扉子は両親の因縁の事件に遭遇するー三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 Ⅱ 扉子と空白の時」

本の読めない古書店員・五浦大輔と人見知りの激しい「本」オタクの美人古書店主・篠川栞子が結ばれて決着した第一シリースから数年後、二人の間に生まれた娘・扉子も成長して、しっかり「本」オタクとして成長しての新たな展開となる「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第2Seasonの第2弾が本書『三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 Ⅱ 扉子と空白の時」』です。

構成と注目ポイント

構成は

プロローグ
第一話 横溝正史「雪割草」Ⅰ
第二話 横溝正史「獄門島」
第三話 横溝正史「雪割草」Ⅱ
エピローグ

となっていて、まず大輔と栞子の娘の扉子が祖母・篠川智恵子の頼みで、父・大輔の「マイブック」を持ち出し、読み始めるところからスタートします。第1seasonでは邪悪な存在扱いされ、栞子の仇敵のような存在となっていた栞子の母親なのですが、今のところは休戦状態になっているようですね。

第一話は、その栞子が読み始める「マイブック」の一冊目です。大輔と栞子が結婚したての2012年に遭遇した事件で、「井浦清美」という女性から、盗まれた本、横溝正史の「雪割草」という本を取り返してほしい、という依頼が入るところから始まります。この「雪割草」というのは本書によると、発表時期も全体ストーリーもわからない幻の作品のようです。この幻の作品を先日亡くなった彼女の祖母・上島秋世が長年密かに所有していて、それを彼女の母・初子が盗んだ、と彼女の叔母・春子がうったえている、といういきさつです。
この本は、亡くなった伯母・秋世が戦争で新潟に疎開中に持っていた「自装本」のようで、空襲で亡くなった息子と戦死した夫の思い出の品で、亡くなる前に秋世は、妹・上島春子の息子の上島乙彦へ生前贈与しているとのこと。乙彦はこの本が見つかり次第、国内の事業をたたんで、海外で新規事業をやるつもりのようで、生前、秋世はこの本がその「お守りになる」という謎の言葉を残していたことも判明します。

そして、葬儀の時の様子や、防犯カメラの映像、さらにはその自装本への春子と初子の反応を確かめた栞子は、あることを皆に伝えると、その本が戻ってくる、というのですが・・・、という展開です。

実際のところ、本はいつの間にか保管されていたキャビネットに返却されていたのですが、幻の作品であるはずの「雪割草」の自装本の正体は、そして犯人が本を返却した理由は・・・といった謎解きですね。
しかし、本を隠した犯人は明らかになるのですが、秋世が乙彦に言っていた「お守り」は、犯人が本を隠す前に失くなっていた、ということがわかり謎解きも不完全なままで第三話へと続きます。

第二話は、第一話と第三話の間の、幕間劇のような小編です。
扉子が、学校の読書コンクールの感想文の課題に横溝正史の「獄門島」をとりあげることがわかり、学校の担任の教師が、残酷な描写のでてくる作品を彼女が取り上げるのを心配して、ちょっとした騒動になるというものですね。扉子は、その小説「獄門島」を近くの古本屋で300円で値札がつけられていたのを見つけたらしく、その時はもちあわせがばく、取り置きしておいたもらったようです。
ところが、後で引き取りにいくとその本はすでに売却済みになっていて、ひどくがっかりすることになりますね。
落胆する扉子に対し、店の主人はその本を買ったお客から返してもらうというのですが、なんとその本を買ったのは、売っていた古本屋の奥さんであることがわかったのですが・・・という展開です。
ちょっとしたネタバレをすると、本格作品をリライトしたジュブナイル版というのが出版されていたことがあって、本編は残酷な描写が多いのですが、それを子供向けに書き直されていたようですね。ただ、そうしたジュブナイル版は現存数が少なくて、高価なものもあるのですが・・・といったところです。
ちなみに、今まで「ぼっち」な学校生活が続いていた扉子の親友ができる物語でもあります。

第三話は、第一話の「雪割草」自装本の紛失事件から9年後。事件の依頼者であった井浦清美から、事件の関係者でもあった母親の初子が亡くなったのだが、蔵書をビブリア古書堂で買い取ってほしいという遺言がされたことを伝えられます。
古書堂が蔵書の買い取り先に指定された理由がわからないまま、買い取りに行き、蔵書の確認を始めると、古い百科事典の間に薄い「文箱」が挟まっていて、その中に横溝正史の雪割草の「自筆原稿」らしきものが入っているのを発見します。さては、9年前、原稿を盗んだのは「初子」だったのか、と思いきや、その原稿は模写。そして、模写原稿がつくられたのは、井浦初子と井浦清美が共同して、本当の犯人から紛失した自筆原稿を取り戻そうとしたためのフェイクであったことを打ち明けられ、栞子たちもそれに協力することになるのですが・・・という展開です。
ここで再び急展開があって、実は、その原稿はすでに乙彦のもとに犯人から返却されていることが判明するのですが、犯人が9年前に自筆原稿を盗み、さらにそれを再び持ち主に返却した理由が今回の事件のキモとなるのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

レビュアーからひと言

第2seasonの第1弾ではまだ、幼かった栞子も小学生となり、母親に負けない「本オタク」に成長していることがわかる今巻なのですが、「雪割草」の自装本に、自分の祖母・篠川智恵子がからんでいたり、ひょっとすると自筆原稿の紛失にも関わっていることを推察したり、と推理力は父親・大輔どころか母親・栞子を上回る能力を持っていそうな感じが「エピローグ」のところで垣間見えます。
娘・栞子と母・智恵子の対決は、智恵子優勢のまま、休戦している状態なのですが、孫娘・扉子の参戦でどう展開していくのか次巻以降を楽しみにいたしましょう。

Bitly

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