警視庁のオエライさんの気まぐれで法医学の新分野として捜査活動の中に組み入れられ、とうとう警察の正式組織「捜査分析支援センター」の一分野に昇格した「法医昆虫学」。警視庁の捜査官として正式採用になっても、相変わらずKYな女性准教授・赤堀淳子が、死体に蠢くウジや現場の腐敗臭をものともせず、被害者や犯行現場に残された「虫の声」を聞き分けて、通常捜査や鑑識活動では見抜けない事件の真相に迫っていく「法医昆虫学捜査官」シリーズの第6弾が本書『川瀬七尾「紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」(講談社文庫)』です。
「紅のアンデッド」の構成と注目ポイント
構成は
第一章 法医昆虫学者とプロファイラー
第二章 似通って二つの家
第三章 不純な動機
第四章 三人の研究者
第五章 救済とエゴイズム
となっていて、警視庁の科捜研の組織が大幅変更になり、赤堀准教授が仮採用となっていた「法医昆虫学」が、犯罪心理学や技術開発部とあわせて「捜査分析支援センター」として正式発足することになります。しかし、捜査にあたる現場の警察署や刑事の感覚はまだまだキワモノ扱いな上に、一緒になった犯罪心理学や技術開発部の研究員は科捜研から追い出されたという被害者意識をもっていて、と前途多難なスタートではあります。
今回の事件は荻窪の古い一軒家でおきます。ここには初老夫婦が住んでいたのですが、ここの座敷でおびただしい血痕が飛び散り、派手に争った形跡があるにもかかわらず、死体は見つからず、畳の上にここの住人である遠山夫婦とこの家を訪れていたらしい一人の客の三人のものらしい小指が転がっていた、というもの。しかも、犯人のものらしいスニーカーの足紋は残されているのですが、三人の死体を運び出した形跡は見つからず。警察犬も投入されたのですが、周囲を嗅ぎ回ってまた部屋の中にもどってきた、という状況です。
捜査本部のほうも夫婦の交友関係や周辺を調べるのですが、殺人なのか傷害なのか、失踪なのか見当がつかない、といった状況で、ここに、岩楯刑事と鰐川刑事という昆虫学者のお世話係としておなじみのメンバーが投入されているわけですね。ただ、昆虫学者・赤堀のほうは、正式採用になったため、科捜研と同様に現場に出ることなく小指にたかったウジの調査をすることとなり、少々鬱憤が溜まっているようです。
岩楯たちの捜査のほうは近所の聞き込みから、被害者の遠山夫婦の妻が、昔、夫からのアルコール中毒によるDVで悩んでいたということや最近、近所の絞り染教室に通い始めたのだが、そこでボス格の教室の主宰者から疎まれて辞めたことなどを調べ上げるのですが、事件の真相に迫るネタにはなりきっていない状況が続きます。さらに、赤堀と同じセンターの配属になった犯罪心理学のプロファイラー・広澤の「この事件は、過去の同じような被害者行方不明事件との類似性がある」というプロファイリングから二十三年前の事件の被害者のところを訪ねるのですが、現場の雰囲気が似ているという印象を得ただけで、それ以上の成果はないですね。
謎解きのほうは、やはり、昆虫学者・赤堀が現場に入り込んできたあたりから動き始めます。小指のウジの腐食の進度が違っていたことに疑念をもったことに始まりって、現場で「やけど虫」が異常発生していることに気づき、現場の畳をあげて床下を顕にしたことによって事件の意外な真相が明らかになってきます。
そして、それは被害者の遠山家の隣人で、町内を支配している絞り染め教室を主宰している美人人妻の悪意をあばくとともに、プロファイラー・広澤のプロファイリングのとおり、岩楯たちが捜査した23年前の被害者行方不明事件とも関連してきて・・という筋立てです。今回の事件のあった現場と同様、23年前の事件のときも「やけど虫」が大発生していたというのが、被害者たちの行方と謎解きの鍵となります。
レビュアーの一言ー赤堀の過去の秘密が明らかになる
今巻では昆虫学者「赤堀」が隠していた過去の一端が垣間見えます。それは、彼女の父がアルコール中毒で家庭でのDVの末、行方がわからなくなっているというもので、彼女は祖父母に育てられ、その祖父母のすすめでアメリカに留学して昆虫学を修めたようです。
法医昆虫学はアメリカが本場ですから、彼女の技術も「本場仕込み」といっていいかもしれません。
今回新設された「捜査分析支援センター」では、同じくアメリカが本場のプロファイリング担当の広瀬も合流してきているので、彼女たちによる「横槍」推理がますます楽しみですね。
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