「青い左目」の魔力がいわくつきの探し物を見つけ出すー廣島玲子「失せ物屋お百」

江戸の貧乏長屋のひとつ「お化け長屋」に、青い左目をもった、ちょっとした美人の年増だが、気も強い上に口も悪い「お百」という音が住んでいる。彼女の左目は、門口にたたずむ影や人の背中から立ち上る炎とか、人に見えないものが見え、その力を使って、失くしものや、いわくのある捜しものを商売にしているのですが、ある時、子狸が行き倒れているところを助け、彼に「焦茶丸」という名前をつけます。

この子狸が言うには、「お百」の目は、彼が仕えている山神が、姫神にむしられた鱗の一つが入り込んだもので、彼はそれを探してまわっているということで、その鱗を山神のもとへ持って帰りたい焦茶丸と、商売モノなので返せないというお百との「共同生活」が始まるのですが・・という感じで始まる、軽めのタッチの「妖し系」時代ミステリーが、本書『廣島玲子「失せ物屋お百」(ポプラ文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

老人の記憶の中の宝を探せ

まず、第一話目は、人の忘れられた記憶の中に隠し場所のヒントが記されている「御宝」を探し出す話。お百は、見るからに人柄の悪そうな母娘から、一軒家のどこかに隠されている、元大店の蝋燭問屋の主人・勇五郎の忘れられた記憶の中にある「宝」を探し出してくれという依頼を受けます。この主人は姪のの母親と娘に軟禁状態になっていて、その家の財産を横領されている気配なのですが、だまし取る財産も少くなり、その主人が、、昔から可愛がってきた奉公人の「おちか」に残そうと言っていた「お宝」を掠め取ろうという魂胆ですね。

こんな阿漕な依頼は断ってもいいのですが、何か企んでいるお百は、その「青い左目」を使って、意識が朦朧としている勇五郎から、その宝のありかを探る出そうとします。お百の企みに同調したらしい勇五郎の生き霊は、お百に庭の桜の木の下を掘るよう示唆します。そこには小さな木の箱が埋まっていて、欲に目がくらんだ姪の母娘がそれを開けると、中には、ただ。白い小さなやもりが入っていて、逃げ出していきます。宝ではなかったことに怒る母娘なのですが、実は、勇五郎とお百が、姪母娘にしかけた罠は・・・という筋立てです。

水死した娘がかんざしに託した謎とは

第二話目は、同じ長屋に住む唐十郎という「人形」を使う拝み屋からの依頼です。彼は、女性にもてそうな色男なのですが、恨みを残して死んだ女性の怨霊を、人形にとりつかせ、その思いを聞く上に、愛情をこめて接し、成仏させるという生業でで暮らしています(ただ、商売ではなく、人形に生気を与えて一緒に暮らしたい、人形フェチの欲望を満たしたいためにやっている、とお百は主張しているのですが・・)。その彼が川のほとりで出会った、娘の幽霊からの依頼をお百が叶えてやる話しです。

お百が聞いてみると、その娘は小料理屋いさご屋の娘で、数日前、箸から落ちて溺死しているのですが、彼女は水の中に落ちた「かんざし」を探し出して自分の親たちに届けてくれという依頼をしてきます。お百は、「青い左目」の妖力を使って、娘が死んだ時の状況を透視し、娘が溺死したあたりから「かんざし」を見つけ、それを届けるのですが、それはその娘のものではなく、近所の仲の良い娘のもので・・・という展開です。この辺までネタバレすると、娘の死が事故死では二ことが明らかになってきますね。

嫁探しの依頼の陰にサイコパス

三番目の話は、歌太郎という油問屋の若旦那からの依頼で、「自分の嫁になる女を探してほしい」というものです。彼が言うには、今まで三人の嫁をもらっているが、自分の母親が厳しくて嫁いびりがひどく、一人目は行方不明、二人目は気がふれて実家へ帰り、3人目は蔵で首をつっているという状況で、その母親に内緒で、嫁をもらいたい、というもの。

なにか不審なものを感じたお百が、左目で透視すると、屋敷の中の大きな部屋の奥に大きな蚊帳がつってあって、そこに赤い襦袢だけをまとった、歳は若くないが、肌に白粉を塗り込め、唇に紅を赤赤とさし、髪も黒々として濃密な色気のある女と歌太郎が睨み合ったいる姿が見えます。

これを見て、何かを察したお百は、歌太郎のもとに若い「お京」という娘を「嫁候補だといって連れて行くのですが、実は、お京の正体は、「焦茶丸」。彼とお百が明らかにした、歌太郎と彼の嫁いびりの酷い母親の真相は・・という展開。少しネタバレすると、江戸版「サイコ」というところでしょうか。

蔵の中の妖がお百の心を破壊する

第1巻の最終話は、大店の子供の神隠し事件です。姉とかくれんぼをしていた男の子・春吉が行方不明になり、親や店の者たちはかどわかしに違いないと捜索するのですが、 一向に見つからない上に、その「かどわかし犯」からも身代金請求もやってきません。

お百が、なきじゃくる姉から事情を聞き、「青い左目」を使っても、その蔵から子供が出ていった気配はありません。姉に頼まれて蔵の中に入ったお百と焦茶丸は、お百の左目と同じように、深い青色をした壺をみつけ、そばによると、お百が中に吸い込まれてしまい・・という展開。

壺に練り込まれた山神の鱗の妖力に力を得た「妖」と壺の中で、お百と焦茶丸が対決するお話ですが、その妖によって、魔力をもった「青い左目」をもって生まれたせいで、実の母親から化け物扱いされ、虐げられてきた過去の自分の姿を見せられて、お百の心は崩壊してしまいます。さて、お百の危機を、焦茶丸がはどう切り抜けるのか・・といった筋立てです。

途中、変わった人物ばかりの「お化け長屋」の住人からも、ひどく恐れられている、長屋の大家「お銀」が登場するのですが、これは、第二巻に向けての伏線のような気がします。

レビュアーからひと言

「ふしぎな駄菓子屋銭天堂」や「妖怪の子預かります」といった妖怪ファンタジーを著している筆者がおくる、少し不気味な味付けをふりかけた妖怪ファンタジー系の捕り物帖です。歴史の秘話とか、長屋の人情とか、一般的な時代小説や、捕り物帖の風情はないのですが、お百と焦茶丸のふわふわとしたやりとりを読んでいると、心のささくれがおさまっていく気がする物語です。忙しくない、休日の午後あたりの読み物によろしいのではないでしょうか。

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