「ゆとり世代」のパフォーマンスを引き出す方策はこれ ー 原晋・原田曜平「力を引き出す」

力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方 (講談社+α新書)

青山学院大学に箱根駅伝優勝をもたらしたメンバーを育て上げた大学駅伝界の名監督・原晋氏と、若者研究所を主宰して、若者の意識研究、トレンド研究ではマーケティング業界だけでなう、日本で有数の論者・原田曜三氏による、「ゆとり世代」といわれる世代についての対談集が本書『原晋・原田曜平「力を引き出すー「ゆとり世代」の伸ばし方」(講談社+α新書)』

とかく「理解不能」な世代として扱われる「ゆとり世代」なんであるが、これから日本の社会の中心を占め、リーダとなってくる世代であるのは間違いなく、「最近の若者は・・」という口癖の当方も含めた「中高年世代」は特に押さえておくべき本ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 強いチームのつくり方
第2章 自分の学生時代、いまのゆとり世代
第3章 目標設定とコミュニケーション
第4章 成長を促す仕組み
第5章 ゆとり世代に対する大人たちへ

となっていて、本書の基本的なスタンスは、いわゆる若者の流行分析やトレンド論ではなく、人手不足が深刻化し、とはいうものの外国人労働者も思うように採用できない、日本の中小企業の多くにとって

そうした状況下、多くの日本の企業や組織にとって、きちんとゆとり世代を理解し、彼らに選んでもらえる組織になること、そして、数の少ない彼らが活躍できるように彼らを育成することが、「最大の経営戦略」になってくる可能性もあります。

ということで、マーケティング戦略ではなく、若者の採用戦略、人事戦略のベクトルで読んだ方がよい。

その意味で、

若者の価値観やライフスタイルが大きく変貌を遂げているのだから、企業が自分たちが若者を調べたくなったそのタイミングで彼らを調査し始めるというのは、あまりに自社都合が過ぎるし、表面的で刹那的過ぎます。本当に若者に長期的にモノを売りたいなら、ふだんから彼らをどっぷり調査しないといけないし、常に「若者都合」「若者目線」でいないといけません。日本が「超高齢社会」になっていることもあり、こうした「若者と心中する覚悟」を持った企業は大変少ない

という原田氏の指摘は、いつもは「だから、ゆとり世代は・・」と揶揄しながら、都合がいいときだけすり寄る企業の態度を、厳しく批判しているので、ここらは特に気を付けておかないといけないところ。

そして、「若者」に密接に接している度合いが、日本で有数である原晋氏、原田曜三氏の指摘する若者の特徴は

いまの日本は若い世代でも、すごく効率重視になってきているところがある。リスクが少なくて失敗が少なくて正解にすぐに直結することが大事だという傾向が、過剰に強まり過ぎている気がします。

いまの学生たちは中学生の時からSNSと接して生きてきた「SNSネイティブ」ですから、「いいね!」を周りから貰うことによる自己承認欲求が強くなっているのかもしれませんね。

であったり、

私たちの世代と比べてどう違うかというと、いくつかの点ではやはり違いはあります。たとえば表面的なことに関しては、他人と合わせる傾向が強くなってきている

ということであるようなので、企業の人事担当者は他の世代に接するときとは、ちょっと違う対応が求められるのかもしれません。ただ、高齢者などを活用するにせよ、これからの企業活動の幹のところは彼らに任せていかないといけない時代がくるのは間違いないので。ここは正面から取り組むべきなんでありましょう。そこのところは、原田氏の

企業は採用時に輝いている学生を採用したがり、中長期的に輝く人材を採用していないように思います。なぜなら、未来のことはわからないから、その人材が本当に伸びるかわからないし、人事とて、自分がいま評価を受けたいからです。五年後、一〇年後は自分が人事にいるかさえわかりませんしね。だから、のちのち伸びる可能性がある「自分の言葉」を持つ若者を日本の企業は採用していないケースも多いと思います。

と人事担当者の肝の据わり具合に対する批判は、人事担当者だけでなく経営者もしっかりと受けとめなければなりませんね。
もっとも、原監督が「理想の上司像」を聞かれた時の

明るい上司のほうが良いと思いますね。常に前向きに答えて、前向きに捉えてくれる上司。それで失敗をしたときに真剣に怒ってくれて、最終的には励ましてくれる上司。そしてある程度、基本ができるようになったら部下に任せてくれる上司、というのが理想の上司じゃないですかね。
ダメなのはその反対で暗い上司、本質的なところの議論ではなく、枝葉ばかりで議論する上司。権限を与えない上司

という回答を読むと、時代が変わっても、普遍のものはあるようなので念のため。

【レビュアーからひと言】

「ゆとり世代」の若者論からちょっと離れて、原田曜三氏が、フランスの若者にインタビューした際のエピソードの紹介がある」。フランスは女性の社会進出の度合いがはるかに日本より進んでいて、収入も女性と男性と変わらない、デートの時のお勘定は「割り勘」というお国柄なのだが、

いまどきのフランス女子は感覚として、彼氏が自分より給料が高いほうがいいという感覚も少ない。じゃあ、どういう男がいいのって訊くと、「ビジュアル」以外ないという(笑)

ということのようで、日本の若い男性たちが、化粧品や美白に気を遣う度合いが増えている状況は、日本の「フランス化」を予見しているのかもしれませんね。

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