若だんな流の大当たりは「大外れ」と裏表 ー 畠中恵「おおあたり しゃばけ15」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第15弾が本書『畠中恵「おおあたり」(新潮文庫)』。

今巻は、自分にとって「やった当たりだ」と思えることは何だろう、という若だんなの悩みに答えるように、いろんな人の「大当たり」の物語が展開されます。たが「大当たり」というのは、良いことに「当たる」と同時に、悪いことも引き寄せてしまうようで、禍福が入り乱れる話が展開されることになります。

【構成と注目ポイント】

収録は

「おおあたり」
「長崎屋の怪談」
「はてはて」
「あいしょう」
「暁を覚えず」

となっていて、まず第一話は、若だんなの幼馴染の菓子職人・栄吉が思ってもみないヒット作をこしらえる話。栄吉はあいかわらず安野屋で菓子づくりの修行をしているのだが、一向に「餡づくり」の腕が上がらないという状態で、実家の菓子屋を継ぐといったことから程遠い状況が続いている。そして、いつも自分の作った菓子を長崎屋の若だんなと妖たちのところへ差し入れして恐怖を呼んでいるのだが、今回、まんじゅうの代わりにつくった辛味の「あられ」はとても美味で、若だんなのプロデュースで「辛あられ」と名付けて長崎屋から売り出すとあっという間に人気商品となる。ところが、これに目をつけた誰かが偽物を売り始め、これが粗悪品が多くて、本家の「辛あられ」の評判にもかかわってきて、長崎屋の評判にも影響している。早急に犯人を捕まえようと若だんなと妖たちが乗り出して・・、という展開。これに、栄吉の許嫁のお千夜に惚れた京都で料理屋をやっている紀助という商人が、千夜に惚れてしまい、栄吉がお千夜を早急に嫁に迎えないようなら、自分が嫁にほしいと言い出して、という話が絡んできて・・・という展開です。
いくら修行をしても上達しない餡づくりは諦めて、商売のマネジメントの才能とあられづくりの才能を活かせばいいんじゃないの、と思うのは当方だけでしょうか。

第二話の「長崎屋の怪談」は噺家の場久が語った、惚れた娘に付きまとわれる噺がきっかけで、現実の世界でも、誰かにつきまとわれるようになります。その追手が、娘ではなくて、「お武家」と「町人の男」で、場久にはまったく覚えがない、という筋立てです。一太郎たちは、長崎屋に出入りしている「日限の親分」に、場久を追っている男の正体を探ってほしいと頼むのですが、その親分も行方がわからなくなってしまいます。どうやら、親分は場久の高座を聞いていた岡っ引きの才蔵がなにか秘密を握っている、と調べていたらしいのですが、その才蔵も行方不明になっています。さて・・・、という展開ですね。

第三話の「はてはて」は、貧乏神の金次が、道端で男に突き当たって菓子を落とされたお詫びにもらった「富くじ」が巻き起こす騒動です。その富札は、増上寺が勧進元になっているもので、一つの富札を2つに割って販売されたものだったのですが、これが三百両の当たりくじろなります。ところが、本来なら二枚しかないはずの「割札」が三枚でてきた上に、長崎屋で母親の薬を買っている娘、金次に富札を渡した男から本来はその富くじをもらう約束をしていたと主張する茶屋の看板娘、金次の住んでいる長屋が属する町内の差配の女房の三人の女が自分にその当選金を分けてくれと、頼んできます。その三人の願いがどれもがトンデモな理由ばかりなのですが、これが発端で、割札が「三枚」になった理由につながっていきますね。

第四話の「あいしょう」は、一太郎の祖母の「おぎん」こと大妖の「皮衣」から、一太郎の世話をするよう頼まれた仁吉と佐助が、一太郎のもとへやっってきた頃の話。この話によるともともと、ふたりとも、一太郎の世話をするのは自分ひとりで十分と思っていたせいで、来たはなはそんなに仲が良いわけではなかったのですが、一太郎の誘拐事件をもとに意気投合したようですね。

最終話の「暁を覚えず」は、「たぶんねこ」の巻で知り合いになった大貞の親分が、知り合いの親分方を接待する手助けをすることになった、一太郎がその手伝いの日に寝込まないように、猫又からもらった薬を飲んだことが、親夫婦や兄夫婦の夫婦喧嘩を仲裁することに結びつく話。もっとも、
仲裁のきっかけになるのは、栄吉の「菓子」がいつもに増して「殺人的」な仕上がりであったことなので、彼の菓子作りの下手なことも再評価してもいいかもしれないですね。

【レビュアーから一言】

第三話ででてくる富くじの「割札」は、もともと江戸時代の富くじが一枚あたり、一分から二分(現在の価格で2万円~4万円)と高額であったため、一般の庶民が富くじを核手段として、ごく当たり前のやり方であったようですが、このお話のように2つに割っても1万円から2万円の値段なので、当時の庶民の代表格であった大工の年収が約27両(270万円)であったことを考えると、かなりの高額であったことには間違いないですね。
話の中で、茶屋の看板娘のお琴が「菓子の弁償代にしてはアコギだ」というのもあながち的外れではないのかもしれません。

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