後宮の居眠り女官が、中華の宮廷でおきる変死事件の謎を解く=小野はるか「後宮の検屍女官」

中国唐代をモチーフにしたような架空の王朝「大光帝国」の後宮を舞台に、皇帝の妃の一人が不審な死をとげた上に、棺の中に赤ん坊の遺体も見つかったという怪奇な事件を発端に、皇后の命をうけた中宮付きの美貌の宦官・孫延明が、皇帝の寵姫の侍女で、出世欲や野心がなく、ぐうたらと暇さえあれば寝ているのですが、検屍となるととんでもない才能を発揮する女官・姫桃花とともに、後宮内でおきる怪異な事件の謎や冤罪を晴らしていく、中華ファンタジー系後宮検屍ミステリーが本書『小野はるか「後宮の検屍女官」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 死王
第二章 冤罪のなる木
第三章 猫の声
第四章 罪

となったいて、このシリーズの主役たちを紹介すると、まず探偵役を務めるのが、皇帝の寵姫・梅婕妤の侍女の姫桃花。彼女は一応、名門の「姫」家の出身となっているのですが、実はその容姿をかわれて、暗殺された検死官の孫娘から姫家の養女となり宮廷へ仕えたという経歴です。生来の性格から野心も出世欲もなく、主人の梅婕妤がいずれ息子の皇子がどこかの地に封じられるのにくっついて後宮を脱出しよう、というのが望みで、暇さえあれば「寝ている」という宮女です。

ワトソン役を務めるのは、冤罪によって腐刑を受けた、孫延明という美貌の宦官。彼はもとは皇太子付きの廷臣であったようですが、今は人目を避けて許皇后付きの宦官となっていて、皇后と皇太子の密命を受けて後宮内の不審な事件を捜査してまわっています。この二人を中心に、後宮内の宮女や宦官たちが登場するのですが、後宮内政治的には、許皇后と梅婕妤の仲はあんまりよくない上に、皇帝の寵愛を独占するため、美しい宮女は梅婕妤が自分の局内に囲ってしまって、皇帝の目がふれないようにしている、という設定です。

ちなみにこの話のモチーフとなっている中国唐代の後宮の階級は皇后は別格として、四夫人(貴妃、淑妃、徳妃、賢妃。正一品)、九嬪(昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛。正二品)、二十七世婦(婕妤、美人、才人。正三品から正五品)、八十一御妻(宝林、御女、采女。正六品から正八品)となっているので、この官制どおりであれば、寵姫の梅婕妤はそんなに高い地位の人ではないのですが、この物語では上位職の任命がされていないのか、「婕妤」の職が実質的な最高位となっているようです。

第一の事件は、まず皇帝の寵愛を一回受けて妊娠したものの妊娠七カ月で突然死した「李美人」が死後に産み落とした赤子が幽鬼となって、母をいびり殺した犯人を探して後宮内を夜な夜な這いずり回っている、という噂が流れます。

この噂の出どころとその目的を探るため、後宮の采配する皇后の命を受けて、美貌の宦官「孫延明」が捜査を始めるのですが、この捜査メンバーの一員となったのが梅婕妤付きの、寝るのが大好きな侍女・姫桃花。彼女は「死王」といわれている幽鬼を怖れないばかりか、検屍の知識もあるようで、という筋立てです。

ここから二人によって、李美人が暮らしていた殿舎でおきた碧林という宮女が、目が半開きで歯茎を剥きだして死んでいた怪事件の真相を解き明かしていきます。この宮女変死事件は、「死王」の呪いという噂がたつのですが、桃花が碧林の体についていた噛み傷を根拠に、その検屍と病理の知識で科学的な推理を展開していきます。

第二の事件は、「碧林変死事件」で知り合いになった桃花に、宦官・孫延明が彼の恩人で、後宮内の妃嬪や女官の取り締まり役である「掖廷令」の役についている「甘甘」という宦官の部下(病児)殺しの嫌疑を晴らしてくれるよう依頼します。その死体には、数多くの打撲跡が残され、そのうちのいくつかが死因と思われていたのですが、桃花はその跡が「打撲」ではなく、フェイクであることを見抜き・・・という展開で、彼女が南方の植物や毒の検出知識もあることを披歴しています。

さらに、第一話で変死した「碧林」の死体をみつけた女官・高莉莉の自殺事件が他殺であることを見抜いたり(「猫の声」)、第二の事件で殺された「病児」殺しの真犯人を探しているうちに、第一話ででてきた李夫人が突然賄賂まで使って皇帝の寵愛を求め始めた理由を探り当て(「罪」)、その結果、後宮内を揺るがす秘密を明らかにしてしまうのですが、詳細のほうは原書でどうぞ。

後宮の検屍女官 (角川文庫)
「死王が生まれた」大光帝国の後宮は大騒ぎになっていた。 謀殺されたと噂される...

レビュアーの一言

今回のメイン・テーマとなっているのが「検屍」いわゆる「法医学」なのですが、中国では南宋時代(1127~1279)頃に「洗冤録」という書物が刊行されたり、元代に1308年に「無冤録」という検死書がだされたり、という記録があるようで、本書のモデルであろう「唐」の時代は、まだ発展途上の段階であったろうと推測されます。ただ、本書で主人公の姫桃花は、祖父伝来の技術を活用し、

蒸した米ともち米に卵白を混ぜて団子をつくり、遺体を口をこじ開けたかと思うと、やにわに歯の外側につめこんだ。
周囲が絶句するなか、今度は銀の簪を手にとると、それをサイカチで洗い、のど奥不覚に挿入する。鼻、耳、肛門を綿でふさぎ、口を布帛で密封した。
それから暖かい酢を病児の上半身にふりかけ、酒粕で覆う。布帛を体全体にかけ、そのうえにも熱した布帛を敷く

といったやり方で掖廷令の補佐宦官・病児が毒殺であることを見抜いたり

漢方の一種である白梅を細かく砕いた。そこへ葱、山椒、塩、酒粕を入れてさらに砕き、餅状に丸めて火鉢で蒸し焼きにすると、暑くなったそれを布で包み、遺体の両腕にまんべんなくあてていく

といった手法で、李夫人の死体から拘束跡を浮かび上がらせていて、「古の秘術」のような検屍の技術を見せてくれています。

ちなみに、第一巻は2022.06.301現在、Kindle Unlimitedで提供されていますので、会員の方も新たに会員になる人も、まずはUnlimitedで読んでみて、気に入ったら次巻以降を購入していただけるとよいですな。

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