寂れた喫茶店の人見知り店主の安楽椅子探偵ミステリーー東川篤哉「純喫茶「一服堂」の四季」

鎌倉の寂れた路地の目立たない場所にある昔ながらの二階建ての民家の一階、これまた目立たない寂れた喫茶店「一服堂」の、極度の人見知りであるのだが、難事件の話を聞きながら珈琲を飲むと一変するメイド姿の安楽椅子探偵「安楽椅子(あんらくよりこ)」が、店で常連客の語る猟奇的殺人事件の謎を解く、カフェ系アームチェア・ディテクティブ・ミステリ―が本書『東川篤哉「純喫茶「一服堂」の四季」(講談社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 春の十字架
第二話 もっとも猟奇的な夏
第三話 切りとられた死体の秋
第四話 バラバラ死体と密室の冬

となっていて、まず第一話の「春の十字架」では、売れない出版社「放談社」の「週刊未来」の編集者をしている村崎蓮司の鎌倉に住む親戚・緑川家におきた殺人事件の謎解きです。

彼は、この放談社に入り込むときに、緑川家の静子夫人の力を借りていて、それ以来、彼女の「雑用」をこなす役回りとなっているのですが、今回は、夫人の夫である隆文氏の浮気調査を頼まれます。隆文氏は地元鎌倉の私立大学の文学部教授をしているのですが、その教え子と不倫関係にあるのでは、と静子夫人が疑いをもったというわけですね。

依頼を受けた村崎は、隆文氏が不倫相手と会うために夜中にこっそり離れにある研究室に女を引っ張り込んだり、出かけたりしないように見張ることになるのですが・・という筋立てです。ところが、翌日、その部屋で、隆文氏が、細長い板を組んだ十字架に縛り付けられ、絞殺されているのが発見されます。しかし、その離れの部屋の入口には中からチェーンロックがかけられ、窓はクレセント錠で締まっています。そのほかの出入り口は小さな天窓だけで、そこから十字架の出入りはできないという密室状態で・・・という筋立てです。

事件の犯人は警察の捜査でも村崎の調査でも一向にわからないままだったのですが、村崎は偶然、鎌倉で横須賀署に勤める「夕月茜」という美人刑事と知り合いになり、彼女と本巻の謎解きの舞台「純喫茶・一服堂」へ入ります。

そこで出会ったのは、極度の人見知りの一服堂の経営者兼ウェイトレスの「安楽椅子(あんらくよりこ)」だったのですが、彼女は事件の話と村崎たちの推理を珈琲を飲みながら聞いていると、突然

甘いですわね!まるで「一服堂」のブレンド珈琲のように甘すぎますわ。もう少し苦みの利いた推理をお聞きしたかったのですが、わたくし、すっかり失望いたしました

と飲んでいたコーヒーカップを叩き壊して、謎解きを始めるのですが・・・といった展開です。

第二話の「もっとも猟奇的な夏」では、逗子駅から15分ほど山間にはいった田園地帯に住む、がソロンスタンド勤めの独身女子・天童美幸が遭遇した、これまた十字架殺人事件です。

事件が起きたのは8月下旬ころで、その日、彼女は幼馴染の関谷耕作という農業青年に頼まれて、一緒に水田の畔の草刈りをしていたのですが、それをすませた夕方、母親に頼まれて近くの農家の老人へ届け物をします。しかし、そこで彼女が見たのは、角材を交錯させた十字架にロープで固定された上に、絞殺された上に、めった刺しされた老人の死体でした・・・という展開です。

この老人の田んぼがスーパー建設の用地となっていたことから、その買収を担当する会社の営業部長や、死体の首には蛇がまかれていたところから、近くに住む、蛇を御神体とする新興宗教の教祖が容疑者として浮上するのですが、このシリーズの探偵役「安楽椅子」は、十字架に張り付けられた格好が、田んぼの中にある「ある物」の形状と同じなことに気付き・・・という展開です。

第三話の「切りとられた死体の秋」は、人気ミステリ―作家の東山の愛人兼アシスタントの女性・中原冴子が首と手首を切られた状態で発見されるという猟奇殺人です。この話の語り手となる売れないミステリー作家・南田が、東山から急に飲みにいこうと彼の屋敷に呼び出されます。

そこで、リビングの椅子にタートルネックの黒いセーター姿でリクライニングチェアに座って眠っている彼女を見たのが最後で、冴子は翌日、浴槽の中で首と手首が切られて持ち去られている状態で発見されます。手首と頭部はしばらくしてから発見されるのですが、容疑者として、冴子と愛人関係にあった東田が浮かんできます。東田は最近「ユリア」という名前の女性と親しくしているようで、その感情のもつれという線で捜査されるのですが、ユリアは東田が次の作品のために用意していた架空の人物であることがわかります。

ここで手がかりが消えたと思われるのですが、安楽椅子探偵「安楽椅子」が導き出したユリアの意外な正体と、殺害のトリックは・・・という展開です。ユリアは人間とは限らない、というのが謎解きのヒントです。ずっと以前は「南極〇号」といった名前もあったかもしれません。

第四話は、数年ぶりに「一服堂」にやってきた夕月刑事から語られる昔の事件の謎解きです。その事件は横須賀市の南、三浦半島の先っぽ当たりにある民家で起きた事件で、その家に住んでいた二人の男性のうちの一人が首筋をナイフで切られて殺されているのが発見されます。

さらに、もう一人のほうが浴室でばらばらに解体された状態で発見され、というこれまた今巻お得意の「猟奇殺人事件」ですね。そしてお決まりのように、窓には錠がかかり、入り口には中からチェーンロックがかかっているという密室状態の上に、この家の前の道路で陥没事故がおきていて、家の前は穴をふさぐ工事車や工事関係者がうるうろしているという、不振な人物がいたらすぐわかる、という状態です。

殺された男二人は兄弟で、周囲とのトラブルの絶えない乱暴者で、しかも父親の借金をたてに、無理やり結婚した美人の女性に店をやらせて金を稼がせ、自分たちは遊び暮らしているという札付きの人物なので、容疑者はたくさんいるのですが、密室トリックが・・・という展開です。
この事件が起きたのは、夕月刑事が一服堂に再来店する10年前というところが謎解きのヒントで、そのころは神奈川県といえども、田舎のほうはまだくみ取り式の便所はあったらしく、といったことがキーになります。

レビュアーから一言

今巻の読みどころは、極度の人見知りでありながら、死んだ父親から相続した遺産の一つである「一服堂」を、亡き父親の思いに応えるために閉めるわけにもいかず、初対面の人の接客は大の苦手ながら客の前に立ち続けなければいけないという「不幸な宿命」の持ち主であり「安楽椅子(あんらくよりこ)」の豹変ぶりです。

初見の御客が来ると「お、お客・・・お客・・・てことは!」「ーってことは。あ、あなたは、こ、この店に、こ、珈琲を、お、お、お飲みにいらっしやったのでございますか!」といった動転ぶりで、店の雰囲気はそれなりだけど、珈琲の味はいまいちといった状況から、一旦、事件の話を聞いて、珈琲を口にすると

「なんですの、黙って聞いていれば、その薄味な推理は!薄い、全く薄すぎます!まるで、この「一服堂」の珈琲のようですわ!」

という言葉とともに、濃厚な珈琲と鋭い推理を展開する、というギャップが楽しいですね。

純喫茶「一服堂」の四季 (講談社文庫)
鎌倉にひっそりと佇む喫茶店「一服堂」の美人店主・ヨリ子は極度の人見知り。だ&...

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