ライオン・ガール探偵の今回の仕事は「カメ捜索」や「南京錠はずし」ー東川篤哉「ライオンの歌が聞こえる」

神奈川県のほぼ中央部、茅ヶ崎市と大磯町に挟まれた「湘南地区」の中心あたりにありながら、イメージ的には後れを取っている感のある「平塚市」。
その市内の相模川沿いの雑居ビル「海猫ビルディング」で探偵業を営む27歳の「野生ライオン」こと野性味のある美貌と美脚が特徴の「生野(しょうの)エルザ」と、彼女の同級生の元OLで全く印象が薄いのが特徴の「川島美伽(かわしまみか)」の二人が、地元で起きる難(?)事件を、速攻かつ乱暴に解決していく探偵ミステリ―「平塚おんな探偵の事件簿」シリーズの第2弾が本書『東川篤哉「ライオンの歌が聞こえる 平塚おんな探偵の事件簿2」(祥伝社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 亀とライオン
第二話 轢き逃げは珈琲の香り
第三話 首吊り死体と南京錠の謎
第四話 消えたフィアットを捜して

となっていて、第二弾は「生野エルザ探偵事務所」にやっていたあるモノの捜索のために、相模川の河川敷に草むらを捜索する二人の姿から始まります。

まず第一話の「亀とライオン」は、「人捜し」ではなく「カメ捜し」が依頼の案件。
依頼主となったのは、身長は平均的ながらその他はすべて上回っている超肥満帯の男性。そしてその彼が捜索を頼んできたのは、「ミツキ」ちゃんという名前を持つ「カミツキガメ」です。彼は池でそのカメを飼っていたのですが、最近降った雨で池が増水して近くの相模川に逃げ出してしまった、ということで、エルザたちが相模川の河川敷を毎日捜索しているというわけですね。しかし、一向にカメが見つからないまま一週間が過ぎた頃、依頼者のもとに相模川でカミツキガメを見たという情報が入ります。早速に探しにいくという依頼者に遅れてやってきたエルザと美伽が見つけたのは、川の岩場に、裸足で倒れて死んでいる依頼者で・・という展開です。
ネタバレのヒントは、カミツキガメを買うのを奥さんが喜んでいるかどうか、というあたりです。

第二話の「轢き逃げは珈琲の香り」では、競輪場で出会った、茶色のブルゾンに黒いパンツルックの顔つきは柔和だが眼光の鋭い老女・岩本和恵さんににおきた事件です。彼女と知り合ったのは平塚競輪場。そこでエルザと和恵ばあさんがそれぞれ有り金を賭けた車券が大外れ、しかし、美伽の買った車券が大当たりして、皆で美伽のおごりでどんちゃんさわぎをしていっぺんに親しくなります。しかし、呑み会が終わって解散した後、和恵ばあさんが帰り道に車にはねられて大怪我ををさせられてしまいます。しかも、はねられている彼女は、温かいレギュラーコーヒーまみれになっていて・・という筋立てです。
この事件は、ひき逃げをした貿易会社の社員が自殺してしまって、迷宮入り思想になる所を、エルザが名推理を見せます。
そして、この老女の正体もいわくつきなのですが、それが何なのかは原書のほうで。

第三話の「首吊り死体と南京錠の謎」では、平塚にある大学の登山部の女子学生が依頼にやってきます。それは平塚市と大磯町の境界線あたりにある湘南平では、テレビ塔の周囲の金網に恋人たちが南京錠をぶらさげて愛を誓うというイベントで有名になっているのですが、そこにかけた自分と恋人がかけた「南京錠」を外してくれという依頼です。てっきり、壊れた恋の精算で鍵を外してくれという依頼かと思うのですが、実は、彼女の恋人は少し前に山で遭難して亡くなっていて、というお涙頂戴物語です。そして見事、鍵を外して片付けたエルザたちに、翌日、その女性が大学の登山部の部室で自殺したということを警察から知らされます。警察は自殺の線で操作しているようなのですが、大学に調査にいったエルザはあることに気がついたようで・・、という展開です。
ネタバレは、依頼者は本当の本人なのか、といったところですね。おまけに恋人が山でしんでしまった女性というと、てっきり悲劇の主人公と思うのですが・・、という二重のし掛けがされています。

第四話の「消えたフィアットを捜して」では、エルザと美伽の後輩の男性・飯田孝平からの依頼ごと。彼はある夜、仕事のウサを晴らすため、愛車のランクルで平塚市の海岸ぎわの砂防林をドライブしていたのですが、そこで、黒いSUVにぶつかりそうになります。あやうく双方がハンドルを切ってその車とぶつかるのは避けたのですが、後ろについていたフィアットと衝突し、彼はぶつかった勢いで発射されたエアバックで失神していまいます。そして気がつくと、そのフィアットも、運転者も消えてしまっていた、というものです。
ところが、その後、そのフィアットが山中の溜池に落ちて運転者の女性が溺死しているのが発見されます。その転落事故は、飯田がフィアットとぶつかった頃に起きていて・・という謎解きです。さらに、容疑者として、その女性の再婚相手の男性が浮上するのですが、彼にはアリバイがあり、といった展開ですね。アリバイのキモは事故が起きた頃、自宅の車庫に、そのフィアットが駐車していたのが目撃されていたことなのですが、この車の正体が謎解きの鍵になります。

レビュアーから一言

第2弾となると、登場人物の人物造形も細かくなってきていて、エキゾチックな派手なん美人顔で、美脚の持ち主の「エルザ」は人目で顔やスタイルを覚えられるのですが、美伽のほうは、地味な服装のせいか印象が薄く、しかも第三話で入り込んだ大学の構内でも、事務員か教員に間違えられるという始末です。こうなると、彼女は時折披瀝する

高校時代の私といえば、まさしくコートに咲いた一輪の白百合もしくは霞草。ひとたび私がテニスルックでラケット片手にコートに立てば、そのキュートで可憐な姿をひと目見ようと、金網にへばりつく男子が続出。熱狂の渦が二重三重にコートを取り囲んだ

という「川島美伽伝説」もどこまで本当が疑わしくなるところであります。

ライオンの歌が聞こえる――平塚おんな探偵の事件簿2 (祥伝社文庫)
“ライオン探偵”エルザと天然ボケの助手・美伽が挑む厄介な事件。「家出した亀&...

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