内藤了「怨毒草紙 よろず建物因縁帳」=春菜は草紙に封じられた江戸期の血みどろの事件を浄化する

広告代理店に勤務するバリキャリ・ギャルながら、怪異を呼び寄せてしまう「審神者」の能力もあわせもつ高沢春菜が、仙龍の号を持つ曳き屋師にして、古来から伝わる隠温羅流の導師である鐘鋳建設の経営者の守屋大地、守屋の会社の従業員で軽薄そのものの風貌ながら文化人類学の専門家・祟道浩一、廃寺三途寺の生臭住職・加藤雷助と、建物や山河に依った怪異を封じ浄めていく「よろず建物因縁帳」シリーズの第7弾が本書『内藤了「怨毒草紙 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻で廃教会に潜んでいたシリアから持ち込まれた「悪魔」を浄化した春菜・仙龍チームだったのですが、今巻では、江戸時代の猟奇殺人を写した草紙が巻き起こす怪異に挑みます。

あらすじと注目ポイント>春菜は草紙に封じられた江戸期の血みどろの事件を浄化する

構成は

プロローグ
其の一 東按寺の持仏堂を曳く
其の二 長坂の開所式
其の三 昇龍の死
其の四 地中の宝
其の五 百鬼夜行
其の六 鬼哭の所業
其の七 人喰い温颯
其の八 怨毒草紙
エピローグ

となっていて、まずは長野の善光寺近くにある「東按寺」が境内に隣接する駐車場を拡張するため、木賀建設という会社が行う持仏堂を曳き屋で移転する工事を春菜が見学するところから始まります。惚れている仙龍が率いる隠温羅流の曳き屋と通常の会社の行う曳き屋とを見比べて、仙龍を取り巻く因縁の正体をつかもうという思いからなのですが、この時に床下から吹きあがってくる風に嫌な臭いを感じるのが布石となっています。

この曳き屋自体は接近してきていた台風の襲来前に無事、事故もなく完了したのですが、しばらくしてやってきた台風の日、「東按寺」の庭守りをしていた老人が、縛り付けたり地中に埋めた罪人の首を通行人や被害者の家族に鋸で挽かせてゆっくりと死に至らせる「鋸引き」の刑の幻を見ながら死ぬという怪事がおきたのが、今巻の怪異の始まりです。

この遺体の首には、策条痕のような痣が残っていたのと、死体の側に被害者が土に書いたらしい生首の絵が残っていたのですが、この事件のあと、生首や血だらけの女、あるいは内臓を咥えた狼の幽霊を見たという人が東按寺の周辺で頻発します。
そして、この幽霊騒動は、自社の行った持仏堂の曳き屋が原因ではと気に病む木賀建設の社長の頼みで、春菜と仙龍ほかの鐘鋳建設のメンバーと雷助和尚が解決に関わっていくことになります。

しかし、この幽霊を多く見たといわれる時間に現地を踏査する活動は、春菜に危機をもたらします。仙龍や和尚たちと一緒の時は何事もなかったのですが、彼らから別れて自分の車に変える数十メートルの間に狼に食われる若い娘の姿や、その姿を描けと唆す「絵筆」たちに襲われ、あやうく魔に取り込まれそうになるのですが、ここは周辺をパトロールしている警察官に職務質問される、というとっておきの「日常」に救われることになります。こういう時、安定している国家の強みが「あやかし」に対しても効果を発揮するところですね。

そして、春菜の遭遇した魔の様子から、小林元教授は、江戸末期に発生した連続猟奇殺人事件との関連性に気づきます。その連続殺人の様子を描いた草紙が、春菜が東按寺の駐車場で見た凄惨な光景と瓜二つであることがわかります。

さらに、善光寺に残っている記録で、天保の頃、浅草で善光寺の出開帳を開いた時に、」この猟奇殺人の情景を描いていて、夜な夜な亡者が飛び出して持ち主が死んだり発狂したりという祟りをもたらした草紙本を、江戸の猿若町に住む通人から預かり、白木の箱内に塩で封印して信濃の国に持ち帰ったというものがあることがわかります。

しかも、その草紙は東按寺の、木賀建設が家曳きした「持仏堂」の地下に埋められていたことがわかってきて・・という筋立てです。

この後、この草紙を描いた絵師の正体と彼が救いを求めて苦悩していたことや、地下に埋められていた草紙が世間に出たものではなく、絵師が猟奇殺人現場を被害者の血で描いた、もっと禍々しいものであることがわかってきます。この草紙がもたらす禍いを払うため、春菜と仙龍は持仏堂の周囲に「結界」を張り、この草紙と描いた筆の埋められた「筆塚」を掘り返し、浄化に挑むのですが・・といった展開です。

すこしばかりネタバレすると、被害者の血によって陰惨な場面を描写されることによって、本来は人によって描かれたにすぎないものにもかかわらず、妖力をもってしまった「スケッチ」がもたらす災厄を、春菜・仙龍チームがどう鎮めるか、といったことろが読みどころになってきます。

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レビュアーの一言>隠温羅流の秘密は吉備と出雲に眠っている

今回、仙龍の「サニワ」としての役割と彼への愛情を再確認した春菜は、隠温羅流の当主の宿命である42歳で死亡する、というわけを解き明かすため、岡山の「温羅伝説」や出雲の歴史を調査していくことを決意します。春菜たちの住む長野県は、出雲神話のオオクニヌシの息子のタケミナカタが天孫族に敗れ、逃れていった諏訪湖のあるところでもありますので、次巻以降、春菜によって、歴史に埋もれてしまった隠温羅流の秘密が解き明かされていく展開になるのだろうと思います。

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