「礼菜」にふりかかる火の粉を振り払えー東川篤哉「ハッピーアワーは終わらない かがやき荘西荻探偵局」

吉祥寺と荻窪の間に挟まれて、一見、目立たなそうにみえて実は「住みたい街ランキング」の実力者「西荻窪」にあるシェアハウスに住むアラサー女性の小野寺葵、関礼菜、占部美緒の3人が、このシェアハウスの持ち主の大財閥の総帥・法界院法子の見習い秘書・成瀬啓介と一緒に、暇と体力を使った捜査と迷推理で、この界隈でおきる難(?)事件の解決をしていく、お気楽ミステリ―「かがやき荘」シリーズの第2弾が本書『東川篤哉「ハッピーアワーは終わらない かがやき荘西荻探偵局」(新潮文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

case1 若きエリートの悲劇
case2 ビルの谷間の犯罪
case3 長谷川邸のありふれた密室
case4 奪われたマントの問題

となっていて、第2弾でも、あいかわらず定収入がないにもかかわらず、ほぼ毎日が宴会のアラサー三人娘が、シェアハウスの大家で中央線沿線に君臨する大財閥の主・法界院法子の事件捜査の依頼をこなして、溜まった家賃を相殺していくという自転車操業が続きます。

第1弾目との違いは、法子夫人のほうも三人娘の事件解決能力を評価して、自分の知り合いに妙な事件が起きれば、躊躇なく、三人娘を配下のように投入するところでしょうか。

case1 若きエリートの悲劇

第1の事件「若きエリートの悲劇」は、法子夫人の友人で、総合建設機器メーカを経営する「磯村佐和子」からの、一人息子・光一が美人の許嫁がいながら一向に結婚しようとしない原因をつきとめてくれ、という依頼から始まります。こんな時にいつも都合よく、葵・礼菜・美緒の三人娘が家賃を滞納しているというわけで、法子夫人はこれ幸いと彼女たちを、調査に投入する、という設定です。

三人娘は早速調査にとりかかるのですが、ターゲットの「光一」は勤務先の実家の会社からほとんど毎日まっすぐ自宅へ帰るという真面目さで、「女」の影は全く見えません。さらには、光一の煮え切らない態度に業を煮やし、待ち伏せしていた美人の婚約者と「焼肉」デートまでしておきながら、彼女のマンションにあがろうともしない態度に、三人娘は「女」ではなく「男」がいるのでは、と推理を巡らします。

調査を開始してから数日が経過したある夜、法界院法子夫人のところに「知り合いが公園で酷い目にあわされている」という電話が入ります。法子夫人と見習い秘書・啓介から強制的に公園に調べに行かされた「葵」は、公園の公衆トイレの裏で、裸に剥かれた状態で、頭を殴打されて死んでいる「光一」を発見します。誰が彼を殺したのか、そして「全裸状態」で放置した理由は・・といった謎解きですね。

case2 ビルの谷間の犯罪

第二の事件「ビルの谷間の犯罪」では「礼菜」が事件に巻き込まれます。バイトが終わっての帰り道、かがやき荘への道すがら、ビルとビルのスキマに「猫」を発見した猫好きの彼女は、猫を追ってそのスキマに入ります。そこで彼女は後頭部に強い衝撃を受けて失神してしまいます。彼女が気が付くと近くに「細長い物体」が転がっています。思わず彼女がそれを手に取ると、それは血のついたナイフ。しかも、その先に髪の長い女性が死体となって転がっているのを発見されます。おもわず声をあげた礼菜は、近くをとおりかかった警官にみつかり、犯人として追跡されることになり・・・という展開です。この礼菜の無実を晴らすため、葵と美緒が捜査に乗り出すといった展開ですね。

事件の容疑者は意外に簡単にでてきて、殺人現場の隣のビルに住んでいる、殺害された女性の不倫相手が一番怪しいのですが、彼はその夜、そのビルから一歩もでていないのが、防犯カメラの映像で証明され、アリバイががっちり成立しているのですが・・・という謎解きです。ヒントは、ビルのスキマで礼菜の後頭部に強い衝撃を与えたものの「正体」ですね。

case3 長谷川邸のありふれた密室

三話目の「長谷川邸のありふれた密室」は、法子夫人の知り合いの格式高い料亭でおきた密室殺人事件です。その料亭でしこたま料理と酒を堪能した法子夫人は酔っ払って、その店の離れに泊まらせてもらうのですが、その夜、店の花板で、料亭の一人娘と結婚して後を継ぐこととなっている「富田」が、鍵のかかった部屋の中で、料亭の主・長谷川氏の愛用の包丁を脇腹に突き立てられて死んでいるのが発見される、というもの。今回も、「家賃」を代償に三人娘が捜査に投入されることになります。

ただ、今回はいつもの違って、葵ではなく「美緒」が推理を展開します。美緒は、殺害現場の外にあった「物干しざお」の先に血がついていたのと、部屋の隅に血痕のついた輪っかに」なた麻紐を発見し、密室ではなく、窓から物干し竿に結びつけた包丁で突き刺したのだ、と推理するのですが・・という展開です。美緒の「広島弁」だか「岡山弁」だかわからない語り口がなんともいい味を出してます。

ただ、結論からいうと、この美緒の推理は「フェイク」。真相はやはり「葵」がつきとめるのですが「内出血密室」つまりは、被害者が作り出した「密室」のトリックです。

case4 奪われたマントの問題

四話目では、再び「礼菜」が事件に巻き込まれます。クリスマスソングの流れる夜の西荻の街を

上半身は身体にぴったりと張り付くような対となブラウスで、色は黒のごとく真っ黒。衿や袖口にはレースや刺繍によって過剰な装飾が施され、非日常な雰囲気を醸し出している。下半身を被ったひざ丈のスカートも、やはり黒。下に着こんだパニエの効果で、そのシルエットは逆さにしたお椀のように大きく膨らんでいる

というゴスロリ・ファッションを身に着け、戦隊モノの悪のヒロインの非売品のマントを羽織った「礼菜」はかがやき荘への帰り道、近道となる公園で、何者かに頭部を殴打されて気を失ってしまいます。彼女はそのまま公園で昏倒している状態で発見されるのですが、金品目的と思えない犯人の目的は・・という筋立てです。

その後、礼菜が羽織っていた「マント」がマニアの間では希少価値の高いレアものであることが判明し、てっきり、それが:目的か、と思われるのですが・・、といった展開ですね。
礼菜からマントを奪ったと思われる犯人のアリバイを調査しているうちに、礼菜のごすろりファッションと同じような服装で出歩いている、別の女性の存在が判明してくるあたりが謎解きのヒントになりますね。

レビュアーから一言

第2弾目では、法子夫人が知り合いのもとでおきる事件や調査ものに三人娘を派遣する時の「短手尾を頼んで調べさせるというのは、いかがかしら?うってつけの者たちが余ってーいえ、待機しておりますわよ」というのが決め台詞になってきたようで、アラサー三人娘は「かがやき荘」を根城にする、法界院財閥お抱えの「探偵」のようになってきています。本編の最後のところでは、家賃が溜まったころを見計らって、法子夫人から新たな「調査依頼」も入ってきているようで、今後の引き続きの三人娘の探偵モノの「続々偏」がきたされるところです。

Bitly

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