナイトのような「御伽話」っぽい印象を醸し出しているのが、このコミックの魅力の一つですね。

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