中国史きっての暴虐女帝が出世の階段を登り始める=園沙那絵「レッドムーダン」1〜2【ネタバレあり】

7世紀松から8世紀初頭にかけて、東アジアの大国であった「大唐帝国」の皇帝となり、中国史上唯一の女帝として君臨した「武則天(則天武后)」が故郷で貧窮した生活から後宮にあがり、宮廷内でのし上がっていく姿を描いた、中華成り上がり歴史コミックシリーズ『園沙那絵「レッドムーダン」(ヤングジャンプコミックス)』の第1弾から第2弾。

今回は故郷井州から唐王朝の後宮に上がり、最下級の妃嬪である「才人」を振り出しにのし上がっていくところが描かれています。

あらすじと注目ポイント

第1巻 「黄金の龍」の後押しで武照は後宮にあがる

第1巻の構成は

第1話 武照と躑
第2話 いざ後宮へ
第3話 楊淑姫
第4話 洗礼

となっていて、冒頭は中国井州の「文水」というところで武氏の本家を継いでいる義兄からこき使われている「武照」の姿から始まります。井州は、現在の北京の西のほうにある「山西省」にあって、マンガの描写で想像する限り、山岳地帯の貧しそうなところですね。もともと、武照の生家は唐代の門閥貴族の中では傍系であったものの金持ちであったので、主人公の武照が幼い頃はお嬢様暮らしをしていたようですが、父が早逝してからは、実家を継いだ異母兄・武元爽から召使のようにこき使われていたようです。

後に武照が権力を握ってから、彼女によって配流された上に毒殺(?)されるという目にあってます。

前半部分では、小汚い様子をしていた武照が、近くを巡行してきていた後宮の宦官・殷国請の目にとまり、後宮入りをすることになります。殷国請という人はネットではヒットしないのですが、内侍省勤めで鄭賢妃付きということなので、皇帝の子供を産んでいない妃からちょっと距離をおいて、宮廷内の勢力争いに勝ち抜けるため、美人を探していたというところなのでしょう。

そして、女性同士の嫉妬と権勢争いの陰謀渦巻く後宮入りに悩む武照なのですが、母親の病死をきっかけにその「魔窟」へ飛び込む決心をします。それを後押ししたのは、自死しようとやってきた崖の上で見た「黄金の龍」です。龍は「後宮は美しい女たちが集い、競い合う場所」でその中で勝ち抜けば「黄金の龍の如く、天空まで昇ることができる」と武照を鼓舞するのですが、こと予言は実は「後宮内」での戦いでの勝利だけを意味していなかったのは歴史が証明していることですね。

そして、決意を胸に都・長安入りした武照なのですが、後宮で遭遇したのは、勢力ある実家もなく、財産もない下っ端妃に対する、先輩妃のいじめです。さらに、武照は、この時期権勢を振るっていた楊淑妃の誕生日祝いの席で、不始末をしでかした宮女をかばい、楊淑妃の「服へのこだわり」をディスったことから、かばった宮女は処刑の上酒漬け、その酒を楊淑妃とともに乾杯して呑み干すという仕打ちをうけることとなります。

第2巻 武照は、皇帝用の布づくり選抜試験で同僚の妨害をはねのける

第2巻の構成は

第5話 后妃のしごと
第6話 鄭賢妃
第7話 義姉妹の契り
第8話 品評会の行方①
第9話 品評会の行方②
第10話 絹の道 后妃の道
第11話 罪と罰

となっていて、前巻の後半で、自らがかばった宮女が処刑され、彼女を漬け込んだ酒を呑まされた上に鞭打ちの仕置をうけた武照だったのですが、傷の回復もまだなうちに後宮での勤めに駆り出されます。彼女の地位は後宮内の后妃の中での最下級に位置する序列40位の才人であったため、先輩才人・諮茉莉たちから宮中内の雑用を押し付けられます。いいつけられた仕事を懸命にこなす武照なのですが、先輩才人たちの嫌がらせはエスカレートして・・ということで、まさに現代の「イジメ」の構造そのものですね。

この武照を救ったのが同じ才人仲間の「徐恵」です。黒真珠の盗難の疑いをかけられ、線香による虐待をうけようとしている武照を救うのですが、これが元で二人の間で義姉妹の契を結ぶこととなります。ここから、二人の快進撃が始まるわけで、ここらは定番のサクセス・ストーリーの始まりです。

そのきっかけとなったのが鄭賢妃による、皇帝が西域遠征から帰還する際に着用する服をつくる「布」作成のコンクールです。このあたりは作者のフィクションが入ってるかもしれないですが、宮廷内の工房につくらせず、未来の后候補である女性たちの才覚をみるという、後宮を采配している鄭賢妃の一種の選抜試験だと思われます。

そして、この試験に対し、田舎育ちの武照は、嫌がらせで自室に放り込まれていた「蚕」をつかって徐恵とあることを企むのですが・・といった展開です。

ここで少しネタバレしておくと、武照から作品を盗取しようとした諮茉莉は、そのお嬢様育ちのために墓穴を掘り、鄭賢妃によって罰房送りとなっています。その後の状況は詳しく語られていないのですが、深窓の令嬢であった「諮茉莉」にとっておそらくは耐え難いものであったろうな、と想像するところです。

レビュアーのおまけ

第1巻で武照に対し、ひどい仕打ちをする楊淑妃なのですが、彼女が前王朝「隋」の二代皇帝・煬帝の娘であったことは史実で、隋王朝滅亡後、秦王であった李世民のもとへ入内し、二人の男の子をもうけています。李世民にとっては、前王朝の姫君を側室にしたわけで、日本史でいうと浅井家の姫君で織田の血筋の「茶々」を側室にした豊臣秀吉のような感じでしょうか。

ただ、子供の李恪が三代皇帝となった高宗との政治抗争に敗れ処刑されたせいか、太宗・李世民と同じ陵には埋葬されておらず、墓の位置も不明になっています。一説には、息子が謀反の疑いで処刑された時に、出家させられたのではとう話もあります。

ついでにいうと、太宗・李世民が寵愛して、一時、長孫皇后亡き後の皇后候補となった巣王妃楊氏はこの楊淑妃とは別人のようです。こちらの楊氏は武照の母・楊氏とはいとこ同士で、武照が後宮いりしたのは巣王妃楊氏の縁をたどって、という説もあるようです。

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