相続鑑定士が遺産相続連続殺人の謎を「妖」の力で解き明かすー中山七里「人面瘡探偵」

ミステリーでは、人間が探偵役を務めるだけとは限らなくて、過去の人の魂が乗り移った人形であるとか、何かの拍子に意識をもってしまった椅子といった探偵の例もあるのですが、語り部である主人公に寄生した「妖怪」という一風変わった探偵が登場するのが本書『中山七里「人面瘡探偵」(小学館)』です。

構成と注目ポイント

構成は

一 むかしむかし
二 最初のタヌキは焼け死んで
三 二番目のタヌキは首を吊り
四 三番目のタヌキは流されて
五 どっとはらい

となっていて、物語の主人公で語り手となるのは、金持ちの家の遺産相続の時に、土地をはじめとする不動産から貴金属、株などの相続財産を鑑定し評価する「相続鑑定」会社に勤務する「三津木」という鑑定士。彼が信州の山林王と呼ばれている本城家の遺産の鑑定に出向くところからスタートします。
「探偵役」となるのは、三津木が5歳のときに父親の実家のある秩父の山で転落して怪我をした時にできた、右肩にできた三箇所の傷口に憑依した「ジンさん」こと「人面瘡」という設定です。

で、物語は本城家の遺産鑑定から始まるのですが、「山林王」と聞こえはいいのですが、現在、国産材に単価は低く、所有している山はかならの安値、伝統ある日本家屋の山奥にあるために捨て値、このため、山林の伐採と販売を業とする家業の製材会社もお赤字続き、という「遺産」ともいえないような評価額なのですが、ここで「ジンさん」の助言で、山の切通しから採取した土の分析から、山にモリブデンの鉱脈があることがわかり、にわかに遺産争いの様相を呈してくることとなります。

まずはじめに起きる事件は、長男の武一郎夫妻が蔵の中で、絞殺された上に放火され、焼死体発見されるというもの。この夫婦は、親族からも集落内の評判も悪いのですが、殺人までの動機をもったものは少なく、当然、遺産争いとして姉、弟が容疑者として取り調べされることになります。

第二の事件の被害者は、この兄弟の次男・孝次です。彼は首に縄をかけられ、それを水車の車輪にまかれて放置され、水車の回転によって縊死させられた状態で発見されます。

第三の事件のターゲットは三男の悦三。彼は裏山の滝壺の中で水死しているのが発見されます。ここで、3つの事件の鍵となる、郷土作家が書いた「五匹のわるだぬき」という絵本が発見され、そこに書かれている「わるだぬき」の殺され方が、
最初のタヌキは焼死、
二番目のタヌキが首吊。
三番目のタヌキは川に流される
と今までの殺人を暗示するようになっていて、クリスティの「マザーグース殺人事件」のような「見立て殺人」を連想させる筋立てとなってます。

さらに、絵本にかかれている四番目のタヌキの「毒を盛られて殺される」の予言どおり、長女の沙夜子が食事に混ぜられた毒セリであやうく中毒死しそうになり・・、という展開です。

これらの殺人事件と並行して、この家の歴史を調べていた三津木が、三代ごとに「福子」と呼ばれる傷害児が生まれていることを見つけ出したり、沙夜子の子供・崇裕の本当の父親が、沙夜子の夫ではないことが判明したり、見立て殺人のネタ本となる絵本が崇裕の愛読書であることが判明したり、と彼へと疑いの目が向くように誘導されていくのですが、彼が真犯人かどうかは、原署のほうでご確認ください。
筆者お得意の「どんでん返し」が用意されているのは間違いないですが、本巻の場合は、三重ぐらいのどんでん返しが仕掛けられていますね。

レビュアーから一言

本巻の探偵役となる人面瘡というのは、江戸時代に編纂された「伽婢子」にでてくる妖怪で、足にできた腫物が人の顔のようになって、酒や食物を飲み食いし、食べ物を与えないと宿主の人間がやせ細って死んでしまうという妖怪です。伝承では、「貝母」というアミガサユリの地下茎を干してつくった漢方薬を飲ませると退治できるとも言われているようですね。
さらに、人面瘡は、人の業が変化したものという話や、象皮病のことではないかという説もあるようですが、本書の最後のくだりを読むと正体は、それ以外のものかもしれません。

Bitly

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