一太郎の前世をめぐって「妖」は大騒動 ー 畠中恵「むすびつき しゃばけ17」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第17弾が本書『畠中恵「むすびつき」(新潮文庫)』。

はじめのほうの「序」のところで、一太郎、仁吉、佐助、寛朝、屏風のぞきたちが、湯豆腐の鍋を語りながら語り始めたのが、「我が身の前世」の話、ということで、一太郎をはじめ、人の前世と生まれ変わりが今巻を通じて流れるテーマとなってます。

【構成と注目ポイント】

構成は

「序」
「昔会った人」
「ひと月半」
「むすびつき」
「くわれる」
「こわいものなし」
「終」

となっていて、まず第一話の「昔会った人」は、妖封じで有名な広徳寺の僧・寛朝が武家から預かった「碧い宝玉」にまつわる話。その「玉」はすでに付喪神化していて、「若」という言葉をつぶやいている。もちろん、若だんな・一太郎と関係しているかどうかはわからないのだが、長崎屋の面々なら謎を解いてくれるかも、といったかなりいい加減な動機で若だんなたちを呼び出したもんであるらしい。ところが、偶然、若だんなについて寺へやってきていた貧乏神の金次が、二百年以上前、彼が日本のあちことを人を貧乏にしながら放浪していた時に出会った気がする、と言い出して・・・という展開です。
話のほとんどは、金次の当時の思い出話なのですが、最後のほうで、突然、一太郎との関係が飛び出してくるのでお見逃しなく。

第二話の「ひと月半」は、箱根に湯治に言ったきり一ヶ月半以上も長崎屋に帰ってこない、一太郎、仁吉、佐助の留守におきた出来事です。彼らの留守に、「自分は死神だ」と名乗る三人の「妖」たちが長崎屋を訪ねてきます。そして、彼らは自分こそが箱根で事故にあって死んでしまった若だんな
・一太郎の生まれ変わりだ、と主張するのですが・・・、という展開です。病弱な一太郎はいないので、死神の出番はないように思えるのですが長崎屋にやってきた本当の理由と、果たして一太郎の生まれ代わりなのか・・・、といった筋立てですね。

第三話の「むすびつき」は鈴の付喪神である「鈴彦姫」の依代の「鈴」が祀られている神社でおきる騒動。彼女は、その神社の神主で、一太郎の生まれ変わる前の人物では、と思える神主がいた、と告白します。雰囲気的には、その神主にちょっと惚れている感じですね。ただ、その神主・星之倉宮司は金の細工ものがうまく、収入の少ないその神社の経営を支えていたらしいのですが、急な病で死んでしまいます。ところが、その死後、星之倉宮司が扱っていた金細工に使う「金」がなくなってしまい・・・、という展開で、その失くなった「金」の在り処を探し出すのに、若だんな・一太郎が推理をめぐらす筋立てですね。

第四話の「くわれる」では、三百年前に当時、「若さん」と言われていた一太郎と出会って、相談事があればいつでも頼ってこい、と言われた、と主張する娘「もみじ」が現れます。もちろん、三百年前というぐらいなので「人」ではなく「妖」、しかも場合によっては人を食ってしまう「鬼女」です。その彼女がいうことには、親から嫌な縁談を押し付けられたために家出してきたとのこと。そして、どうせ結婚するなら「若さん」と無理難題をいってくるのも問題なのですが、家出の手伝いに、その縁談の相手の「鬼」が「もみじ」が心配でついてきている、という妙な展開になっています。
さらに、「もみじ」と一太郎の許嫁・おりんが何者かに誘拐されるという事件も勃発し・・・という展開です。

最終話の「こわいものなし」では猫又の「おしろ」の知り合いの「ダンゴ」という猫又の飼い主の笹女さんのお隣に住んでいる「夕介」という青物売りの男が主人公です。彼は「人は生まれ変わる」という噂が本当かどうか確かめるために、猫又がいる長崎屋にやってきたのですが、輪廻・転生の話を教えるのを面倒がった仁吉たちは、彼を広徳寺の寛朝和尚のところへつれていきます。寛朝にその役目を押し付けようというわけですね。ところが、寛朝は、彼の弟子が住職をしている寺と、その隣にある神社の諍いに巻き込まれていて、広徳寺はその諍いが巻き起こす怪異で大騒動となっています。そして、この騒動に巻き込まれて、夕介が命を落としてしまうことになるのですが・・・といった展開です、。

【レビュアーから一言】

第四話の「くわれる」では、餡づくりの修行をしている栄吉が、安野屋での修行を切り上げて、実家で修行しては、という話が持ち上がっています。
栄吉の腕が一向に上達しないこともあるのでしょうが、彼は餡づくりは駄目でも、前巻までの「辛あられ」とか今巻での「甘辛味噌団子」とか、「辛味」系のヒット商品の開発にかけてはかなりの才能を示している上に、材料管理などの製造管理の才能も示しています。師匠として菓子作りを教えている安野屋としては、見どころのない「甘い餡」がそろそろ諦めて、大化けが期待できる方向に進んでは、ということで、これはこれで説得力のある話なのですが、さて次巻以降、どう展開するか楽しみなところでありますね。

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