真琴は突然変異の寄生虫病を追い詰めるー中山七里「ヒポクラテスの試練」

埼玉県にある浦和医大の法医学教室の偏屈な解剖フリークで、かつ法医学の権威・光崎藤次郎教授、アメリカ人で光崎をリスペクトしつつ、帰国後は検視官となることを目標としているキャシー・ペンデドルトン准教授。そして新米医師の栂野真琴、法医学教室に検死をもちこんでくる埼玉県警の古手川和也刑事をメインキャストにして、警察や監察医から事故死や病死と判断されている死亡事案に隠された「事件」と「犯罪」を明らかにしていく法医学ミステリーの第三弾が本書『中山七里「ヒポクラテスの試練」(祥伝社)』。

構成と注目ポイント

構成は

一 米の毒
二 蟲の毒
三 職務に潜む毒
四 異国の地の毒
五 人の毒

となっていて、本編の主人公・栂野真琴の上司である浦和医大法医学教室の主任教授・光崎のもとへ彼の旧友の城都大学の内科教授・南条が、自分の大学病院で「がん」で死んだ患者の「解剖」を依頼してくるところから始まります。
その患者は元都議会議員の権藤という男で、体調を突然崩して入院し、肝臓がんの検査中に突然死したというもので、 もので、それまで「がん」の兆候もなく、酒もほとんど飲まない人間だったので、主治医となった南条が「事件」や「事故」でもないが死因を確かめるために、光崎のところへ解剖できないかもちかけてきたという経緯です。

しかし、一旦「病死」という診断がでている上に、管轄も違うので、おそらく解剖無理という状況に反発して、浦和医大法医学教室の構成員にようになっている古手川刑事に、解剖の許可と遺族の承諾をとるよう命じます。被害者には家族は甥だかで、その甥の説得工作を続けるうちに、甥が銘柄米と一緒に、カビとかが発生している事故米も購入していて、どうやらそれを 被害者に贈り物としていたということをつきとめ・・・という展開です。
「これは連続毒殺事件」の始まりか、と思いきや、被害者を解剖してみると、死因はMRIでも発見できなかった、強い毒性をもつよう変異したヘキノコックスという寄生虫の突然変異体によることがわかります。

この寄生虫がどこから被害者の体に入ったのか、全国の病院の死亡事例の調査に着手するのですが、手がかりがつかめないまま数日が経過したところに、第二の事件が発生し、東京都庁に勤務していた元職員が、同じような症例で死亡します。今回も、東京都内の事件である上に、死因は肝臓がんと診断。被害者の妻は解剖に同意しない、という状況で、再び、古手川刑事がその「手腕」を発揮することとなるのですが、詳しくは原書で確認してください。少々ネタバレすると、真面目と言われていた被害者が実は買春の常習者であることが同意のカギとなってくるのですが、これが本巻の本筋の謎解きのヒントにもつながっているので覚えておいてくださいね。

この第一の事件の第二の事件の被害者の共通点として、この二人が同行した東京都議会議員のアメリカ視察が浮かび上がります。しかし、この視察は、出発日と帰国日の記録だけが残っているだけで、視察日程とか視察先、訪問記録は、保存期間はまだあるにの関わらず残っていないことがわかります。これを不審に思った法医学チーム+古手川は、生き残っている都議会議員から情報を得ようとするのですが、鉄のガードが敷かれています。エキノコックス変異体による突然死のことを教えても恐怖は覚えても誰も情報を出そうとしない状態で、真琴たち、一層の疑念を深めることになって、という展開です。

そして、ようやく聞き出した視察先も、ニューヨーク市の災害復旧センター、警察、検死局、ロックフェラーセンター、自由の女神像といったところで、ありきたりのところばかりです。真琴たちは、このありきたりの情報を必死に隠す議員たちの様子から、これら以外の隠された立ちより先があったに違いないと確信し、とアメリカへ調査へ赴くのですが、 訪問した検視局の副局長から、検死局の局長が同じような症例で最近死亡したことを 聞き・・・という筋立てです。

日本だけと思っていた、エキノコックス変異体の被害がアメリカでも発生していたことがわかり、にわかに国際的な事件の様相を帯び始めます。真琴はキャシーの元同僚で今は検死局の副局長となっているペギョン、疾病予防管理センターのグレッグ捜査官と調査にあたるのですが、そこで直面するのはアメリカに根強く残る人種差別や大きな経済格差による犯罪の数々で、今回の事件のキーが韓国マフィアが経営していた売春宿にあることをつきとけるのですが・・・ということで、ここから先は原書のほうでどうぞ。

レビュアーからひと言

ヘキノコックスという寄生虫は、日本では北海道のキタキツネなどが宿主となっていることが多く、このため、沢などの生水はそのまま飲まない方がいいといわれる原因でもありますね。今回、この寄生虫の変異体が事件の主因となっていて、日本とアメリカと広範囲な事件となり、さらには被害者たちが頑なに秘密を守る、ということがあったので、日本・アメリカ・朝鮮半島にまたがる国家的な「陰謀」が隠されているのでは、と思ってもみたのですが、ちょっと考えすぎでした。ただ、今回はキャシーと真琴が久々にチームを組んでの、テンポの速い海外捜査活動が楽しめます。

Bitly

コメント

タイトルとURLをコピーしました