幼い姉妹は「インチキ療法」を使って復讐をとげるー中山七里「ラスプーチンの庭」

若い頃は俳優養成所に通っていた経歴をもつイケメンで女性の嘘は全く見抜けないが、男の嘘は確実に見抜く、組織の枠から外れっぱなしの敏腕刑事なのですが、職務中に知り合った被害者との浮気が原因で「バツ2」となり、腎臓病で療養中の実の娘からは冷たい扱いをされている、警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人を主人公にしたミステリーの第6弾が本書『中山七里「ラスプーチンの庭」(角川書店)』です。

構成と注目ポイント

構成は

一 黙示
二 聖痕
三 怪僧
四 教義
五 殉教

となっていて、今から十数年前の二人の姉妹におきたエピソードから始まります。
その姉妹の父は建築設計事務所を経営していて、社員は二人程度ながら繁盛していたのですが、悩みのタネは、新興宗教に入れ込んでしまった父親の母、彼女たちの祖母です。その祖母が妹のほうを連れ出して、その宗派の信徒にしてしまうため、怪しげな液体を飲まそうとするのですが、姉が祖母宅の乗り込んで撃退するというエピソードが一つ目。

二つ目は、父親か筋萎縮症を発病し、当時の先端医療で治療するのですが、治療のかいなく病死。その後、父の後を追って母親も自殺し、姉妹は別々の親戚に引き取られていくというエピソードです。この時の「わたし、病院が嫌いになった」「お医者さんも嫌いになった」と姉妹が呟くところが今巻の謎解きの鍵となりますので覚えておきましょう。

本編はこのシリーズの主人公である警視庁捜査一課の犬養隼人がいつものように慢性の腎臓病で入院している娘の紗耶香の病室に見舞いに訪れた時、慢性糸球体腎炎という難病で入院している「庄野祐樹」という少年と宿題を解いているところからスタートします。

難病で長い闘病生活をおくっている紗耶香に同年配の同士ともいえる友人ができたことに喜ぶ犬養だったのですが、治療に要する経費捻出が原因で庄野くんは自宅での治療生活を選択し、退院していくのですが、退院後しばらくして、犬養と紗耶香のもとにはいってきたのは、庄野くんが急死したという知らせです。

戦友ともいえる闘病仲間の急死で悲嘆にくれる紗耶香と犬養は、彼の葬儀に参列するのですが、棺の小窓から彼の死に顔を覗き込んだ紗耶香が、彼の鎖骨から下にわかって変な痣が多数あるのを発見して・・・という流れです。

こういう時、ミステリ―では当然、家庭内虐待が疑われて、庄野くんの長い闘病生活に疲れた両親が彼を虐待しさせたのでは、という路線で犬養たちは捜査を始めるのですが、事件のほうは、別の案件、すい臓がんで闘病中の自殺した女性にも同じような「痣」が見つかったことから、両方の家族が最近、入信した自然治癒を指導する団体「ナチュラリー」の教義による犠牲者ではないか、という疑惑が生じてくることとなります。

長引く闘病を苦にしての虐待事件か、というところから、「ナチュラリー」という民間療法団体の狂信による犠牲者、という方向へとどんでん返しの第一陣が展開されるわけですが、ここでおさまらないのが作者の得意技で、この民間療法によって、子宮頸がんが治癒したアイドルや、ステージ2の食堂ガンを患っている与党の大物政治家もこの「ナチュラリー」の会員であることを公表したため、インチキ療法では、と隠密捜査をしていた犬養たちにストップがかかり・・という展開です。

ということで、「ああ、これは政治権力からの圧力に屈しない犬養たちの捜査」といった、シリーズ前巻の「カインの傲慢」的な感じかな、と思っていると・・といった感じで、さらなるドンデン返しと事件の真相が繰り出されますので、いつもながらの中山ミステリ―の手練れの技をお楽しみください。

ちなみに、今回、怪しげな民間治療を実施している「ナチュラリー」の教祖の正体を暴く助け舟となるのが、グローバル製薬会社・スタンバーグ社のつくった、服用した人間を凶暴な兵器に変える麻薬「ヒート」をめぐるや麻薬捜査ミステリー「ヒートアップ」で、薬剤の効かない麻薬取締官として事件の真相を暴いた「七尾究一郎」が登場してきます。

レビュアーから一言

今回はこのシリーズ特有の世間から尊敬される権威の裏の姿が暴かれたり、世の中を動かしている大権力が犬養たちによって足をすくわれたり、といったカタルシスのような爽快感は薄めになっているので、今までのシリーズのような読みごとちを期待するとちょっとあてが外れるかもしれません。ただ、子供の難病治療で藁にもすがるような親たちの姿や、家族の治療に翻弄された幼い少女たちの姿は、犯行の是非は別として哀しすぎる印象が残るのは間違いないですね。

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