父親・藤兵衛を薬物中毒から救え ー 畠中恵「とるとだす しゃばけ16」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第16弾が本書『畠中恵「とるとだす」(新潮文庫)』。

本巻では、長崎屋の主・籐兵衛が薬害で長く寝ついてしまう事態が発生し、彼の回復に向けて、若だんな・一太郎と妖たちが大奮闘する展開です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「とるとだす」
「しんのいみ」
「ばけねこつき」
「長崎屋の主人が死んだ」
「ふろうふし」

となって、まず第一話の「とるとだす」では、長崎屋のへ現当主・藤兵衛が意識を失ってしまう、という事態が勃発します。若だんな・一太郎は仁吉や佐助に見守られていても、商売のほうはほとんど関わっていなくて、藤兵衛が店の経営を一手に担っているので、ここで藤兵衛に万が一のことがあると、長崎屋自体が危なくなるわけですね。
事の発端は妖封じで有名な広徳寺の寛朝が、薬種問屋を集めて会合を催した席で、何かの薬湯を飲んで昏倒してしまったのだが、その薬を飲ましたのは誰で、その目的は、といったところが今話の謎解き。そこには、江戸で扱われている薬を事前に検査して統制する「和薬改会所」の再設置の話が絡んでいるようで・・・、といった展開です。まあ、なんとか藤兵衛の命のほうは助かるのでご安心を。

第二話の「しんのいみ」は、若だんな・一太郎が江戸湾に出現した「蜃気楼」の中に取り込まれてしまってのプチ冒険譚です。一太郎は、第一話で意識不明の重体となってしまった父親・籐兵衛の体調を本復させるため、蜃気楼の幻の中に入って「枕返し」という妖を探そうとしています。この枕返しが、人が眠っている時の頭にあてている枕を返すと、事がひっくり返る、と言われている妖怪で、悪くすると体につながっている魂も裏返ってしまって体から離れて命を落とすこともある、という物騒な妖怪なのですが、一太郎は、藤兵衛の枕を返して、飲んでしまった薬を吐き出させようという計画です。しかし、蜃気楼の中にいると物忘れが激しくなってしまうので、長い期間滞在すると、何もかも忘れてしまうことになるので、時間との勝負になるのですが・・・、という展開です。

第三話の「ばけねこつき」では、中屋の「おりん」という許嫁がいるのを承知で、染物屋の大店・小東屋が、若だんなに娘・お糸を嫁にしてほしいと押しかけてきます。なんでも、そのお糸とう娘さんはキレイ女性なのですが一回目の縁談の時に、相手の男から「化け猫憑き」だという噂を流されてしまい、それ以後縁談がまとまらないという境遇です。なんとか、娘の縁談をまとめたい小東屋は、もし若だんなが嫁にもらってくれたら、家に伝わる秘伝の毒消し薬「明朗散」の製法を持参金にプラスする、という条件を出してきます。当主・籐兵衛の体調がまだ戻らない長崎屋には魅力的な話なのですが、なにか裏がありそうで・・・という展開。少しネタバレすると、忠実そうな番頭が曲者ですね。

第四話の「長崎屋の主人が死んだ」では、「狂骨」という妖怪が長崎屋に出現します。その妖は長崎屋の庭先に「骸骨が、人の影をまとっているような、奇妙な見てくれ」で「一応、黒っぽい衣を身に着けていたが、血も肉も、その身に付いていないかのよう」な姿で突然現れ、「この屋の主は、死なねばならん」という不吉な呪いをかけていきます。長崎屋の主人といえば、籐兵衛です。彼が恨みをかうとは思えませんが、このままでは狂骨に取り殺されてしまうのでは、と若だんなたちがそれを阻止しちょうと動き始めます。そして、どうやら狂骨の正体が、寛永寺の僧侶で、吉原の遊女と懇ろになってしまった男であることをつきとめるのですが・・・、という展開。狂骨になった男の、見当外れの「恨み」で振り回される感じですね。

最終話の「ふろうふし」は、完全回復になかなかならない藤兵衛を心配した、女房の「おたえ」が江戸中に神社仏閣に大量のお供えをしたことのお礼に、大黒天が教えてくれたことが巻き起こす騒動です。大根天が言うのは、籐兵衛が完全に治るには、「常世の国」にいる、医薬やまじないを司る少彦奈という神様に聞いたら、妙薬をくれるかもしれない、ということで、早速、若だんなが、常世の国へ出かけることを決意します。ところがたどり着いたのが、常世の国ならぬ神田明神の神社で、そこで小さな神様が侍たちに追われているのを助けることになります。神様によると、常世の国の住民である「島子」が吉原の遊郭に好きな人ができ、その人の病気を治すため、永遠の命を与える非時香果(ときじくのかくのこのみ)を持ち出して、江戸に来ているということで、それを取り返すことができたら、一太郎たちの望みを叶えてやる、ということなのですが・・・、という展開。くれぐれも「島子」という名前にごまかされてはいけませんね。

【レビュアーから一言】

今巻は、蜃気楼の主の「蛟」、枕返し、化け猫、狂骨、大黒天と少彦名命、と、ひさびさに妖や神様がたくさん登場する巻です。それぞれどんな姿をしているかは、水木しげるさんの「妖怪大百科」や「日本妖怪大全」あたりで調べてみてくださいな。

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