悪徳弁護士は恩師の殺人事件の疑惑を晴らせるか?ー中山七里「恩讐の鎮魂曲」

少年期に少女誘拐殺人の犯罪者となり、少年院入所。出所後、司法試験に合格し、弁護士となって、高額な報酬と引きかけにどんな相手の弁護も引き受けるという異色の主人公・御子柴礼司シリーズの第3弾が『中山七里 「恩讐の鎮魂曲」(講談社文庫)』です。

前巻では、過去に犯した少女殺人事件の被害者の姉の弁護を報酬抜きで引き受け、女性の無実は勝ち取ったものの、女性の娘の犯罪や家族のスキャンダルを白日のもとにさらしてしまった御子柴だったのですが、今巻では、かつての少年院の教官で、彼が人間の心を取り戻すきっかけをつくったくれた恩師が犯した犯罪の弁護に立ち向かいます。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 被告人の従順
第二章 被害者の悪徳
第三章 証人の怯懦
第四章 弁護人の悩乱

となっていて、まずは、本巻で御子柴が弁護を担当する事件の十数年前、韓国船のフェリーが過積載で沈没をし、そこで、日本人の男が同じ国の日本人女性を殴る倒し、彼女が身につけていた救命胴衣を奪って自分は助かる、という事件の描写から始まります。この事件で、その男の弁護士が裁判で「緊急避難」を主張し、無罪を勝ち取ったのですが、これが今巻の本筋の事件に密接に関連してくるので、覚えておきましょう。

本筋の事件のほうは、特別養護老人ホームでおきた、介護士がそこの入居者に花瓶で撲殺されるという事件です。もともとソリの合わなかった二人が、食事のときに諍いを起こし、介護士が床にその入居者っっが散らかした食事を方で受けているところを、何度も殴って殺したもので、その加害者として逮捕されたのが、御子柴が少年院当時に教官で、足に怪我をさせて車椅子生活にしてしまった「稲見」です。
自分を更生させ、弁護士を目指すきっかけを与えてくれた恩師の危機を救うため、すでに国選弁護が決まっていた弁護士から無理やり案件を奪い取り、恩師の無罪を勝ち取ろうとするのですが、稲見は「殺意があった」と犯行を認め、御子柴に弁護されることを喜ばず、犯罪者として裁かれ、罰を受けるのを望んでいつような風情です。。

なんとかして無罪を勝ち取りたい御子柴は、半ば暴走で、鳥見が入所していた老人ホームを尋ねるのですが、そこでは、介護士たちによって入居者に暴力や虐待が繰り返されていた、という事態で、稲見が撲殺した介護士は中でも札付きの職員で、しかも、冒頭にでてくるフェリーでの暴行事件の犯人であることが判明します。鳥見元教官の性格から考えて、誰かを守るためにこの事件を起こしたに違いない、と確信する御子柴は、半ば騙し討ちのように、施設に保管されていた、虐待の現場が写った防犯ビデオを手に入れ、裁判で上映したり、証言をしぶる施設の他の利用者を証人として法廷にたたせ、鳥見元教官に有利な証言を引き出すのですが、その都度、鳥見の殺意があったことを認める証言によって、御子柴の法廷操作が打ち砕かれていきます。

しかし、ここでへこたれないのが御子柴で、鳥見の離婚した妻のもとを訪ね、彼の息子が電車のホームの落ちた老人を救って身代わりに電車にはねられて死んでいることを知ったり、凶器となった花瓶が反抗当時、現場とは慣れた窓際においてあって、「衝動的に掴んで殴る」ことが不可能であったことをつきとめたり、と稲見の無罪を勝ち取るための証拠集めをしていきます。そして、彼が鳥見の無罪の論拠として法廷で使ってくるのが、冒頭の事件で無罪を勝ち取った「緊急避難」という法理で・・という展開です。

加害者自体が、犯行と殺意を認めている事件で、弁護士が敗訴することが確定しているっぽい案件で、果たして御子柴が恩師の無罪を勝ち取ることができるか・・・、といった筋立てです。少々ネタバレするロ、撲殺の実行犯と、それをするよう仕向けた教唆犯といった犯人が複数いり可能性は頭において読みすすめていったほうがよいかと思います。

レビュアーから一言

今巻では、御子柴が今回の事件の弁護のためにやってきた様々な取り組みが、結局は無駄で、依頼人に喜ばれていなかったことを知って、かなりの虚脱感と失望感を味わうことになります。御子柴は弁護士の資格を返上して、昔のような悪党に戻ることを望んだりsるまで追い詰められるのですが、ここで、彼を救ったのが前巻で、その無邪気さで御子柴を翻弄した津田倫子という小さな女の子です。今巻はドンデン返しがちょっと湿っている感じが漂うのですが、倫子ちゃんからの手紙で、それを帳消しにされてしまうかと思います。

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