テレワーク時代の「新しい働き方」とはー尾原和啓・山口周「仮想空間シフト」

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新型コロナウィルスが世界中に広がったため、突然テレワークが導入されたり働き方から暮らし方まで、今まで「リアル」であることが当然とされていた世界が大きく変動したのは記憶に新しいところでしょう。特に、この変化はビジネスの世界だけでなく、フツーの人の「暮らし」「働き方」にも大きく影響しているのが特徴的です。
この変化はいつまで続くのか、どこまで広がるのか、誰しも不安にかられるところがあるのですが、そんな疑問に答えてくれるとともに、「アフターデジタル」「テレワーク」の時代の最適な生き方・働き方をアドバイスしてくれるのが、本書『尾原和啓・山口周「仮想空間シフトー誰もが「知の高速道路」に乗れる時代」(MDN新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は
序章 仮想空間シフトがもたらす未来図
第一章 仕事が変わると暮らしが変わる
第二章 人間と社会が変わる
第三章 人生が変わる
第四章 国家や行政が変わる
第五章 これからの世界を生き抜く10のアクション
終章 「何者かへ」のなり方が変わる

となっていて、第1章から第4章までが、「afterコロナ」「withコロナ」の時代の変化についての考察、第5章がそれを受けてどうふるまっていくかのアドバイスとなってます。

◇テレワーク時代に働き方・暮らしはどう変わっていくか◇

最初に押さえておかないといけないのが、今回の「新型コロナ」によって生活や仕事の環境がゴロっと変わった部分があるのですが、これは

尾原>つまり新型コロナウィルスという未知の脅威によって全く新しい社会に変化した、というわけではなく、もともといずれはそうなるはずだった未来の姿に、少し早く強制的に進化させられた

ということで、全く新しい波が突然やってきたということではなく「仮想空間へのシフト」は今までの変化のベクトルの中でとらえるべきという点ですね。もちろん、 

山口>脳みその場所を動かすときというのはそれ相応の理由が必要になります。インターネットという仮想空間では、素材の出触りやその場所の匂い、食べ物の味覚といった身体感覚を伴う情報はやりとりできませんから、それが必要なときだけ物理的に動く。そうでないときは仮想空間で十分だ、となっていくはずです。

というようなドラスティックな変化が今後当たり前になってくるのでしょうが、それも

「仕事→暮らし→社会→人生→国家(社会)という段階変化が考えられるうちに、今はまだ仕事の変化が顕在化した段階

ということで、もっと大きな「物理空間から仮想空間へのシフト」による変化がやってくる、と考えたほうがよさそうです。

そして、その変化の中身は、例えば仕事の面では、会議や商談をテレワークでバーチャルにやる仕事のテクニカルな場面にとどまらす、「仮想空間における仕事はオーケストラ型からジャズ型に変わる」といった仕事のスタイルにも大きく関わる変化なので、波の大きさを見誤らないようにしないといけないですね。

とはいうものの、では今までのものを全否定しておけばよいかというとそうでもなくて、ひところ「シェアリング」が流行語になったとき、「車を所有する時代は終わった」的な論調が増えたのですが、

尾原>中国では「やっぱり車は持っておこう」と」いう流れが生まれています。移動で使える個室という車の持つ個性が新型コロナウィルスの状況下で見直されてのですが。それもただ保有するだけでなく、使わない時は人に貸すことで保有コストを下げていく、という考え方とセットです。

ということであるらしいので、くれぐれもステロタイプな発想や考え方に陥るとまずいようですね。このへんは「テレワーク全盛」で「afterコロナ」で「地方の時代到来」「地方への移住がどんどん増える」といった論調が多くなっていて、本書でも「リゾートワーカー」の可能性といった点も言及されているのですが、当方的に考えると、地方であればどこでもいい的に移住イベントをバンバンやって人集めという旧来の発想ではなくて、「仮想空間シフト」をしっかり見据えた、他拠点居住、デジタル的な居住を含めた戦略を行政関係者はきちっと練ったほうがいいと思いますよ。

◇テレワーク時代の働く現場はどう変わる◇

こうした社会変化、意識変化を受けて、では働く現場はどうなるか、ということなのですが。

尾原>やりがいのある仕事を求めている人はめちゃくちゃいるのに、それを供給している企業が少ない、と
山口>そういうことになりますよね。「やりがいのある仕事」を供給できれば、仮に報酬は普通だったとしても労働力はめちゃくちゃ集まるし、生産性はとてつもなく高くなるはずなんです

ということであるので、今まで給料とか「物理的な条件」で人を引き寄せてきた企業の採用戦略も変えないとマズいようですね。より「精神性」が求められるようになりそうなので、ここは企業理念含めた根本的な点検がいるところもでてきそうです。さらには、

尾原>仮想空間では空気が読みづらい、という問題がより顕在化してくるのは来年度以降ではないかと思います。

といった、リモートワークの「負の部分」も表に浮かび上がっていきそうなので、企業の人事労務担当はあらかじめ準備しておいたほうがよさそうです。

そして、働く側へは

山口>そういう意味では、是非「Early Majority」(アーリー・マジョリティ:前期追随者)を目指してほしいですね。前にも語りましたが、キャズム理論ではまず「イノベータ―」(革新者)や「アーリーアダプター」(初期採用者)という人たちがテクノロジーを使いこなします。
今の時代で言えば、すでに仮想空間で生産性を大きく上げている落合陽一さんみたいな方々ですね。そしてその次にくるのはアーリーマジョリティ(実利主義や)でこの人たちはイノベーターやアーーリーアダプターほどではないですが、十分に変化の恩恵を受ける人です。

というアドバイスがされてますので、ご参考までに。

◇afterコロナ時代の行動指針◇

こうした「変化の認識」を基礎にして、本書では次の10項目の行動指針がアドバイスされてます。それは

①境界性領域をつくる
②ナメすぎず、ビビりすぎない
③アジェンダを設定する
④仕事に意味合いを作る
⑤共感できる人と組む
⑥ライスワークとライフワーク、リスクとリターンのバランスをとる
⑦問題提起に敏感になる
⑧問題にきちんと向き合う
⑨階段のステップを小さくする
⑩変化を前向きに受け入れよう

ということなのですが、具体的なサジェッションをPickupすると、

仮想空間によって移動の時間がなくなるということは、極論すればすべての時間が価値を生むアウトプットの時間になる、移動と言う埋没コストのない超高稼働率社会がやってくる。
つまり、その会議のために時間をとられると、それは全面的に参加者にとっての「機会費用」になるということです。そういう時代になって、「会議は通常1時間だから1時間やろう」という考え方は非常識になってしまいます。

という「仮想空間シフト」の中での「会議」の在り様であったり、

デジタルの世界というのは問題を解決することには向いていますが、そもそもの問題を思いつくことには実は向いていません。
ではどうすれば問題提起に敏感になることができるのか。重要なのは非調和的なものを生活に取り入れるということです

という日々働く上での仕事へのアプローチの仕方であったりがアドバイスされているのですが、究極のところは

まずはできることから始めてみるのが重要です。
短期間で大きな変化をしよう、完璧な姿になろう、と考えるとどうしても行動力が鈍ってしまいます。重要なのは小さな変化でいいと思うことで、行動力を高めることです。

というところであるので、「まずはやってみましょう」ということのようですね。

さらに、第五章では筆者のおススメの学習本が掲載されているので、興味をひいたものを読んでいくというのも、筆者の思想をより深く理解する手段として有効なように思います。

【レビュアーからひと言】

こうした様々な変化がどんどんと始まっていくのか、というと案外にそうでもないところがあって、

山口>新しいテクノロジーとかプラットフォームが生まれた時、人はそれがまだよくわからないうちは、古い文化や風習をそのままかぶせて使ってしまうんです。

という懸念は示されてます。たしかにテレワークにしても、感染が一段落したと見るや旧来の働き方にそっくり戻そうという動きがあったり、テレワークでもオフィスワークのような職場管理をしようとしたりといった現象も生じたことは周知のことで、「革命→反・革命→反・反・革命→反・反・反・革命→・・・」という繰り返しは政治だけでなく、社会の変化についてもあてはまるようですが、おそらくこの「仮想空間シフト」の流れはスピードの問題はあっても、基本は否応なしに進んでいくと思います。問題なのは

尾原>ミレニアル以下の世代はそもそも仮想ファースト。一方で七〇代以上の高齢者は、現状は疑似仮想空間ともいえるようなところで生きていて、可能であればインタラクティブな仮想空間へと移行したい。
仮想空間シフトがうまくできないリアルファースト世代は実は四六~七〇歳くらいまでの世代だけなのに、実際にはその世代が一番社会のルールを作る力を持っているせいでレギュレーションディバイドが生まれているのが真の問題点。

であるようなので、リアルファースト世代はいざ時代が大変化した時に泡を食わないよう気を付けましょう。

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