「ジャパネットたかた」の後継者交代の成功のキモは何?ー新将命・高田明「まかせる力」

ビジネス

「人に任す」「人に(権限を)譲る」というのは、出来がいい人ほど難しいようで、ビジネスにしろ政治にせよ、政権交代や社長交代という場面では、お家騒動や権力争いといった揉め事が起こるのが世の常ではないでしょうか。
その難題に対して、業績が好調の状態を維持したまま、騒動もなく社長交代をしたイメージなのが「ジャパネットたかた」です。本書は、その「ジャパネットたかた」の創業者・高田明氏と、数々の外資系企業のトップを務め、経済人の経営の師匠と仰がれる新将命氏による「まかす」「まかされる」ことの指南書が本書『新将命・高田明「まかせる力」(SB新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにーすべては「まかせる」ことから始まる(高田明)
第1章 今も揺るがない経営の流儀(高田明)
第2章 まかせることから生まれる会社のブレない軸(新将命)
第3章 リーダーに求められる「まかせる力」(新将命×高田明)
第4章 まかせる仕組みが人と組織を育てる(新将命×高田明)
第5章 創業者のバトンを受け継ぐものの育て方(新将命×高田明)
おわりにー「まかせる」こそ企業の勝ち残りの条件(新将命)

となっていて、第1章と第2章が、高田明氏、新将命氏のそれぞれの経営論に基づいた「まかす」ことについての論考、第3章から第5章が実際に部下や後継者へ「まかせること」のノウハウあるいは経営を引き継ぐ後継者の育て方といったことについての両氏の対談記事、という展開です。

まず大前提として、「はじめに」のところで

数人の会社や会合などならともかく、成長期の企業や一定数以上の構成員がいる組織にあっては、人に「まかす」ことを悼尾の勇を奮って行っていかなければ、組織は回らない。そう、まかすことは実は大変なことなのです。さらにいえば、完全に「まかせる」ことを成し遂げるためには、自らの信念やにゅゆねんな準備、塩土沖を計る確かな目が要求されるのです。

と、高田明氏が言っているように、「まかせる」というはけして無責任な委任ではなくて、どうかすると「自分でやる」ことよりも難事である、ということでしょう。
さらに「人に何かを「まかす」という行為は、相手を信頼するということのようです。逆にいえば、まかされようとする側にそれに応える信頼感がなければ、「まかす」という行為は成立しないように思えます。」というところから考えると、「任す側」「任せられる側」の人間関係が一番大事なように思えます。

そして、この「任す」という行為は究極的には「事業を任す」ということに帰結するわけで、新将命氏の

バトン、つまり経営のかじ取りを担う後継者を育てているか? この点が経営者にとっての最大で最後の仕事となるのです。後段の対談の章でも述べていますが、後継者育成は社長の全業務を100とした時、少なくとも50以上を占める重要な要素です。逆に言えば、後継者を育てられなかった社長は社長失格ということです。

という厳しい言葉につながるわけで、「任す・任される」体制をいかにつくるか、というのが経営がうまくまわるかどうかの分かれ目でもあるようです。

ただ、実際のところ「任せる」ということは結構難しくて、特に上司や経営者が能力が高ければ高いほど、任せる部下たちの「足らざるところ」が見えて、ついつい自分が乗り出してしまう事例がよくあるのですが、本書によると

今日、明日、聞かれてもいないのに社長が口を出し、少しうまく・早くできても、それはいつまでも続きませんから。いつか否応なしにリタイアせざるを得ない時期は必ず来る。それに、繰り返し述べてきたように、「スキル」は学べばいくらでも後追いで伸ばせるのです。まかせた側の社長としては、むしろ「マインド」の浸透に尽力すべきであり、「スキル」面でいうなら、社内の学びの仕組みやシステム作りに腐心すればよい

ということのようですので、上司や経営者はキモに銘じておきましょう。そして引き継がれる方も

アメリカの企業や一部の日本のオーナー企業には、承継に伴って「今後は俺流に」という変化を求める傾向もあります。「セルフアサーション」という自己流の業績を顕示したがる傾向です。自分の存在理由はこの新手法だというのですが……それが空振りに終わったり周囲のひんじゅくを買ったりすることもあります。引き継ぐべきは理念と原理原則。

とありますので忘れないように。

このほか、経営におけるメンターの重要さであるとか、企業理念の四つの型であるおか、図抜けた経営手腕で知られる二人の経営理念がそこここにでてくるので、そこらも見逃せないところです。

【レビュアーからひと言】

本書の中で「承継」についての歴史論議のようなところがあって、

創業者のトップやその後継者が、番頭や年上の子飼いを「やかましい」と排除すると、その家、国は身を亡ぼす。豊臣家がいい例ではないですか。
(略)
諫言を開かなくなる。たしか黒田官兵衛などもその一人でしょうか。晩年の秀吉は石田三成などを重用し、官兵衛の言うことを遠ざけるようになったのですね。本当は耳の痛いことを言つてくれる人を側に置いておくべきなのに。三成の評価はともかく、それに類する傲慢が目立つと、人心は離れていきます。

というくだりがあります。「任せて」失敗した例も成功した例も、歴史物語の中には実例やヒットがたくさんあるので、こういうビジネス書セットで歴史小説や、歴史マンガを読んでおくとアドバイスがより腹落ちするかもしれませんね。

Bitly

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