御子柴の右腕・日下部洋子に冤罪の危機が迫るー中山七里「復讐の協奏曲」

少年期に少女誘拐殺人の犯罪者となり、少年院入所。出所後、司法試験に合格し、弁護士となって、高額な報酬と引きかけにどんな相手の弁護も引き受けるという異色の主人公・御子柴礼司シリーズの第5弾が『中山七里 「復讐の協奏曲」(講談社文庫)』です。

前巻では、御子柴の犯行の後始末をするのを避けて自殺したと思っていた父親の死の真相を知るとともに、母親にかけられていた再婚相手の殺害容疑を晴らした御子柴だったにですが、今巻では御子柴弁護士事務所の有能な事務員である「日下部洋子」に恋人殺害容疑がかけられるとともに、御子柴がその弁護を進める過程で、彼女が隠していた秘密も明らかになってきます。

構成と注目ポイント

構成は

一 偽善者たちの宴
二 伴走者の条件
三 伴走者の流転
四 復讐者の交差

となっていて、まずプロローグのところで、御子柴が少年期に犯した「みどりちゃん」殺人事件のあたりが描かれます。殺された「みどりちゃん」と仲の良い「洋子」が彼女が突然の不慮の死に当惑するところと、みどりちゃんの母親に、犯人への「復讐」の時に助力してくれる約束をするのですが、これは最後の結末のところで活きてくるので覚えておきましょう。

本巻は、まず弁護士会へ、御子柴弁護士の懲戒請求が大量に届き始めるところから事件が始まります。これは「この国のジャスティス」と名乗るブロガーがネットで、不特定多数に御子柴への懲戒を要求するよう唆すことから始まったもので、御子柴を弁護士会から退会させ、弁護士資格を喪失させようという企みです。御子柴は「元死体配達人」で、さらに報酬目当ての弁護を受けるという悪評にまみれてますから、「正義感」に 」にあふれる人々が「善意」で懲戒請求をしてくる、という構図です。普通なら世間に動きに押しつぶされてしまうところなのですは、御子柴は名誉棄損と業務妨害で損害賠償を請求するという対抗手段に出るのが彼らしいところですね。

この対抗策の影響は、御子柴だけにとどまらず、事務員をしている「洋子」のもとへも脅迫の電話がかかるようになり、ついには、彼女がつきあっている男性が洋子とのデートの帰り道に刺殺され、洋子がその犯人として逮捕されるという事態に発展します。その男性を刺した凶器のナイフに、洋子の五本の指の指紋がしっかりついていたという強力な「物証」ありの逮捕ですね。

で、この有罪間違いない状況の中で、「洋子」の無実を証明するために、御子柴が動き始めるのですが・・・といった展開です。
殺された男性・知原とは、「南雲涼香」という女性から紹介をうけたのですが、調べを進めるうちに、洋子だけでなくたくさんの女性が南雲の紹介で知原と交際していたことが明らかになるのですが、この知原という男は、つきあった女性から勤め先の内部情報を引き出して、自分の務める経営コンサルタント会社のビジネスに悪用していることがわかります。しかも、機密情報が手に入ると、それまで付き合っていた女性を弊履のように捨てるという冷酷な所業で、そのために自殺した女性もいるという人物であることがわかります。
なので、この知原と南雲の騙された女性か、女性の関係者が知原を殺したことは推理できるのですが、洋子に罪をかぶせてきた理由は。といったところが謎解きのキモですね。

そして、実は、第一作から傍若無人な御子柴をけん制したり、世間の状勢をそれとなく教えたり、と御子柴の重要なパートナーとなっていた彼女なのですが、その出身や過去は明らかになっていませんでした。さらに、彼女が悪名高い御子柴のもとで事務員を継続していた理由もわからなかったのですが、今巻で彼女が「無戸籍」であったことなど、彼女の過去にかかわることがはっきりしてくるのですが、そこらあたりが今回の謎解きに結びついてくるのですが、詳細は原書のほうでご確認ください。

今回も、中山七里ミステリーでは定番になってきた二重三重のどんでん返しもしっかり発動していますので、十分楽しめると思います。ただ、取り調べでさんざん「洋子」をいたぶる刑事たちへの御子柴の逆襲がなかったのは、ちょっと残念ではありました。

レビュアーからひと言

今巻では、二作目の「追憶の夜想曲」ででてきた「倫子」ちゃんがひさびさに登場してきて、片腕とも思っていた「日下部洋子」の過去が、自分の旧悪に関係していたことを知って動揺する御子柴を元気づけることとなります。まだ11歳の女の子なのですが、このシリーズで「いい味」だしてますので、登場シーンは注目です。

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