加害者の父親と被害者の娘の「暖かい対決」の物語ー中山七里「夜がどれほど暗くても」

ネットの力が強くなったとはいっても、スキャンダル報道にせよ、事件報道にせよ、テレビ・新聞・雑誌ととったマスコミの力は、世論の形成に大きな力をもっているのは間違いありません。
中山七里作品では、誤報道をしてしまったテレビ局のスタッフの再起を描いた「セイレーンの懺悔」があるのですが、いわゆるスクープ雑誌の編集者を主人公に、主人公の息子がストーカー殺人の犯人の嫌疑をかけられたことから始まる失意からの再出発の物語を描いたのが『中山七里「夜がどれほど暗くても」(ハルキ文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

一 誰彼(たそがれ)
二 人定(にんじょう)
三 夜半(よわ)
四 鶏鳴(けいめい)
五 日出(陽はまた昇る)

となっていて、まずは本巻の主人公である「週刊春潮」の副編集長・志賀倫成が部下の記者を叱責するところからスタートします。「週刊春潮」は暴露記事や芸能人の不倫スクープなどで売れ行きを伸ばしている週刊誌なのですが、その編集方針のえげつなさから、内部から躊躇の声があがった、というところです。しかし、副編の志賀は、そんな批判には耳もかさず、スクープをあげるのに一所懸命です。ここらは、彼の息子の事件後、彼の心にボディブローにように効いてきますね。

雑誌編集で深夜まで、多忙を極めながらも、夫婦仲良く暮らしている彼の生活なのですが、彼の息子・健輔がストーカー殺人を犯したと告げる警察官がやってくるところから暗転していきます。彼の息子は都内の大学に通う大学2年生なのですが、スクープ雑誌を編集している父親と顔を合わせるのがいやで、家を出てアパートで独り暮らしをしています。てっきり普通の学生生活をおくっていると思っていた息子が、なんと、ゼミの教官をストーカーしていて、彼女の家に侵入し、彼女と夫を刺殺し、自分も自殺した、というのです。

当然、思ってもいなかった事件に驚愕するのですが、いままでスキャンダルを追っかけ、人の秘密を報道してきた「記者」の家族が犯した事件ということで、同じ側にいたマスコミが突然、その報道の「牙」を自分に向けてくることで、今までの自分の姿を思いしらされる、といった展開です。

さらに、自分の所属する「週刊春潮」でも記事化されたり、社内の別の雑誌の編集部へ飛ばされたり、とおきまりの「組織」の仕打ちが彼の失意をさらに深くし、夫婦関係も離婚寸前までおいつめられることになります。そして、これに被害者の夫婦の一人娘・星野奈々美が、両親の復讐を果たすため、志賀たちを狙ってくるという追い打ちがかかることになります。

仕事のほうでも異動した編集部にいやがらせの電話が連続したり、と「どんづまり」の状況が続くのですが、被害者の娘で同情されてしかるべき「奈々美」が学校でイジメをうけているということが分かり始めてから変化が起きてきます。
息子をフォローすることができなかったと後悔する志賀は、息子の身代わりであるかのように「奈々美」の護衛を始めます。彼女をイジメる同級生たちに立ち向かって怪我をしたり、彼女の保護をしながら食事を伴にしたり、と被害者の娘と加害者の父親の「奇妙な交流」が続いていくことになります。

で、事件のほうも、志賀が息子が犯行に及んだ理由を知るために大学の同級生たちに聞き取りを始めたあたりから動き始めます。息子が殺人を犯すような人柄ではないことが確かめられ、さらに事件を担当していた宮藤(彼は「セイレーンの懺悔」の主任刑事ですね)と葛城(こっちは「静おばあちゃん」の孫娘の裁判官志望の「円」の恋人)が送検後も捜査を続けていることがわかります。
そんな中、奈々美の家が放火されるという事態が起き・・・といった展開なのですが、ここから先は原書のほうで。

レビュアーからひと言

謎解きとどんでん返しのほうは、本巻はかなりあっさりとしている印象なので、いつもの七里マジックに慣れている人には少し物足りないかもしれません。
しかし、最近筆者が取り上げられることに多い、「加害者の家族」の話に、楽観的な結末ではあるのですが一つの光明を見せてくれた感じで、読後感はけして暗くない仕立てになってます。「ざらざら」した結末かな、と覚悟していたのですが、意外な展開でありました。

夜がどれほど暗くても (ハルキ文庫)
志賀倫成は、大手出版社の雑誌『週刊春潮』の副編集長。スキャンダル記事に自負&...

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