四人の高校生は、救出を待つ美人女性教師の真実の姿に気づく=辻堂ゆめ「卒業タイムリミット」

卒業式を三日後に控えた高校で、生徒に人気のある美人女性教師が誘拐されてどこかに監禁されてしまいます。その女性教師の拘束され、衰弱していく様子が動画で定期的に配信されるのですが、彼女を生きたまま救い出すよう、犯人から指名された高校生たちに立ちはだかるのは、災害時に人間が飲まず食わずに生きられることのできる「72時間の壁」。犯人の目的は?、そして女性教師はどこにいるのか、とスタートする青春ミステリーが本書『辻堂ゆめ「卒業タイムリミット」(双葉文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

舞台となるのは、元エリートビジネスマンで、自らの信じる教育理念を実現するため、潰れかけていた高校を再生させ、進学実績と部活の実績アップに学校ぐるみで取り組んでいる開校5年目の「欅台高校」。この高校では理事長の小菅泰治のもとで、面談と「告白カード」と称する生徒からの生活報告に基づく指導が行われていて、成績だけでなく、生活態度に問題のある生徒は繰り返し理事長室で説教されるという、かなり「息苦しい」学校です。

この学校で卒業式の三日前になって、明るい茶髪でミニスカートが特徴の、高校教師というよりは雑誌モデルのようなスタイルで、友達のように接してくれるため、生徒から人気の高い「水口里紗子」という英語の女性教師の行方がわからなくなってしまいます。そのうち、手首と足首を拘束され、どこかの部屋に監禁されている彼女の姿を撮影した動画が動画サイトにUPされます。そこでは、「今から72時間後に、彼女を始末する」という犯行予告もされていて・・という筋立てです。

当然、学校だけでなく、警察も入って捜査を開始するのですが、手がかりのつかめない中、4人の3年生の生徒に

「この手紙を受け取った四名の生徒は欅台高校の体育館裏に集合のこと
 誘拐の謎を解け
 真相は君たちにしか分からない   C」

という呼出状が届きます。呼び出されたのは、理事長室呼び出し回数なNo1で、以前は他校の不良ともつるんで悪さをしていたが、母親が子宮がんにかかり今のところは真面目に暮らしている元不良男子「黒川良樹」、元サッカー部でスポーツ推薦間違いなしと言われていた「荻生田隼平」、交際を申し込んで玉砕した男子生徒多数の、学校一の美少女「小松澪」、帰国子女で英語ペラペラの成績優秀で東大合格間違いなしと言われている、黒川の幼なじみ「高畑あやね」の四人。クラスも経歴も違い、黒川と高畑以外は、互いにそんなに親しくない四人は、女性教師を救出するため、一緒に捜索を開始するのですが・・・、という展開です。

ところが捜索を進めるにつれ、人気の高かった女性教師が部活指導もサボりがちで、英語の指導もいい加減、私生活では毎晩、異なる男性と遊び歩いていて、職員室の他の教師からは嫌われ者だったということがわかります。

また、彼女の失踪当時の様子などから、部外者ではなく、学校内部の者の犯行ではないかという疑いが強くなり、四人の生徒は「C」という犯人のイニシャルらしきものを手がかりに、彼女と対立していた体育教師や家庭科教師、彼女にパシリのように扱われていた美術教師、さらには黒川を不良たちから救い出してくれた国語教師・伊藤を調べていくと・・と展開していきます。

さらには、犯人に指名され、水口の捜索を始めている四人の生徒にも、高校生活で苦い経験を抱えていて、それぞれに水口を始めとする教師たちへの恨みを抱えていることも明らかになり、と物語が動いていきます。

少しネタバレすると、物語の要所要所で挿入され、物語の隠された部分を表に出してくる生徒からの「告白カード」が謎解きの鍵になっていきます。

ちなみに、最後の方で、表と裏の落差が激しくて「嫌な女」という印象が増していく英語教師・水口里紗子が気まぐれで引き起こす黒川良樹と高畑あやねの間におきていたエピソードは意表をつきますね。負けず嫌いの「あやね」であれば来年の春はきっと良い結果がでているであろうと期待しております。

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レビュアーからの一言

このミステリーは、2022年4月からNHKで、黒川良樹役に井上祐貴、高畑あやね役に桜田ひより、荻生田隼平役に西山潤、小松澪役に紺野彩夏のキャストでテレビドラマ化されてます。失礼ながら、この物語の影の主役ともいえる、裏表のあるキャラの水口里紗子を演じる滝沢カレンちゃんの演技が気になる所ですね。

物語的には、「いなくなった私へ」でデビューして、「今、死ぬ夢をみましたか」や「僕と彼女の左手」など数々の傑作青春ミステリーを著している辻堂ゆめさんが、ミステリー・テクニックを凝らしつつも、家族愛や教師や友人との繋がりに満ちた高校生活を思い起こさせる泣かせるミステリーになっていて、読み応え抜群の物語です。

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