初めての吉原で、若だんなは人助けをする ー 畠中恵「おまけのこ しゃばけ4」

祖母・ぎんが実は大妖「皮衣」で、その血筋のせいか妖怪の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第四弾が本書『畠中恵「おまけのこ」(新潮文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「こわい」
「畳紙」
「動く影」
「ありんすこく」
「おまけのこ」

となっていて、まず第一話の「こわい」は「孤者異」と書くらしいのだが、人にも妖にも交わらないし、嫌われるという、なんとも自分で自分が嫌になってしまうような存在なのだが、そんな「こわい」が、長崎屋の庭先にやってくる。彼は、自分の望みを叶えてくれたら、「職人」の腕が即座にあがって名人級になる、という薬をやる、というのだが・・・、という筋立て。
その薬を手に入れたいと、岡っ引きの日限の親分や、長崎屋出入りの左官の親方・力蔵や植木職人の万作たちが名乗りをあげる。そして、若だんなも、意欲はあるが腕がついてこない、幼馴染の菓子屋の若主人・栄吉のためにそれを手に入れようと名乗りをあげるのだが・・と展開していきます。栄吉のその薬を断る理由があっぱれなのだが、「こわい」の頑なな心が最後まで溶けないのが哀しいですね。

第二話の「畳紙」では、前巻の「花かんざし」で出演した於りんと彼女の叔父の許嫁・お雛が登場。彼女は、幼い時に両親と死別して、祖父母に育てられてきているのだが、大店をしっかり守っていってほしい祖父母からは厳しく育てられている。そのプレッシャーから、とんでもない厚化粧をするようになっている。そんな彼女が、若だんなの部屋にいつもいる「屏風のぞき」が彼女のもとにやってきて・・・という筋立て。
厳しいばかりと思っていた祖父母の心のうちが最後のほうで明らかになるあたりが泣かせますね。

第三話の「動く影」は、若だんな・一太郎と菓子屋の栄吉が親友となった経緯が語られる。それは一太郎が五つの頃、障子に映った影がふらふらと動き出す「影女」があちこちに出没するようになる。それは子供だけに見えて、そのため、びくびくして遊ぶようになってしまったのだが、子どもたち自ら、この影の正体を突き止めようと動き出す。一太郎は、近くに住む栄吉と組んで調べるのだが、一太郎がヘタバッてしまい、栄吉が単独行動となった後に行方がわからなくなって・・・という展開ですね。

第四話の「ありんすこく」は、若だんなには似合わない「吉原」での出来事。病弱のため外出することも稀なため、岡場所なんてのは行ったこともないのだが、父親で長崎屋の主人・籐兵衛が、世間を知っておくため、という理由で吉原へ連れていき、宴席を設けてくれる。その席で、なんと郭の楼主から、「禿」を足抜けさせてくれ、という依頼を受けることになる。その禿は病弱で、このまま女郎づとめをさせれば命にかかわるため、穏便の吉原から脱出させたい、ということであるらしい。
ここで発揮されるのが、若だんなの「妖」たちとのつきあい。猫又に仮装させて、吉原から外に出る「切手」を手にいて、その禿にわたすことに成功するのだが、禿を贔屓にしているなじみ客が突然やってきて、脱出を邪魔するのだが・・、という展開。
なじみ客に情報をリークしたのが誰か、というあたりが話の肝ですね。

最終話の「おまけのこ」は、長崎屋の中庭でおきた、櫛職人の八介が何者かに殴られて昏倒しているところからスタート。この八介は、天城屋という大店が、娘の婚礼用の櫛を飾り付ける大粒の真珠の調達を長崎屋に頼んでいるのだが、その真珠をはめ込む櫛の製作を請け負っているのが「八介」という設定。この真珠の披露を、長崎屋の座敷内でするのだが、鳴家たちがそれをみて「お月様」だと大騒ぎし始める。ところが、その真珠を、八介が持ち出し、中庭にいる人物に渡そうとする。鳴家たちは、それを阻止しようと、真珠の入った袋を奪い取るが、強風にあおられて空に舞い上がり・・・、という展開です。

【レビュアーから一言】

「しゃばけ」シリーズも4巻目となると、いろいろとこれから活躍しそうな登場人物も増えてきますね。一太郎の幼馴染の菓子屋の栄吉は、若だんなにこれからも菓子を差し入れてくるでしょうから定番なのでしょうが、当方的には「於りん」あたりが、結構、重要な狂言まわしとなってくるんじゃないかと思うのですがいかがでしょうか。

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