少女は小惑星の衝突迫る九州でおきた連続殺人の謎を解く=荒木あかね「此の世の果ての殺人」

二か月後に小惑星が九州の阿蘇に衝突することがわかった世界で、日本から脱出することなく、九州の博多で、ある目的のために「自動車教習所」に通っている少女が、教習車のトランクの中に発見したのは、一人の若い女性の死体だった・・。カタストロフィが迫る中で、たんたんと日常の生活を続けている少女の、日本壊滅のタイムリミット迫る中で、殺人犯をつきとめていくという仰天設定のミステリーが本書『荒木あかね「此の世の果ての殺人」(KADOKAWA)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 潜在的に危険な金曜日
二 兄弟船
三 首謀者
四 残留者たち
五 衝突!
六 可能性を狭め続けた少女

となっていて、物語は主人公の「ハル」と言う少女が自動車教習で、教習所のイサガワという名の教官と路上教習の「山道教習」で、太宰府市の「北谷ダム」へ向かうシーンから始まります。ダムへとつながる山道を登っていくと、途中で木の枝から下がっている「何か」にぶつかってしまうのですが、それを首を吊っている青年の死体で・・というスタートです。

実はこの物語の設定では、1年半前に発見された小惑星が日本の「阿蘇地方」に衝突することがわかり、日本を含め世界が壊滅的な影響を受けることが予測される中、自殺する人や国外脱出をする人が相次ぐなか、本編の主人公「ハル」は、過去に「イジメ」の加害者であったことが原因で引きこもりとなった弟とともに太宰府市にある自宅のコンビニに居残り、自動車教習所へ通っているというものです。

非日常的な設定なのですが、不特定多数の関与という雑味をなくし、半ば「密室状態」での殺人とその犯人捜し、という仕掛けがこらされているわけですね。

で、事件のほうは、山道教習の翌日、「高速道路教習」を受けるため、教習所にやってきたハルは、教習車をランダムに指定して、イサガワ教官の教習を受けようとするのですが、準備のために車のトランクを開けるとグレーのスーツを着て、パンプスを履いた女性の死体が入っていて・・という筋立てです。

小惑星衝突を前にほとんどの人が逃げだしている九州地方の太宰府市で、誰が、何のために殺人を行い、死体を隠匿するということをしたのか・・といった展開で、少しばかりの機能がまだ残っていた警察に届け出るのですが、捜査は始まるわけもありません。ハルはそこで市川総合調整官という警察官から、太宰府だけでなく、博多や糸島でも殺人事件が発生していることをきかされ、行きがかり上から、元刑の教習所のイサガワ教官とともに犯人捜しをすることになり・・といった展開です。

まあ、「行きがかり上」というの乱暴な設定ではあるのですが、もともと全体の設定が、小惑星との衝突目前の九州という乱暴な設定でもあるので、ここらは大目にみておきましょう。

そして、開業していた整形外科で無理やり検死解剖をしてもらい、被害者の胃の中にあった名刺から弁護士であることをつきとめ、事務所を調べると、彼女は「イジメ」問題専門の弁護士で、死亡の前に「NSRU」という人物宛に「本当にごめんなさい」という未送信メールを残していることがわかります。さらに、同時期におきている博多、糸島での殺人事件の捜査を進めると、女性弁護士は、「ハル」の弟の引きこもりの原因となったイジメ事件の被害者の担当弁護士で、博多、糸島は弟と一緒にイジメに加担していた生徒だったことがわかり、三人とも「ハル」の弟が主犯格となったイジメ事件に関連していたことがわかってきます。

この事件は、イジメの被害者の復讐なのか、そして次の標的は「ハル」の弟なのか、自宅にコンビニに急遽引き返し、弟の引き籠る部屋のドアを無理やり開けると、そこには見ず知らずの少女が隠れていて・・と事件が一層複雑化していきます。

少し、ネタバレしておくと、このイジメ事件は連続殺人に関連しているものの一種の「見せ金」的なところがあって、犯人の本当の動機はもっと「サイコ」なものなのでひっかからないよう要注意です。

レビュアーの一言

「素人探偵」が活躍するミステリーには、「警察は何してんだ」とか「マスコミがかぎつけて素人が介入する隙間なんてなくなるだろ」という批判がついてまわるのですが、小惑星衝突直前の日本、という舞台設定でそうした日常的な構造による制約を取り払う仕掛けをつくったのは見事ですね。

さらに、こうした「終末もの」の場合、最後に何か「救い」となるものが用意されていることが多いのですが、本編の場合、しっかりと「終末」になだれ込んでいっています。事件の解決後、「ハル」が目指したところはどこなのか、そして彼女はなぜ「九州」に残ったのか、殺人以外の「最終の謎」は原書の最後で明らかになっています。

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