リアルがオンラインに包含される社会でどう行動するかー藤井保文「アフターデジタル2」

2019年に出版された「アフターデジタル」で紹介されていた、中国系企業を中心としたアフターデジタルの動きを時点修正するとともに、前著では概論・総論を中心として述べられていた「日本企業へのアドバイス」が深掘りされた第一作の続編が本書『藤井保文「アフターデジタル2 UXと自由」(日経BP社)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

まえがきーアフターデジタル社会をつくる、UXとDXの旗手へ
第1章 世界中に進むアフターデジタル化
1-1 アフタデジタル概論
1-2 アジアに学ぶスーパーアプリ
1-3 寮から質に転換した2019年の中国
1-4 インドに見る「サービスとしての政府」
1-5 米国から押し寄せるD2Cの潮流
1-6 日本社会、変化の兆し
第2章 アフターデジタル型産業構造の生き抜き方
2-1 変化する産業構造への対応
2-2 決済プラットフォーマーの存在意義
2-3 「売らないメーカー」の脅威
2-4 アフターデジタル潮流の裏をかく
2-5 「価値の再定義」が成否を分ける
第3章 誤解だらけのアフターデジタル
3-1 日本はアフターデジタル型産業構造になるか?
3-2 来るOMO、来ないOMO
3-3 「デジタル注力」の落とし穴
3-4 データエコシステムとデータ売買の幻想
3-5 個社で持つデータにこそ意味がある
3-6 DXの目的は「新たなUXの提供」
第4章 UXインテリジェンスー今私たちが持つべき精神とケイパビリティ
4-1 より良い未来、社会をつくっていくための提起
4-2 人がその時々で自分らしいUXを選べる社会へ
4-3 UXと自由の精神 企業のDXが社会をアップデートする
4-4 UXインテリジェンスの企業家精神
4-5 UXインテリジェンスの全体構造
4-6 UXインテリジェンスの基礎ケイパビリティーユーザーの置かれた状況を理解する
4-7 UXインテリジェンスのケイパビリティ1ービジネス構築のためのUX企画力
4-8 UXインテリジェンス2ーグロースチーム運用のためのUX企画力
第5章 日本企業への処方箋ーあるべきOMOとUXインテリジェンス
5-1 流通系OMOは「オペレーションとUXの両立」が肝要
5-2 接点系OMOは「ケイパビリティ調達」が肝要
5-3 DX推進に立ちはだかる壁
あとがきー待ったなしの改革に向けて

となっていて、まず、前著以降の変化として注目しておくべきは、前著で新興勢力に押されていたブランド企業が、デジタルを駆使することによって蘇る動きのあることですね。本書では象徴的事例として、ラッキンコーヒーにシェアを奪われつつあったスターバックスの復活が紹介されているのですが、老舗のブランド企業がデジタルによって再武装すると、その伝統的な厚みがさらに活かされていくことを証明しています。

またもう一つの動きは「GaaS」という表現がされているのですが、「サービスとしての政府・行政」化ですね。行政のデジタル化については、今回の新型コロナの対応の中で、日本がかなり遅れていることが証明されてしまった分野であり、政府もこれからデジタル化に本腰をいれる意向のようですが、単に今の手続きをデジタルにするにとどまらず、「国民をユーザーとし、いかに多様化するユーザーに対応する行政サービスを提供するか」という理念に基づいた設計が望まれるところです。もっとも、GaaSが当たり前となる社会で、現在の行政機構がそのままサービスの提供主体として存続できるかどうかは時代の流れによるんでしょうね。

で、こういう状況を受けて日本がどうなっていくか、日本企業はどう動くべきか、なのですが、筆者は中国と日本との「ホワイトリスト方式」と「ブラックリスト方式」といった社会構造の違いや人口の違いに根差すネットワーク効果の働きやすさといった違いを認識しつつも、

ただ単にオンラインとオフラインを融合させれなよいという考え方は、結局のところアフターデジタル時代に必要な視点に転換していないので、本質を失った「単なるオンラインとオフラインの連携」と言わざるをえません。そもそもOMOとは目的ではなく、あくまで顧客提供価値を増幅するための考え方です

であったり、

テックタッチだけで勝負してしまうと、プラットフォーマーやデジタル企業のほうがどう考えても強いにもかかわらず、「デジタルをやる」ことが先行してしまった結果、デジタルに閉じてしまい、ハイタッチ・ロータッチで自分たちが持っている強みをでじたりで生かすことができず、ユーザーから見て大して価値のないものになってしまう

といったように「木を見て森を見ず」状態の動きが日本ではよく見られると指摘しているので、ここらは自社の動きをよくふりかえっておきましょう。さらに「データエコシステムとかデータの売買という考え方は幻想。データはソリューション化しないとお金にならない」であるとか「「エクスペリエンス×行動データのループ」を実現するにあたっては、個社で持っているデータだけでも十分」であるとかのサジェッションもされているので本書でご確認を。

そして、こういったことを踏まえて第4章、第5章で、こうしたアフターデジタルの潮流を踏まえて、これからの社会についての

デジタルによる秩序は一定の範囲内(例えば疾病対策など)で、高いレベルが提供されるが、多様な世界観が存在していて、ユーザーの意思による「UX選択の自由」は脅かされない、といった「多様な自由が調和する、UXとテクノロジーによるアップデート社会」こそが、私たちがめざすアフターデジタルの社会像ではないでしょうか

といった提言がされていくののですが、ここらは筆者が提案したキモのところなので本書のほうでお読みくださいね。

【レビュアーからひと言】

とかく、顧客データや行動データをビジネスに活用するというと、知らないうちに個人データが使われたり、といった一企業の利益優先のようなイメージをもってしまうのですが、本書によると

アフターでデジタルでは「ユーザーの行動データをそのまま自社の利益にのみつばげるのではなく、UXに還元することで、「ユーザーとの信頼関係を作っていく」「行動データを使って提供価値を増幅させる」ことこそが、データ活用のスタンダートである

であったり、

DXにおいて新たなビジネスモデルを構築することは確かに重要ですが、目的は「世界観を体現する新しいUXを生み出すこと」であるため、考える順番はビジネスモデルが先ではない

といった感じで「公共性」「パブリック」への貢献が強く求められてくるようなイメージを持ちました。アフターデジタルが象徴する「属性データから行動データへの時代変化」のなかで日本社会や日本のビジネスがどう変貌していくかは、我々の行動にかかっているようです。

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