内藤了「堕天使堂 よろず建物因縁帳」=春菜は廃教会に潜む古の悪魔を浄化する

広告代理店に勤務するバリキャリ・ギャルながら、怪異を呼び寄せてしまう「審神者」の才能もあわせもつ高沢春菜が、仙龍の号を持つ曳き屋師にして、古来から伝わる隠温羅流の導師である鐘鋳建設の経営者の守屋大地、守屋の会社の従業員で軽薄そのものの風貌ながら文化人類学の専門家・祟道浩一、廃寺三途寺の生臭住職・加藤雷助と、建物や山河に依った怪異を封じ浄めていく「よろず建物因縁帳」シリーズの第6弾が本書『内藤了「堕天使堂 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻では、鎌倉時代の人柱となった僧侶を慕う若い娘の執念が桜にとりつき、地滑りで発見され、学術調査のために移設された想い人の遺体を取る戻そうとする妄念を浄化した春菜・仙龍チームだったのですが、今回は、外国から持ち込まれ、長野市の中心部にある廃教会にとり憑いた悪魔に挑みます。

あらすじと注目ポイント>春菜は廃教会に潜む古の悪魔を浄化する

構成は

プロローグ
其の一 長坂パグ男の新事務所
其の二 オリバー・ガード聖教会堂
其の三 死んだ蠅
其の四 三つ首の影
其の五 生き残りの証言
其の六 悪魔の依り代
其の七 堕天使堂
エピローグ

となっていて、まずプロローグのところで、50年前におきた大学の考古学サークルでおきた、集団リンチ事件から始まります。当時、過激化していた学生運動の影響を受けて、社会革命を夢見る学生たちが、主義主張の違いが激化して、互いに殺し合った事件のように見せて、実はそのきっかけに外国から持ち込まれた悪霊が絡んでいることが示唆されています。

物語の本筋は、そのリンチ事件の生き残りの男子生徒が訪ねてきた「教会堂」を、春菜の天敵である長坂所長が、自らの事務所として使うための改装工事を、春菜の勤務する広告宣伝会社・アーキテクツのメンバーが始めるところからスタートします。
この教会堂は、リンチ事件の学生が逃げ込んでしばらく経過してから、その教会をあずかる牧師が自分の妻と娘の首を切って殺し、自分も行方不明になるという事件がおき、そのあと無人のまま現在まで放置されていたのを、長坂所長が買い叩いた、という流れです。事故物件とはいえ、建築資材には、長野県で始めて焼かれたレンガが使われていたりして、文化財価値があるのを安く手にいれ、改修後は事務所兼博物館としてうまく宣伝に使おうという魂胆のようです。

そして、この改修工事の現場で、工事に携わった社員の持った丸のこが空中に浮かび上がって暴走し、他の社員の指を切り落としてしまったり、50年前に牧師の妻と娘が惨殺された部屋を封印していた扉の筋交いを外した途端、同行していた古民家の解体や修復を扱う会社の社長が、落ちていたバールを拾い、襲いかかってきたり、と怪現象が続きます。

さらに春菜のほうは、部屋に落ちていた人形を拾った途端、惨殺された牧師の娘の「お父さまが悪魔を殺した。それで・・悪魔は・・」という声と娘の幻を見て・・・といった流れです。

長坂所長は、いわくつき建物であることを承知で購入し、改装と浄化をセットでアーキテクツに押し付けようとしているのは見え見えなのですが、契約を交わした以上、解約すれば多額の違約金を取られた上に悪評をばらまかれるのは間違いなく、春菜たちは「大人の事情」で、仙龍たち鐘鋳建設や、雷助和尚の助けを借りて、この教会堂に憑いた「悪魔」の浄化に挑んでいくことになります。

しかし、今まで対峙した日本の悪霊とは違って、外国、しかも日本より歴史の古いシリアから持ち込まれた悪霊とあって、簡単に浄化ができる相手でもありません。春菜と仙龍は鐘鋳建設の総力をあげて立ち向かうのですが、そこで彼らが悪魔が潜んでいると思われる地下室へと踏み込むために使うのは・・ということで、今までの鬱憤を晴らすかのように、長坂所長を欲で釣って、地下室へ真っ先に入っていく「楯」として使われることになります。
そして、そこで見つけたのは、悪魔の依り代として使われている状態の、行方不明になった「牧師」だったのですが・・という展開です。

少しネタバレすると、今回は「悪魔祓い」の定番技である「太陽の光」を使った浄化なのですが、悪魔の籠る地下室までどうやって太陽の光を導くことができたかは、原書のほうでお確かめくださいね。

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レビュアーの一言>シリア由来の堕天使の正体は?

今巻で春菜たちが戦う「悪魔」は北信州大学の研究チームが50年前にシリアから持ち帰った「石像」に憑りついていた悪魔、となっているのですが、紀元前8000年前から人々が定着を始め、紀元前3000年前には都市国家が建設されていた、世界で最も古い歴史を持つ地域の一つですので、その悪魔・悪霊も相当古くから存在しています。
有名なのは、紀元前3000年頃にこの地を拠点としていたカナン人の神であったものが転じた「バアル」神で、足を前後に開き右手を挙げているポーズで描かれることが多い悪魔です。本書の悪魔がそんな姿をしていたかどうかは描写されていないのですが、悪意の強さからおそらくそうでは、と推測するところです。

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