伽古屋圭一「からくり探偵・百栗柿三郎」ー 大正ロマンの時代の名探偵と元気いっぱい助手、登場。

激動の事件が多い「明治時代」と「昭和時代」に挟まれて、印象的には薄い感じがするのだが、「大正デモクラシー」や「大正ロマン」という時代を象徴する言葉に代表されるように、なにかしら「華やいだ感じがする「大正時代」を舞台に繰り広げられるミステリー群の一つである「からくり探偵・百栗柿三郎」シリーズの初弾。

【構成と注目ポイント】

構成は
 
序章
第一話 人造人間(ホムンクルス)の殺意
 幕間ノ一
第二話 あるべき死体
 幕間ノ二
第三話 揺れる陽炎
 幕間ノ三
第四話 惨劇に消えた少女
 終章

となっていて、まず第一話の「人造人間(ホムンクルス)の殺意」は、このシリーズの探偵役・百栗柿三郎の女中兼おしかけ助手となる「千代」が巻き込まれた事件を解決する話。

彼女は、真壁達巳という博士の屋敷に奉公していたのだが、彼は、三人の助手とともに日夜、地下に籠もって実験と研究に没頭しているという暮らし方をしている人物。その博士が、地下室で椅子に腰掛けたまま、首を締められて殺されているのが発見されます。
そして、その博士のを殺したかのように、部屋のなかにあった「ホムンクルス」の標本の入った瓶から博士の死体のあった椅子まで、這ったような濡れた跡が残っていて、さらにホムンクルスは、裏庭の藪で凶器の紐をもった状態で発見される、という怪奇な仕立て。
もっとも、当時の警察も怪奇譚で片付けるはずもなく、博士殺しの犯人として疑われた「千代」の濡れぎぬを、彼女の依頼を受けて、百栗が晴らすはずなのだが、なんと真犯人は「千代」だと警察の前で宣言し・・といったビックリの展開です。

第二話の「あるべき死体」は、助手の千代が買い物帰りの隅田川のほとりで、バラバラ死体を発見する、という事件。その死体の主は、化粧品の製造と販売をてがける会社の創業者兼社長で、死体がみつかる前日から行方不明になっていたのだが、彼は人格者で篤志家で有名で恨んでいる人物はいない上に、会社や商売でのトラブルもなく犯人の目処は立たない。そして、被害者は誰かに家から誘拐されたのではなく、自分で窓から忍びでたことがわかり謎はさらに深まることに。
さらに、このバラバラ殺人とおなじようなシチューエーションの事件がおきるのだが、その被害者の女性と第一の事件の被害者が銀座で会食をしていたことがわかる。この二人には、自動車には絶対乗らないということと、銭湯に行くなど人前で裸になることがない、という共通点があるのだが・・・という筋立てです。

第三話の「揺れる陽炎」は、新興の怪しげな教団に入ったまま、行方不明になった男性の捜索をする話。捜索をするために、体験入会のイベントに出席するのですが、引いたカードのマークをあてたり、火がついた箱から脱出するといったマジックが、入会希望者に見せる「秘技」とされているなんとも微笑ましいのですが、行方不明者は、この秘技の不始末の犠牲者ですね。教団の主宰が、「果心居士の子孫」と名乗るのが時代ものっぽくてよいですね。

第四話は、疾走してしまった質屋の音塚家の娘・玉緒の捜索です。彼女は行方不明になった夜、友人・八重の家に外泊するのですが、夜の十一時頃、連れ立って玉緒の家へ向かいます。彼女が特製の「白粉」をもっているので見せてあげるという話になったようですね。しかし、家につくと、蔵の中に横たわる2つの血まみれの死体を発見します。驚いた二人が必死に逃げ出すのですが、自宅にたどり着いた八重が玉緒の家に戻ってみると死体は消えていた上に、玉緒もその時から行方不明になってしまいます。
そして、百栗のところへ、玉緒の遠い親戚の依頼されたという男が、玉緒の行方を探してほしい、と訪ねてくるのですが、という展開です。この話で、百栗が「探偵事務所」を開業した理由が明らかになりますね。

序章、幕間のところは、関東大震災で倒壊した「百栗」宅の掘り起こしのシーンが続きます。どうやら、この大震災で、百栗の助手の「千代」が行方不明になっている気配があるのですが、種明かしは本書で。

【レビュアーから一言】

本書では、指紋とか警察犬とか、現在の事件捜査でも使われている手法が、最新鋭の、まだ日本の警察では導入されていない技法として紹介され、百栗が使ってみる場面が登場します。まあ、犯人を見つけ出す決め手というより、フェイクっぽい使い方をされることが多いのですが、新技術のデビューはいつもこんな感じだったのかもしれません。

からくり探偵・百栗柿三郎 (実業之日本社文庫)
“よろず探偵 人探しも承り” キテレツ発明家の名推理!! 大正時代の浅草。町の̆...

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