中国・明時代の「大航海時代」が幕開け ー 星野之宣「海帝 1」

コロンブス・マゼランといったヨーロッパの大航海時代の百年以上前、アジアの大国・明の三代皇帝・永楽帝から第五代・宣徳帝の時代にかけて、7回のわたって派遣された明の大艦隊の指揮をとって、アフリカまで到達した、異色の宦官「鄭和」の大航海を描いたのが本シリーズ『星野之宣「海帝」(ビッグコミック)』。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1話 日本へ
第2話 海神
第3話 燕賊簒位
第4話 約束
第5話 黒市党
第6話 交渉
第7話 道連れ
第8話 脱出

となっていて、まずは、日本の室町幕府の第三代将軍。足利義満に「日本国王」の印綬を授けるために、来日するところからスタート。宦官というと、中国の王朝の中で、陰謀によって秦王朝の実質支配を企んだ「趙高」とか、三国志で悪役を演じる「十常侍)じゅうじょうじ)」といったのが思い浮かぶので、陰湿で否定的なイメージがつきまとうのだが、本シリーズの主人公・鄭和は

といった大男の剛の者として描かれていて、まあ、宦官らしくない設定ですね。

まあ、こうでなければ、明艦隊の司令官として7回の大航海を行うなんてことはできないでしょうね。もちろん、この渡日のあたりは作者の仕込んだフィクションだと思われるのだが、この日本への航海を通じて、鄭和の船を襲った倭寇の一味である子供を助けることがきっかけで、「倭寇」との関係を構築させたり、

鄭和の航海に付き従うように姿をあらわす「大鮫」を登場させるるあたりが、作者の仕掛けのうまいところでありますね。

そして物語のほうは、日本からの帰国後、永楽帝の門前で、彼の恐怖政治を批判したにもかかわらず、60隻以上の船で組織される「宝船」船団の指揮をとって、南海諸国からの朝貢貿易を促す計画の指揮をとるよう命じられることになります。
この計画は、もともと鄭和が提案した政策であったようなのですが、彼が提案した裏には、永楽帝が皇帝位を奪った、先代の皇帝・建文帝親娘を亡命させるという目的が隠されていた・・・という「歴史秘話」的な展開をさせていきます。

もっとも、この宝船船団の建造と大航海の目的は
①西の大帝国を築いた「ティムール帝国」の牽制
②明建国の時に滅ぼされた水軍の残党を、大航海に派遣してまとめて片付けた
といった理由とならんで
③永楽帝が皇帝位を握ったときに攻め滅ぼした建文帝の生死が定かでなく、南海のほうに逃げたという噂もあり、その真偽をたしかめるため

といったこともあるようなので、あながち「大嘘」とも思わせない設定となってます。

さて、この艦隊に建文帝を密かに載せて密出国させることができるのか、という展開となるのですが、詳しくは原書の報で確認をしてくださいね。

【レビュアーから一言】

このシリーズでは、鄭和の艦隊の影の協力者として、倭寇という海賊になってはいるのですが、肥前松浦水軍の末裔の「射馬一族」が彼の秘密部隊として活躍する役割が与えられています。

ただ、松浦水軍の本筋ではなく、巻中に出てくる話では、何かの戦乱の生き残りのようなのですが、ここらはまだはっきりとはしない書きぶりです。2巻以降の展開の中で、この倭寇たちの秘密もなにか意味をもってくるのでしょうか。

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