梅婕妤の突然死で孫延明は冤罪死の危機に陥る=小野はるか「後宮の検屍女官」4・5

架空の中華の国「大光帝国」の後宮を舞台に、かつては前途有望な官吏であったのが、冤罪によって宮刑を受けた中宮付きの美貌の宦官・孫延明が、もとは皇帝の寵姫の侍女だったのが、後宮内の事件解決に関わったため機織りの閑職へ左遷され、暇さえあればぐうたらと居眠りをしつつも検屍となるととんでもない才能を発揮する女官・姫桃花とともに、後宮内でおきる怪異な事件の謎や冤罪を晴らしていく、中華後宮屍ミステリー『小野はるか「後宮の検屍女官」(角川文庫)』シリーズの第4弾と第5弾

前巻までで、許皇后とその息子の皇太子の失脚を狙う、現在の寵妃・梅婕妤とその側近たちによる陰謀が現実化してくるなか、第4巻でその最終決着がみられます。さらに第5巻では、皇后vs婕妤の権力闘争に決着がついた後、主人公「桃花」も異動し、新章へと進んでいきます。

あらすじと注目ポイント

第4巻 陰謀の中心「梅婕妤」急死の真犯人を暴け

第4巻の構成は


第一章 巫蠱の禍
第二章 毒と仙薬
第三章 動かしがたいもの

となっていて、冒頭では、帝の寵妃である「梅婕妤」に巫蠱の術をかけた、という容疑で、宮中の牢獄の中に投獄された点青と孫延明の姿から始まります。

もともとは、不審死が相次いでいた後宮三区から皇后が梅婕妤を呪った呪具が発見されたというもので、その呪ぐすべてに皇后の花押が推してあったというもので、この事件が、皇后を陥れるために梅婕妤派が仕掛けたもので、おそらくその証拠としてこれから梅婕妤が体調の不調を訴え始めるはずと考えた孫延明は、それを阻止するため、友人の太医令・夏陀とともに昭陽殿へ向かうのですが、そこでみたのは、宮殿内の池の中にある岩の上で倒れている梅婕妤で、という筋立てです。

これから本格的な権力闘争が始まろうか、というときにその悪役を務めるべき「梅婕妤」が突然の死を迎えてしまう中、彼女の謀殺の首謀者として延名たちが逮捕され、皇后の廃位の話も出始め、さらに、皇太子も近隣の村の住民から暴虐を受けたという訴えがあって蟄居を命じられ、と展開していきます。

権力を狙う中心となる悪役不在の中、殺しの犯人は誰、その目的は・・というところですね。

そして、獄中にとらわれた延明は、この殺人の犯人が殺された当人ではないかということ、つまり、皇后と皇太子を廃して、わが子を皇太子位につけることを狙った「梅婕妤」当人ではなかったか、と推理します。

この推理の裏付けのため、延明と連絡をとりあった物語の主人公である居眠り女官・姫桃花が捜査と梅婕妤の死体の検屍を行うのですが、彼女が到達した結論はもっと驚くべきことで・・という展開です。

第5巻 桃花は梅婕妤の遺児担当に異動し、延明の検屍依頼も増加する

第5巻の構成は

第一章 凶器の名
第二章 全裸の女
第三章 剣屍可能

の三篇。

前巻で、皇后と延明の使える皇太子の失脚を狙っていた「梅婕妤」が急死し、彼女の死をめぐる陰謀がばれ、宮廷内の梅婕妤派と実家の三公の一人であった梅一族が粛清され、皇太子や延明たちの権力基盤もひとまず盤石というところです。

第一話、その慰労もかねて、延明は腐刑を受けてから訪れていなかった生まれ故郷を訪ねています。宦官という刑は文化文物をいやというほど中国から取り入れていた日本が取り入れてこなかったものの一つなのですが、中国特有の「孝」という観念も、日本で通常想像するものと違っていることがこの話の冒頭でわかります。

で、故郷にしばらく滞在した後、京師へ帰ろうとした延明は帰路に皇太子と出会い、彼のお忍びの視察につきあうことになります。それは、「梅婕妤」巫蠱事件と時を同じくして起きた皇太子の村人への虚偽の暴虐事件を訴え出た「水望」という村の視察です。
この隠密の視察で、延明と皇太子は、皇太子誣告の首謀者の息子の変死事件に遭遇することとなり・・とという展開です。

見晴らしのよい城外にある畠の真ん中で、あちこちに刺し傷があり、大腿部に大きな切創がある状態で被害者は絶命しているのが発見されたもので、これは被害者の父親が皇太子誣告の首謀者で、共犯者として村人にも多くの処刑者がでたことを逆恨みしての犯行かと思われたのですが・・という展開です。

今話は物語の主人公・姫桃花は宮廷内にいて推理の主役は孫延明となります。

第二話では再び舞台は宮廷内に還り、変死人のよくでる因縁の区画「十二区」で、人の行き来の少ないはずれにある植え込みの陰から、全裸で強度に全身硬直し、四肢を投げ出して仰臥した状態の女性の変死体が発見されます。周辺に衣服はなく、体つきからして女官かと思われるのですが、臀部や髪に糞尿がついていた、という「臭い」状況です。

延明の配下による検死では、死に至る傷や、出血、打撲の痕跡は発見されず、死因が皆目わからない状態で・・という筋立てです。

行方不明の女官を捜査すると、この被害者が、「梅婕妤」に仕えていて「織室」に左遷された女官で、彼女と対食関係にあった(恋人関係にあった)宦官が、同じように左遷され、現在は宮廷内の下水処理と溝さらいを担当する「浄軍」という部署にいることがわかったのですが、そこは死体が発見された「十二区」とは距離が離れていて、当日は一応のアリバイが成立していて・・という展開です。

第三話では同じく浄軍近くの下水処理場の水場の近くで、腐乱状態となった死体が発見されます。延明の部下の検死では、腐乱がひどく性別も何もわからなかったのですが、ここで、検屍女官・桃花の技術が最大限に発揮され、骨の状態にした死体から犯行の状況を明らかにしていきます。

さらに、この女官の遺留物を探すため、浄軍の近くに積み上げられている堆肥の中から新たな死体も発見されて・・という展開ですね。

ちなみに、今話から、桃花と彼女の仲良し・才里は、梅婕妤の生んだ三番目の蒼皇子へ、もう一人の同僚・紅子は新しい妃候補のところへ異動になってますし、新たな「敵」となりそうな「魚中常侍」という高位の老宦官が登場しています。

レビュアーの一言

第3巻と第4巻の物語の端っこのほうで、この皇太子の名前が「劉演」であること、さらに、この光帝国の周辺には遊牧民族の「匈奴」が勢力をもっていて略奪行為を働いていること、などがわかります。
で、勝手のこの物語の想定モデルを考えてみたわけですが、「婕妤」という宮廷の后妃の職名や、「巫蠱」が相当流行していること、皇太子が実母の皇后に頭が上がらないことなどと総合して考えると、即位当時は母の竇太后に頭があがらなかったものの、死後は親政を始め、匈奴を打ち破って前漢最大の版図をつくりあげた「武帝」の皇太子時代では、と想像するところです。

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