麹町と歌舞伎町に出現する怪異の正体を暴け=内藤了「呪街 警視庁異能処理班ミカヅチ」

幼いころから霊視ができるため、周囲から疎まれて成長し、フリーの「祓い師」をしていた青年・安田怜が、警視庁の警視正・折原を襲った不運奈死亡事故を予知したことから、警視庁の地下にある「異能処理班・ミカヅチ」の職員として雇われ、世の中にはみ出してくる怪異の「処理」を行う、ホラー系ミステリー・シリーズ「警視庁異能処理班ミカヅチ」の第二弾が『内藤了「呪街 警視庁異能処理班ミカヅチ」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻では、彼がミカヅチに入る前に「祓い師」として関わった暴力組織の若社長が、大和田にあった刑場跡で憑りつかれた蛇の怪異や、辻の札の警察署の留置場でおきる収容者の怪死事件を処理したのですが、正式に「ミカヅチ」のメンバーとなって東京の各地でおきる「怪異」に関わっていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

エピソード1 江戸麹町・地獄谷の吹きだまり
 プロローグ
 其の一 祓いの依頼
 其の二 吹きだまりアパートは人を呼ぶ
 其の三 おばこのふたなり
 エピローグ
エピソード2 新宿歌舞伎町舌抜き事件
 プロローグ
 其の一 ラブホテル殺人事件
 其の二 舌抜き事件ふたたび
 其の三 石の吸い物
 エピローグ

の二編です。

エピソード1 江戸麹町・地獄谷の吹きだまり

エピソード1の舞台は、高層ビルの立ちならぶ麹町で、ビルに囲まれるようにして建っている昭和の初めか大正時代に建てられた古いアパートです。

風呂無し、トイレ共同のボロボロの廃墟寸前の物件なので、二十二室ある部屋のうち、住んでいるのは二部屋のみ、大家は1階に居住しているようなのですが、部屋から出てこず建物管理は誰もやらない、さらには裏には古井戸がそのまま放置されている、という不気味なつくりです。

で、怪異はここの二階に住んでいる一人の男におきます。彼が酔っ払って帰宅し、共同トイレに行こうとすると、廊下で、大勢の人影をざわざわ蠢いているのを見つけ、もみあっているうちに意識を失い、気がつくと、誰も住んでいない204号室に転がされていた、というものです。

不気味に思って、部屋を出ると、このアパートのもう一人の住人に出会い、このアパーtでは以前から、殺人や自殺がしょっちゅうあり、裏庭の井戸には飛び込み自殺が複数おきていることを教えられます。彼は自分はこれから引っ越すが、男にも早く引っ越すようアドバイスしてきて・・というのが前振りとなります。

そして、それから何日か経過後、「警視庁ミカヅチ班」に雇われた本編の主人公・安田怜のスマホの「祓い師」をやっていた時にアカウントに、その男から助けを求めるメッセージが入ってくるのですが、そのアカウントは「ミカヅチ」に入ったときに解除したはずのものでという筋立てです。

怜は、このメッセージの真意を確かめようと、そのアパートの部屋の清掃作業を請け負ったという、汚れや事件の痕跡もきれいに消してしまう、小宮山・リウ・千さんという三人の老女で組織する異能のお掃除集団「三婆ズ」と出向き、そこで、2階の人影など怪異を木ゲイするとともに、助けを求めてきた男がすでに死んでいることを発見するのですが・・という展開です。

この後、怜はこのアパートに巣くう「怪異」を祓おうと考えるのですが、「ミカヅチ」のメンバーは協力を拒みます。憤慨した怜は、「三婆ズ」とそのアパートを浄めようと出向くのですが、そのアパートにいる怪異の正体は実は・・、そして「ミカヅチ」メンバーが放っておけと言ったわけは・・といたっところは原書のほうでご確認を。

少しネタバレしておくと、地霊の中には手を出さないほうがいいものもいるようです。

エピソード2 新宿歌舞伎町舌抜き事件

エピソード2の事件は新宿・歌舞伎町の盛り場で起きます。

ベテラン俳優の猪戸、若手イケメン俳優の紫垣、ディレクターの鬼頭は、新作のTVドラマのヒロインへの抜擢を餌に新人女優を連れ出して酔わせ、乱暴を働こうという悪計を企んでいるのですが、警戒したその女優は隙を見てその場から逃げ出します。同じ手口で何人も毒牙にかけてきた三人は、近くで酔って座りこんでいる女性をみつけ、彼女を近くのラブホテルに連れ込んで、乱暴を働こうとするのですが・というのが前振りのところです。

この三人の男はかなりゲスな描写がされていて、おそらく読者のほとんどは相当の嫌悪感を覚えると思うのですが、彼らを襲った運命は、連れ込んだ女性によって舌を引っこ抜かれて、失血死するというもので、悪いことはできないよねー、という感がするのですが、三人を殺した女性は忽然と姿を消してしまった、という怪異つきの事件となります。

この三人の集団死は当然マスコミの格好のネタとなるのですが、この変死に「怪異」が関連していることがばれると余計な騒動となるため、「ミカヅチ」班が、この隠蔽工作に乗り出すのですが、その途中で、三人を殺した「怪異」と怜が出くわし、そのものから「女性たちを食い物にしてきたこの男たちか、身を守って男たちを殺した自分と、どちらが鬼なのか」という問いを出されます。次の日の同時刻に答えを聞きに訪ねるが、間違った答えであれば舌を引き抜くという脅しつきです。

さて、警視庁の地下にある「異能処理班ミカヅチ」の部屋で、緋毛氈を敷き、お頭つきの生魚、洗っただけの葉付き人参、餅や牛蒡の漬物などを椀に盛りつけ、小石をいれ半透明の汁をはった汁椀と、甘酒をいれた徳利を並べた席を設け、白装束をみにまとった「怜」が出した答えは・・というところなのですが、謎解きは原書のほうで。

謎解きの答えは、うすうす気づいた読者も多いかと思うのですが、その理由は意外に「深い」意味をもっているので注目です。

レビュアーの一言

今巻では、麹町から市ヶ谷に抜けるあたりの昔の呼称である善国寺谷、別名、地獄谷に棲んでいた「有象無象のバケモノ」や過去に不幸に絶えて辛酸をなめ虐げられながらも、誰にもいえず、いわば舌をなくした状態で死んでいった女性の無念が、大久保、すなわち「大きな窪地」に溜まって生じた「鬼」と対峙することになります。

これらの怪異を見抜くための道具立てに「おばこのふたなり」=おばこの実の二成りのものを陰干しにしたものであったり、北八丁堀に屋敷を構えていた九鬼家の当主が豆まきの後、鬼と盃事を行うときに出す「石の吸物」といったアイテムがでてくるのですが、その具体的な姿は霧の中の状態ですね。いつか詳しく調べてみましょう。

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