新型コロナウィルスの感染拡大で、私たちの生活様式も、働き方の様式も、大きく影響を受け、普通なら十数年かかる変化が、いっときにやってきているのが「今」という時代です。
その大きな波に揉まれて、古い働き方論が役に立たないのはわかっているが、新しいものが何なのか見当もつかない、といった人も多いのではないでしょうか。そんなあなたに、NTTドコモのiモードの立ち上げを皮切りの多くの企業の「デジタル」に関わり、現在は海外でリモートワークをしながら、日本のデジタル化の方向性についてトピックな論述を展開している筆者が、生き方の「新しい羅針盤」を提供しているのが本書『尾原和啓「あえて数字からおりる働き方」(SBクリエイティブ)』です。
【構成と注目ポイント】
構成は
序章 「組織から個人」の時代に本当に必要なこと
第1章 「ギブ」を仕事の基本にする
第2章 オンラインで自然につながりをつくる僕の方法
第3章 オンラインファーストの時代に自分の武器を見つける
第4章 変化の中で自分らしい生き方を設計する
第5章 対談「自分の価値」の見つけ方
前田裕二氏×尾原和啓氏
となっていて、まず基本的な立ち位置として、昭和の働き方や成功モデルが瓦解していき、「数」や「お金」の量を競う価値観が揺らいでいるとともに、ネットで誰もが高速学習できノウハウを得ることができる状況の到来によって自分の今までの「役に立つ」スキルが効力を失いつつある、ということがあります。この状況認識の中で、AIが生活の中に浸透し、ネットワークで隅々まで結ばれる時代の、私たちの働き方や生き方の方向性の提案書のところにフォーカスして読んでみます。
まず、本書で提案されるのは「ギブ」という概念です。「ギブ」の中でも筆者が重要視しているのは「相手の視点に立って、自分の外側にあるモノに自分の思いを乗せてギブすること」ということで、僕は、相手が必要と思うであろうこと、役に立つであろうことを、自分の持っている知識や経験だけでなく外の情報も含めて探し出し、加工して提供すこと、というように読み解きました。この考え方や情報やアドバイスの提供によって、相手にとって「意味のある存在」になろう、ということですね。
このへんはアダム・グラント氏の「GIVE&TAKE」の理論と共通するところがあるような気がします。
で、このとき必要となるのが
①常に物事を偏見や先入観で見ず、前提条件を疑い、ゼロベースで考える
②そのうえで「これはどうしてだろう・」と疑問を持ち、ひたすらぐるぐると考え続ける
という「地頭力」をあげるトレーニングであり、少数のデータから紀方法で特徴の仮説を出し、その仮説に基づいて小さな演繹法で他のグループに転用することで、仮説を検証する、という「アブダクション」のスキルであるようです。(ちなみに「帰納法」による思考法を鍛えるには「メモをとること」が有効だそうです)
で、「ギブすること」が、これからのビジネスや生き方の中で大事なことはわかったところで、何を「ギブ」するのか、ということなのですが、それが自分の「スキ」なことであるのが一番良いのは間違いなく、筆者はこのあたりについて第3章、第4章のところで詳述しています。
ここで、注目すべきは、よくあるアドバイス本より深掘りして、「好きなこと探し」の方法も提供されていることでしょう。多くの人は自分の価値としてギブできる「好きなこと」と言われても悩んでしまうことが多いと思うですが、このへんについて「努力の娯楽化ができているものを探す」であったり、「潜在スキルを見つけるBBQ理論」「好きなことを見つける4つの起業家メソッド」など具体的で役立つ手法が紹介されています。
このほか、「ネットの中での人脈の作り方」や「ライフワークとライスワークの考え方」など、オンラインの中で生活し、ビジネスを展開している筆者の思考法の基礎の部分についても解説されているので詳しくは原書で。
【レビュアーからひと言】
相手を信頼してギブすることが基本と聞くと、ついついそんなに初手から信用してもいいものか、といった疑念が湧くと思うのですが、筆者によると「日本人の相手を信頼することがヘタ」なところが現れていて、そのため、自分の一番強いところで誰かと組めない原因ともなっているようです。
僕が知る限り、年齢や肩書に関係なく、グローバル規模で活躍する人たちは、”ギブによって積み重ねられた信頼の輪の中で、加速度的に成長している”という大きな特徴を持っているように思います。
変化の時代ではスピードが命なので、「人を疑うこと」さえ、足枷になってしまうのです。・・・相手の言っていることをいちいち疑って、検証するために細かく確認をとっていたら、時間とコストばかりかかってしまって、あっという間に先を越されてしまいます。つまりはじめから相手を信じてしまった方が、圧倒的に早くアウトプットを出すことができるのです。
ということのようなので、まずは筆者を信頼して「ギブすること」を始めてみてはいかがでしょうか
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