井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」=飛び石毒殺事件は聖女の祟りか?

母親の修道女の「奇蹟の聖女」から「稀代のペテン師」へ貶められた汚名を晴らすため、「奇蹟があること」の証明を自らの使命としている探偵・上苙丞が不可思議な事件の謎を解く「その可能性はすでに考えた」シリーズの第2弾が本書『井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」(講談社文庫)』です。

今巻で一番出番の多いのは、上苙の弟子で、頭脳明晰・博覧強記の天才小学生・八ツ星聯。自分の代わりにフーリンにカブトムシ採りに連れて行ってもらえという上苙のそそのかしを真に受けて、フーリンの後を追いかけていった先の地方都市ででくわした、不可思議な毒殺事件の謎に挑んでいきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一部 婚
第二部 葬
第三部 悼

となっていて、事件のほうは新幹線の駅から私鉄を乗り継いで到達する地方の町でおきる毒殺事件です。
毒殺事件がおきたのは、地元の金持ちの有力者・俵屋家の長男とその結婚相手の「和田瀬那」との結婚式の会場です、この地域の結婚式の風習で、三々九度ではなく、大盃に酒を注ぎ、それを出席している親族で「回し飲み」をするしきたりがあるのですが、その席で、花婿の父、花婿、花嫁の父が毒にあたって死んでしまうという事件が起きます。ただ、死んだ人の間には別の出席者が挟まっていて、同じ盃から酒を呑んだ出席者なのに、一人置きに、飛び石に死者がでた、という奇妙な事件です。さらにその盃の酒を呑んだ犬も死んでいるので、毒はその盃の酒に仕込まれているのは明白となっているという仕立てです。

この地方には、昔、悪徳領主に無理やり我が物にされそうになった美女「カズミ』様が夾竹桃の毒を使って領主一族を毒殺して難を逃れた、という伝説が伝わっていて、瀬那の結婚も、花嫁父親の借金のために望まない結婚を迫られたというシチュエーションから、今回の事件は「カズミ」様の呪いか、なんて無責任な噂も飛び交い、事件捜査をかく乱することになります。

ここで容疑者となるのが、実家が俵屋家からうけている融資の形代に結婚することになった花嫁・和田瀬那、甥の翠生との不倫が夫にばれそうになっている花婿の母・俵屋紀紗子、花婿と仲の悪かった花婿の妹。俵屋アミカ、キヌア、「大盃の回し飲み」の介添えをした毒死した犬の飼い主の少女・山崎双葉の5人です。

どうやって、犯人は飛び石に毒殺をしかけることをできたのか、事件の現場にいあわせた容疑者を含めた人々が、それぞれに罪をきせようと様々な推理を展開します。

その推理は

①アミカが酒器の銀彩部分に毒を塗り、銀彩部分の口をつける順番となる奇数番の人間を殺したという「奇数番殺害説/アミカ単独犯説」

②被害者が最初に倒れたのは演技で、被害者たちを解放した紀紗子の浮気相手の翠生が殺したという「時間差殺人説/翠生・紀紗子共犯説」

③花婿はアミカが、花嫁の父は花嫁が、花嫁の父はキヌアがそれぞれ殺したという「一人前犯行説/アミカ・花嫁・キヌア複数犯説」

④双葉が犬を故意に乱入させ、花嫁と組んで毒殺した「犬故意乱入説/双葉・花嫁共犯説」

といったものなのですが。これに対し、天才小学生・八ツ星がそれぞれの説の弱点を指摘し、結局、犯人は誰なのか、作中では五里霧中になっていきます。ただ、ここで筆者の禁じ手が炸裂。犯人が突然ここで犯行をほのめかしますので、注意してくださいね。(もちろん、ここにも、作者のフェイクが隠されているので二重に注意が必要です。)

ただ、犯人がわかったところで、このミステリーが終わらないのが本巻のスゴイところで
毒殺された「犬」が、フーリンが以前属していた中国マフィアの親玉・沈雯絹の愛犬であったため、この事件の関係者全員が彼女によって太平洋上に浮かぶ巨大客船に拉致され、そこで誰が真犯人かつきとめるという計画を実行します。
フーリンは、沈雯絹が行う「尋問」のヘルプのため招聘され、船上での取り調べに同席することになるのですが・・・といった展開となります。

ここで、囚われた「双葉」の命を救うため、八ツ星少年が乗り出します。彼は、師匠の上苙丞の「この事件は「奇蹟」だ。この事件に「犯人」はいない」という言葉を論拠に双葉たちの無罪証明を始めるのですが、沈老大やリー氏―によって論破されそうになります。

八ツ星は師匠の上苙からの応援でなんとか盛り返すのですが、ここで沈老大の部下・エリオ・ボルツォーニが犯人は「家政婦だ」という新たな推理を持ち出してくるのですが、実はこれがフーリンの毒殺計画に実行犯なんですね。ここに至って、フーリンが毒殺の黒幕とバレてしまうのか・・というところで、やっと「上苙丞」の謎解きが始まり、フーリンの毒殺計画が失敗していたことが明らかになります。
そして、この毒殺事件の仕掛け人と本当の狙いが明らかになるのですが、ここで再び、上苙の宿敵・カヴァリエーレ枢機卿の影が・・という展開です。

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レビュアーの一言

今巻も、メインの謎解きとなる「結婚式での一つおきの毒殺事件」の推理に対して、「謎解き」が何個も登場し、それに対する反証も行われ、と通常のミステリー何冊分もの「トリック」「謎解き」が惜しげもなく披歴されています。
そして、その推理劇が、上苙やフーリンを始めとする、とてもキャラの濃い人物たちによって繰り広げられることで、浮世離れ感を強めていて、その嘘っぽさがこのシリーズのストレンジ・テイストを増していますね。

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