数々の事件を”解決”し、風祭警部は栄転していくー東川篤哉「謎解きはディナーのあとで 3」

金融とエレクトロニクスと医薬品と、ミステリ出版物など、およそ関連性の感じ取れない手当たり次第の分野で世界的に事業を展開する「宝生グループ」の総帥のひとり娘である「宝生麗子」が、その素性を隠して勤務する東京都の国立市にある警察署・国立署を舞台に、これまた日本の誇る自動車会社・風祭モータースの御曹司「風祭警部」の自信にあふれているがトンチンカンな推理に悩まされつつ、管内でおきる難(?)事件の数々を、”他力”で解決していくユーモア・ミステリ―・シリーズの第3弾が『東川篤哉「謎解きはディナーのあとで 3」(小学館文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 犯人に毒を与えないでください
第二話 この川で溺れないでください
第三話 怪盗からの挑戦状でございます
第四話 殺人には自転車をご利用ください
第五話 彼女は何を奪われたのでございますか
第六話 さよならはディナーのあとで

となっていて、まず第一話の「犯人に毒を与えないでください」では国分寺の西、恋ヶ窪で代々手広く農業を営んでいる旧家の主人が、青酸カリ毒物を飲んで死んでいるのが発見されるという事件。被害者のベッドの脇のテーブルには、500mlのペットボトルと、水が入った湯のみが置いてあって、それを見た風祭警部は「自殺」という推理をするのですが、当然彼の推理なので間違いに決まっていて・・・という筋立てです。
現場検証で、青酸カリの付着した薬のカプセルと、輪ゴムが見つかるのですが、これを使って、容疑者たちのアリバイをどう崩せるか、が焦点になりますね。

第二話の「この川で溺れないでください」は、白いスーツに紫のシャツ、靴下は赤で、ベルトは蛇か鰐皮という、風祭警部そっくりのファッションをした男が、国立と立川の境界あたりで「溺死」しているのが見つかります。しかし、発見された現場は多摩川からは離れた「陸」の上なのですが・・・、という事件です。容疑者として成城に住むお金持ちの家族が浮かび上がるのですが、彼らの誰にもアリバイがあり・・という展開です。謎解きのかぎは、この家の家族の車に桜の花びらがうづ高く積もっていたこと。その車の一台は、犯行の起きた翌日、コンビニへの買い物で使われていて、花びらが積もっているはずはないのですが・・といったところです。

第三話の「怪盗からの挑戦状でございます」では、麗子お嬢様の宝生家に父親の宝生清太郎氏が「死蔵」している芸術品「金の豚」を盗み出す、という予告か「怪盗レジェンド」を名乗る人物から舞い込みます。この犯行予告を受け取った清太郎氏は、麗子がいままでいたことも知らなかった「かかりつけの私立探偵」に財宝の警護を頼むこととなります。
そして「かかりつけの私立探偵」・御神本光一は、助手の朝倉美和、そして麗子お嬢様と財宝・金の豚の警護をするのですが、金の豚の盗難は防いだものの、それのおまけ的存在の「銀の豚」のほうが盗まれて・・・という展開です。今回は、怪盗ものにお決まりの「屋上からのヘリでの逃走」シーンも楽しめます

第四話の「殺人には自転車をご利用ください」は、立川市で「ケチで意地悪で強情で、自慢話と他人の悪口が大好き」な金持ちの老女の殺人事件。彼女は自諾の食堂の子ども用の椅子に座らせられた状態で殺されているのが発見されます。その容疑者として被害者の甥が浮上するのですが、いつものように彼にはアリバイが存在。そのアリバイを崩すには、彼が15分間で国分寺と立川を往復するトリックを見つけないといけません。風祭警部と麗子は、彼が元競輪選手でまだ現役並みの力をもっていることから、ロードバイクで往復したのではと推理します。犯行当日に彼が自転車で国分寺と立川を往復している目撃証言はとれたのですが、なんと行きと帰りの差が5分間という短さで、とても殺人までできる時間とは思えず・・・という展開です。

第五話の「彼女は何を奪われたのでございますか」では、二十歳前後の若い女性が首を絞められて殺されているのが発見されます。ところが被害者は靴をはいておらず、ベルトや眼鏡カチューシャやペンダントといったものが犯人によって持ち去られていて、おそらく犯人は、被害者の死体から何かを奪い取り、そのカモフラージュで、それらを持つ去ったのだ、と風祭警部は推理するのですが・・・・という筋立てです。被害者は犯行にあう前に、大学の後輩から、ふらつきながら喫茶店をでていく姿が目撃されているのですが、それが謎解きのヒントになるのでしょうか・・。

第六話の「さよならはディナーのあとで」は、国立周辺に何軒ものアパートを所有する資産家が、木刀で後頭部を殴られて死んでいるのが発見されます。実はこの家の周辺で空き巣狙いが増えていて、風祭警部は、隣家の老人の「黒っぽい服を着た男が、被害者の妻の部屋で何かを物色している姿を目撃したという証言から、この物取りの仕業かと推理するのですが、これはお決まりのミスリードで、という展開です。この何かを物色している男が「泥棒」とは限らない、というのが謎解きのヒントです。

レビュアーから一言

最終話の最後のところで、今まで麗子お嬢様を悩まし続けてきた「風祭警部」が警視庁に栄転することとなります。数々の事件を、麗子お嬢様にアドバイスする宝生家執事の影山のおかげで解決したことになっている、警部の「能力」が”誤解”された結果なのでしょうが、異動後の「警視庁」の大混乱が目に見えるようです。本シリーズは2021年に「新・謎解きはディナーのあとで」」という形で続編が刊行されているので、シリーズ・ファンの方はそちらもどうぞ。

謎解きはディナーのあとで 3 (小学館文庫)
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