悪徳弁護士は母親の殺人疑惑を晴らせるか?ー中山七里「悪徳の輪舞曲」

少年期に少女誘拐殺人の犯罪者となり、少年院入所。出所後、司法試験に合格し、弁護士となって、高額な報酬と引きかけにどんな相手の弁護も引き受けるという異色の主人公・御子柴礼司シリーズの第4弾が『中山七里 「悪徳の輪舞曲」(講談社文庫)』です。

前巻では、御子柴が人間の心を取り戻すきっかけを与えてくれた医療少年院当時の恩師・稲見が起こした介護施設の介護士殺害事件の弁護を引き受けたものの、被告の稲見元教官の意向どおりの実刑判決となり、恩師を無罪にできなかった無力感に苛まれていた主人公・御子柴だったのですが、今巻では、実母に容疑のかかった殺人事件の弁護に向かいます。

構成と注目ポイント

構成は

一 弁護人の悪徳
二 傍聴人の悪徳
三 被告人の悪徳
四 死者の悪徳

となっていて、冒頭のところは、御子柴の実母「郁美」が「夫」の首の縄をかけて縊死させるところから始まります。これが現実の話なのか妄想なのかは、今巻の最後半で明らかになるので、しっかり覚えておきましょう。

物語のほうは、恩師・稲見教官の弁護で、彼が入居する介護施設の組織的な虐待事件を暴いたこともあって弁護や顧問契約の依頼が増えつつある御子柴法律事務所に、御子柴が少女殺人事件を起こしてから、三十年間、顔を会わせていない妹「梓」が、母親の弁護を依頼しにやってくるところから始まります。

御子柴と彼の父母と妹とは、彼が事件を起こしてからは会っておらず、さらに被害者の家族から多額の賠償金を請求されたことなどから自殺した父親に対しては、責任を放棄したと恨みを抱いています。父親の自殺による保険金を賠償金の一部として被害者に支払った後、母娘は加害者の家族として世間のいじめにあい、素性を隠して引っ越しを重ねています。

そして、最近になって母親は、高齢者の婚活パーティーで知り合った男性と再婚していたのですが、その男性が鴨居に縄をかけて縊死。それが自殺ではなく、御子柴の実母・郁美の犯行とされ逮捕されたという経過です。

死んだ男性は財産家で、自殺した理由もあやふやな上に、家族もほかにいないので、遺産はすべて「郁美」が相続するということから、財産目当ての再婚と夫殺害、しかも、かつて幼女殺害をした「死体配達人」と呼ばれた凶悪犯の母親というシチュエーションから敗訴間違いなしと思える裁判を、御子柴がどう引っくり返すのか、といった筋立てです。

事件の調査にとりかかったものの「郁美」がやっていない反証をみつけるのはかなり難しく、ほんの少しの手がかりでも、と御子柴は彼が犯行を犯した故郷から、母妹が事件後、転々とした軌跡をたどっていくのですが、ここは今まで自分の心からシャットアウトしてきた家族へ、自分の犯行が及ぼしてきた過酷な影響を改めて知ることになります。

さらに、御子柴の父親の自殺も、母親の仕業ではと疑惑を持ち続ける当時担当した刑事の出現もあり、御子柴が自分の中に潜む「獣性」の因果について苦しむことにもなります。

しかし、事件の被害者である母親の再婚相手の前妻が、通り魔事件の被害者であったことが判明するあたりから、事件の様相が変わってきます。とりたてて美人でもなく、魅力的でもない御子柴の母親が一回の婚活パーティーでお金持ちの相手と結婚できた理由が公判の中で明らかになるとともに、今回の事件が、変化球的な「復讐劇」であることがわかってくるのですが・・・、というところで詳しくは原書のほうで。

レビュアーから一言

今巻では、御子柴の父親が事件後に自殺した真相も、巻の終わりのほうで明らかになります。今まで、御子柴の起こした事件に対する世間の非難から逃れるために自殺したと思いこんでいた父親の死が別の様相を見せてきます。
自分がいままで抱えてきたものが崩れてきた感覚を抱える御子柴なのですが、今回も「倫子」ちゃんが最後にいい働きをしてくれますね。

https://amzn.to/2LMGAAd

コメント

タイトルとURLをコピーしました