一太郎の兄・松之助の縁談の行方は? ー 畠中恵「ちんぷんかん しゃばけ6」

祖母・ぎんが実は大妖「皮衣」で、その血筋のせいか妖怪の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第6弾が本書『畠中恵「ちんぷんかん」(新潮文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「鬼と子鬼」
「ちんぷんかん」
「男ぶり」
「今昔」
「はるがいくよ」

となっていて、第一話の「鬼と子鬼」は、長崎屋がある江戸日本橋の通町をおそった火事で煙を吸って意識を失い、袂にいれた「鳴家」と三途の川へ行ってしまった若だんなの話。三途の川といえば、死後四十九日を過ぎ、裁きが終わった死者がさしかかるところで、子供の時に死んでしまったものは、ここで供養のための塔を
建てては、鬼に崩され、というところで、これは本書でも同じである。ちょっと違うのは、不慮の死や貧しくて死んだために、三途の川の渡し賃六文をもっていない死者たちは数多くいるなかに、小遣いをたっぷりもった若だんな・一太郎が投げ込まれてあ、というところで、気前のいい彼が何をしでかすかは、まあ、想像のとおりですね。
そして、ここの河原で迷っている子どもたちと仲良くなって、連れてきてしまった「鳴家」をなんとか現世の戻そうと試みるのだが・・・といった展開。若だんなの人の良さが幸いする筋立てです。

第二話の「ちんぷんかん」は、妖を祓うことのできる寺として有名で、長崎屋も多額の寄付をしている広徳寺の妖退治の僧・寛朝の弟子・秋英のお話。秋英を一人前の妖祓いの僧にするために、師匠・寛朝は、彼が頼まれるお祓い話の一部を彼に手伝わせることにする。簡単なものを選ぶので、話を聞くだけでよい、と寛朝は言うのだが、一番目に引き受けた話が、和算指南をしている浪人ものの娘が、和算の本の中に出てくる男に惚れてしまい、本の中に取り込まそうになっている。なんとか、娘をこの男から引き離して普通の嫁入りをさせてくれ、と頼まれるのだが、このために、秋英はこの浪人者によって、本の「中」に放り込まれてしまい・・・、という展開。

第三話の「男ぶり」は、若だんなの母親の「おたえ」の若い頃の話。彼女は、祖母・ぎんこと大妖・皮衣の血を色濃く受け継いでいて、「人間」ながら「妖」が見えて、しかもかなりの「美人」である。当然、縁談も引く手あまたなのだが、そんな彼女が、長崎屋の奉公人で、そう美男子でもなかった藤兵衛(当時は藤吉)となぜ結婚したか、の秘密が明らかになる話。どうやら、その当時、藤吉以外に「おたえ」が憧れていた辰二郎という男性がいたのだが、彼が独立して店を構える資金をつくるため、彼の親戚の商家・水口屋で起きる「卵が家の中のあちこちに出現する」という謎解きの手助けをすることになる。その謎を解けば、感謝した水口屋が独立資金を融通してくれるはずだったのだが、「おたえ」が解き明かした謎は反対に水口屋の機嫌を損ねることになってしまう。それは一体・・・、という展開。

第四話の「今昔」は、若だんな・一太郎の腹違いの兄・松之助の縁談話。この松之助という人、とても遠慮深い人で、お家騒動の種にはけしてならない人なのだが、その分、一太郎は彼が早く嫁さんをもらって店を構えてほしい、と思っているという設定。そんな彼が見初めたのが、神社で会った米屋・玉乃屋の「お咲」という娘なのだが、縁談の相手は、彼女の姉の「おくら」のほう、というややこしいことになってしまっている。さらに、この「おくら」という娘に式神がついて・・・という展開である。この式神を操っているのが、玉乃屋に入り込んでいる陰陽師らしいのだが・・という筋立てです。

第五話の「はるがいくよ」は、長崎屋に最近植えられた桜の古木の花びらが化身した「小紅」という花びらの精のお話。彼女は、桜が満開になりそうになった頃に、突然、長崎屋の離れに「籠」に入って出現する。とても可愛い子なのだが、なんと、彼女はあっという間に成長して、数日すると、もう立派な娘にまで成長する。どうやら、桜の花の盛が寿命となっているらしく、もうしばらくすると消えてしまう運命らしい。彼女を、この世に残すにはどうしたらいいか、若だんなたちは知恵を絞るのだが・・、という展開。儚さに秘められた美しさを感じるお話です。

【レビュアーから一言】

この巻で、一太郎の兄・松之助の縁談も決まりそうで、もうしばらくすると、店を構えて独立しそうな雰囲気です。さらに、一太郎の幼馴染・菓子屋の栄吉も、実家を出て、他店で菓子修行をするという話が持ち上がってきていて、なにやら一太郎に親しい人たちが一太郎の拾遺から離れていく気配が濃厚になりつつあります。
となると、新しいキャストの登場など新展開が期待されるところなのですがどうでしょうか。

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