桑原と奈々は、常陸国に斃れた安曇族の秘史を解き明かす=高田崇史「QED 神鹿の棺」

東京都目黒区にある漢方薬局に勤務する薬剤師ながら、日本史の秘められた謎にめっぽう詳しい「桑原崇」が、「同級生のフリーのジャーナリスト・小松崎の依頼で日本全国でおきる怪異な事件の謎解きに駆り出されながら、後輩の薬剤師・棚橋奈々とともに旅をし、各地の名所や神社・仏閣に隠されている秘史を明らかにしていくQEDシリーズの23冊目が本書『高田崇史「神鹿の棺」(講談社ノベルス)』です。

この「QED」:シリーズは2011年にでた「伊勢の曙光」で、伊勢神宮の謎を解くとともに、桑原崇と棚橋奈々の仲がいい感じになったところで一応の完結となっていたのですが、2019年に長編が再開されての三冊目がこの「神鹿の棺」です。

設定的には、崇と菜々の会話によそよそしいところが見受けられるので、最終篇にいたるまでのエピソードと考えておけばいいですかね。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
鹿鳴
麝香
鹿苑
麗沢
麓崩
麒麟
エピローグ

となっているのですが、このシリーズで事件の遠因が示されるプロローグのところでは、常陸の国にある小さな村で、村人たちが諏訪からやってきた旅人の路銀を奪って死体を投げ込んだ「あんど川」が氾濫し、それを鎮めるため、人身御供を捧げるところが描かれていますので、シチュエーションや名前を覚えておきましょうね。

で、今回の事件は、茨城県の田舎のほうにある「三神神社」という寂れた神社で、大きな陶器の甕がいくtも発見されるのですは、その一つに、かなり昔、おそらく戦前にものであろう白骨死体が入っているのが発見されるところから始まります。

この神社の祭神は、鹿島神宮の主神・武甕槌神、香取神宮の主神・経津主神、そして縞や模様の入った布・倭文の化身で、東国平定に貢献した建葉槌神の三神を祀った神社らしく、怪異な事件でスクープを狙う小松崎の取材に、祭神に興味をもった桑原と奈々が随行して、茨城へと向かうこととなります。

彼らが向かう茨城県、つまり常陸国は、風土記のころから開墾されよく耕された田畑と山海の幸に恵まれた土地であるのですが、タタル(桑原崇)に言わせると、そのため朝廷に目をつけられ、土着の人(「国巣」と朝廷側は呼んだようですが)を不意打ちしたり、闇討ちしたりして土地から追い払い、自らの支配地としていった歴史をもつところのようです。
ここで、いつものタタルの「朝廷の悪口」がたっぷり語られていますので、ちょっと煩くはありますが、今巻の歴史の謎解きに重要なので、お見逃しなきように。

そして、タタルたちは、東国三社といわれる鹿島神宮と香取神宮と息栖神社を調べ始めるうち、これらの神社が祀っている神たち、武甕槌神、経津主神、建葉槌神が、朝廷の東国征服の中で果たした役割と、シリーズの今までで登場した「安曇一族」の姿や、朝廷に大きな貢献をしたに違いない、「猿田彦神」の不幸な最期を明らかにすることとなっていき・・という展開です。

一方、事件のほうは白骨死体が見つかった神社の宝物殿の中に安置してあった瓶の中に、今度は後頭部から血を流して死んでいる老人が膝を抱えるようにして押し込まれているのが発見されます。この老人はこの神社の元宮司をしていた人物ということで、いつものように歴史の闇の部分がじわじわとでてきそうな感じですね。
そして、最初にみつかった白骨死体は、戦中から終戦にかけての、20代から40代の男性のものとわかるのですが、この死体と死亡していた老人との関係は・・と謎は深まります。
さらに、神社近くの村に済む60歳過ぎの女性が、「すみませんでした」という遺書を残し、近くの安渡川に身をなげて自殺しているのが発見され・・と展開していきます。

タタルたちが明らかにする朝廷の東国支配の陰に隠された神々の真の姿とは、そして、日本に三つしかないという古来からの「神宮」が「鹿島神宮」「香取神宮」と、この常陸国にある理由、さらにはその謎と今回の瓶にいれられた二つの死体との関連は・・、というところで、三神神社の村の古老たちをあつめて、二つの謎解きを桑原祟が「語って」いきますので、原書のほうで、その歴史秘話をお楽しみください。

QED 神鹿の棺 (講談社ノベルス)
茨城県の山中にある寂れた神社の宝物庫にあった陶製の大瓶の一つから、膝を抱え&...

レビュアーの一言

今回の歴史上の謎解きは、前々作の「QED 優曇華の時」で明らかにされた、九州を追われ、信州へと辿り着き、そこで「鵜飼」をはじめるとともに、朝廷の密偵や兵士としていいように使われた「安曇族」や「隼人」たちが、その後、常陸国征服の先兵とされ、最後は非業の死を迎えるという「QED 優曇華の時」後編みたいな感じになっていますので、そちらと併せて読むと、「安曇族」や「隼人」の哀れさがより一層感じとれるかもしれません。

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