美女は美味いランチで「謎」を解く ー 水生大海「ランチ探偵」

住宅メーカーの大仏ホーム本社の経理部に勤務するスタイル抜群の正統派美人の「阿久津麗子」を語り手に、童顔で可愛らしい容姿ながら、観察力鋭い推理オタクで、少々空気の読めない「天野ゆいか」を探偵役に、ランチ合コンをする相手がもらす数々の謎を解き明かしていく、お気楽系ミステリー・シリーズの第1弾が『水生大海「ランチ探偵」(実業之日本社文庫)』である。

この作品は、麗子役を「トリンドル玲奈」、ゆいか役を「山本美月」を主演に読売テレビで「ランチ合コン探偵〜恋とグルメと謎解き〜」という題名でドラマ化されているものの原作ですね。二人のファンの方はそちらの方もどうぞ。

【構成と注目ポイント】

構成は

MENU0
MENU1 アラビアータのような刺激を
MENU2 金曜日の美女はお弁当がお好き
MENU3 午後二時すぎのスーパーヒーロー
MENU4 帝王は地球に優しい
MENU5 窓の向こうの動物園
MENU6 ダイヤモンドは永遠に

となっていて、まず最初の「MENU0」はこのシリーズの幕開け的な滑り出し。麗子が朝きたメールを見てから上の空で、仕事が手につかない様子を見て、彼氏との別れ話がもちあがっていることを見抜くところからスタートするのだが、このときの「ゆいか」の

はい。わたしは観察しただけです、女の勘といっても、女性がみな持っているわけではありませうう。問題は観察力です。・・・もっとも男性と女性の脳には違いがあり、脳梁という・・

といった発言を見れば、可愛らしい童顔ながら、どういうタイプの女性化はわかりますね。

第二話の「アラビアータのような刺激を」のランチ合コンのお相手は「食品会社」の社員で、場所はイタリアンレストラン。謎解きは、彼らの務める会社のビルのエレベーターが、誰もいないはずなのに、夜中に屋上に毎晩移動する、というもの。実は、その会社の社員がそのビルの屋上から飛び降り自殺をしていて、その原因となったと噂された上司を恨んでのこと、という噂になっているのだが・・、という展開。パワハラがあったかどうか、ではなく、パワハラの話を誰が広めたか、とそのビルのエレベーターを操作できるのは誰、というのが鍵になります。

第三話の「金曜日の美女はお弁当がお好き」の合コンのお相手は、会社近くの公園に出店している移動販売車のオーナー・楢崎と彼の友人の焼き鳥屋の息子。たいていの場合、こういうパターンはスタイルはいいが、料理の腕は・・ということが多いのだが、今回の場合は二人共腕は確かである。ただ、その腕の良さが謎になっていて、楢崎の店に、金曜日になるとやってきて、20食分のおかずを買う美女の正体。彼女は楢崎が師匠と仰ぐ料理人の味を求めてやってきているらしいのだがごはんとおかずの容器を分けてくれとか注文が多い・・、という展開である。後半に楢崎と師匠との諍いも判明してきて混迷を深めますね。

第四話の「午後二時すぎのスーパーヒーロー」は、満員電車で麗子がストールを引っ掛けるというトラブルをきっかけに近づいてくるストーカーっぽい男性との合コン。キモとなるのは、彼の連れのエリート意識が鼻につく大手銀行員の有名人自慢を凹ませるところですね。

第五話の「帝王は地球に優しい」のお相手は、麗子が友達の結婚式で目をつけた電機メーカーの社員。ただ、彼にはすでに彼女がいることが判明し、謎解きは彼がつれてきたちょっと冴えない同僚・稲生の失恋話の謎と彼の双子の弟・直也夫婦の離婚の危機を救う話。彼は猫カフェの店員に恋をしたのだが、彼女の「うちの子は保母さんに預けるから」という言葉に、父親になる自信がなくて諦めたというのだが、彼女の言葉の本当の意味は・・・という展開。愛犬家、愛猫家ならすぐわかるかもしれません。もうひとつの謎解きは、彼の弟の妻が「帝王は地球に優しい」という言葉をメモに残して失踪してしまった、という話。直也の妻は彼に似合わない美女なのだが、その出会いは本屋でお互いの買った本を取り違えてしまった、という映画っぽい仕立て。そこに何か秘密が隠されていて、この結婚自体に陰謀が隠されているのでは・・と疑惑が広がるのだが、という展開。

第六話の「窓の向こうの動物園」は、麗子の同僚が婚活で知り合った塾講師・勝俣と花見の場所取りで一緒にいる間に、彼が喋った近所のアパートの一室の出窓に毎日、違ったぬいぐるみが飾られている、という話の謎。ただ、ここ数日、ぬいぐるみが「ゴリラ」のままで変わらないのだが・・・というもの。最近の子供の痛ましい事件を見聞きしている人はピンとくるかもしれません。

第七話の「ダイヤモンドは永遠に」は、麗子の元彼の先輩が持ち込んでくる謎。彼は最近、妻と離婚したのだが、婚約指輪を元妻が盗んだのでは、という疑惑を抱いているというもの。というのも、離婚から半年も経過してから突然、元妻が、自分の買ったDVDが残っていないかと家に訪ねてくる。そして、彼女が帰った後、ケースにしまっておいたはずの指輪が失くなっているという筋立てです。

どの話でも、ランチを食べている間に、「ゆいか」の頭脳が着々と動き、「すべての構図が見えました」と謎を解き明かすところには妙な爽快感がありますので、山本美月ファンでない方にもオススメですよ。

【レビュアーから一言】

「ゆいか」の冷静な推理もさることながら、特筆スべきは、ランチ合コンで登場するランチたちで、たとえば、MENU1のイタリア料理の「ミルフィオリ」という店で、彼女たちが食べるのは

雲丹 のクリームパスタと、ポルチーニ 茸 のファルファーレが運ばれてきた。カルボナーラとペンネ・アラビアータも続く。麗子の選んだファルファーレは、 蝶 のような形のパスタだ。ソースはクリーム系で、パスタで絡めとって口に運ぶと、濃厚な香りがいっぱいに広がる

といった旨そうなランチを毎話ごとに食べるという羨ましい設定。こういうランチがいただけるなら、合コンの出来はどうでもよくなるかもしれませんね。

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