妖たちは若だんなを失明の危機から救えるか? ー 畠中恵「ころころろ しゃばけ8」

祖母・ぎんが実は大妖「皮衣」で、その血筋のせいか妖怪の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第8弾が本書『畠中恵「ころころろ」(新潮文庫)』。

ひょんなことから、母親・おたえに似た娘を助けようと思ったために、失明の危機を迎えることになった若だんなを治療するため、仁吉・佐助といった兄やと鳴家をはじめとした妖たちが
奮闘するのが今巻。ただ、今巻でのトラブルメーカーは、人ならぬ「神様」なので、妖たちの神通力もどこまで通用するやら、といった懸念をはらむ筋立てである。

【収録と注目ポイント】

収録は

「はじめての」
「ほねぬすびと」
「ころころろ」
「けじあり」
「物語のつづき」

となっていて、まず第一話の「はじめてのでは、母親の眼病を治すために、「金、銀、真珠に、水晶、琥珀、瑠璃に瑪瑙」という「七宝」を集めようとする「沙衣」という娘を助けようと若だんながひと肌脱ぐところから開幕。たいていの場合、女性には奥手の若だんな・一太郎なのだが、この娘、母親の「おたえ」に面影が似ているというのだから、かなりの美人に」違いないですね。で、この七宝を集めようと焚き付けたのが母親のかかっている目医者で、彼の言うところでは、火事でお社が焼けた「品陀和気命」の神社を再建し、そこに七宝を奉納すれば、完治間違いなし、ということなのだが、いかにも怪しい話ですね。ただ、お沙衣を助けたいと思う一太郎は、怪しげな話であることは承知の上で、その七宝を入手する手助けをし、さらには目医者の悪巧みも打ち砕くことにして・・・という」展開です。

第二話の「ほねぬすびとでは、第一話の目医者の悪巧みを阻止したのだが、そのせいなのか、若だんなの目が急に見えなくなります。さらに、長崎屋のほうでは、西国の大名家から、地元で取れる魚の干物を、国元から江戸まで運んでくれ、という依頼がもちこまれます。ただ、この干物というのがかなり腐りやすいもので、大名家が何度かチャレンジするが、一回も成功しなかった、という難題です。浮世の義理で、この依頼を引き受けた長崎屋だったのですが、なんと今回は無事、干物を入れた籠を江戸まで船で輸送することに成功するのですが、船荷をあらためると、籠の中は空っぽ。さて干物の行方は・・という筋立てです。この謎を目の見えなくなった若だんなが解き明かすのですが、ここから先は原書のほうで。

第三話の「ころころろ」では、若だんなの目を治すために奔走をはじめた「仁吉」が、人形の妖「小ざさ」の母親さがしに巻き込まれる話。この娘は、母親を探しているのだが行方が全くわからず、探し出すのに長い年月が必要になりそうな気配。このため「河童を食べて悪鬼になって」長生きできる体質になりたい。河童のいるところを知っているので、そこへ連れていってくれ、という頼みである。で、その「河童がいるところ」というのが江戸市中の本所の回向院で開帳している見世物小屋で、そこには河童以外にろくろっ首や骨傘おばけはじめたくさんの妖怪が捕まって見世物にされているという状況である。この妖怪の解放も頼まれた仁吉と小ざさがそこへ向かう途中に、「妖」の姿が見える能力をもった男の子と出会ってしまい・・・、という展開である。若だんなの目を治療するための「玉」探しからどんどん違い方向へ誘導されていって、困り果てる仁吉の姿はいつもと違って珍しいですね。

第四話の「けじあり」はもうひとりの、兄やである佐助か、若だんなの目の治療をするため、怪異に巻き込まれる話。佐助が気がつくと自分が多喜屋という新店の主人となっていることに気づく。そばには女房らしき という女性もいて、彼女は最近、江戸に鬼が出没するようになったと怯えている。そんな彼女と、暮らしていくうちに、佐助は気がつくたびに店が大きくなり、従業員もいつの間にか増えていることに気づくのだが、そのうち店の近くに鬼が出没するようになり・・、という展開。佐助が、この女房「おたき」の空想の中に取り込まれているのでは、という推測が読んでいるうちにしてくるのだが、そのわけは最後のほうにならないとわからない構図となっている。推理をする唯一の手掛かりは、「けじあり」と書かれた紙が、佐吉の前に毎日出現することで、少々ネタバレすると「けじ」は「怪事」のことであるらしい。さて「怪事」とは・・・というところですね。

最終話の「物語のつづき」は、若だんなの目が見えなくなった原因をつくった生目神を、大きな瓶に薄紙を張り、その上に大きな「玉」を置くという人をくったような罠でつかまえて、若だんなの視力を取り戻す交渉をする話。ただ、この神様も素直に言うことをきくわけがなくて、彼と問答をして、答えることができたら目が見えるようにしてやろう、と言い出す。そしての、その問答というのが「桃太郎が鬼退治をして、帰還したあとはどうなったのか?」とか「浦島太郎が玉手箱を開けて白髪の老爺になった後、どうなったか?」といった奇妙なものだったのだが、それに対する答えもまたユニークですね。そして、最後のほうの神様と相思相愛の仲であった娘とが分かれてしまう経緯は、ペットを飼っている人だと実感できるものかもしれません。

【レビュアーからひと言】

一話目にでてくる品陀和命は日本史では「応身天皇」のことで、この応神天皇と藤原景清公とを祭神にしているのが宮崎市にある「生目神社」のようです。本書では、この生目神社の分社を再建するときにお供えした「玉」をちょろまかされたことが発端なのですが、その「生目神」が身長の小さな神様、とされているわけはちょっとわからないですね。日本神話の「一言主」か、アイヌ伝承の「コロポックル」にヒントを得た、筆者の発想でありましょうか。

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