内藤了「スマイル・ハンター」=憑依探偵は「笑顔」を狩るサイコキラーをおびき出す

自らの作品の主人公に成りきって年齢・風貌も変化する、正体不明の人気推理作家・雨宮縁が、大手出版社「黄金社」の担当編集者・真壁、フリーの装丁作家兼カメラマンの蒲田を使って、隠されていた殺人事件の犯人に周到な罠を張ってあぶり出していくクライム・ミステリー「憑依作家・雨宮縁」シリーズの第一弾が『内藤了「憑依作家・雨宮了「スマイル・ハンター」(祥伝社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント>憑依探偵は「笑顔」を狩るサイコキラーをおびき出す

構成は

プロローグ
第一章 幸福な家族の肖像
第二章 死者のミサンガ
第三章 ミステリー作家 雨宮縁
第四章 シャッターを切る「U」
第五章 雨宮縁捜査班
第六章 スマイル・ハンター

となっていて、まずは冒頭で、本編で主人公の雨宮縁の手足となって動いていく大手出版社・黄金社の元社員で、現在はフリーの装丁作家兼カメラマンの蒲田宏和が東京に大井ふ頭中央海浜公園で、若い夫婦と三歳くらいの子供が幸せそうに遊んでいるところをみかけるところが描かれます。この三人連れがのちになって事件に巻き込まれているのがわかるのが、今巻の伏線の一つになっているので覚えておきましょう。

で、事件のほうは、蒲田の元の会社である「黄金社」の編集者・真壁からの仕事の依頼で、彼と一緒に都内の「ゴミ屋敷」の取材のカメラマンとして取材に同行するところから始まります。何人かのゴミ屋敷を巡った末に、黄金社を退職した元社員の女性・飯野の家を訪ねたところ、ゴミの中で自ら首を締めて自殺を図っていたのを救助したのが発端となります。

彼女は書店勤務の男性と結婚して、出版社を寿退社をしていたのですが、夫が書店によせられたクレームの当事者になったことを苦にして、跨線橋から身投げ自殺をしたのがきっかけで精神に変調をきたし、ひきこもった末に自殺を図ったという経緯です。

この後、真壁の依頼で葬儀場の取材にも行くのですが、そこで、大井ふ頭でみかけた夫婦と幼い子連れの親子の夫のほうが電車の人身事故で死んでいることを知ります。

一見、二つの事件は関係ないようなのですが、ネットサーフィンで偶然見つけた写真投稿サイトに、飯野が結婚した時の幸せそうな写真や大井ふ頭の親子のほほえましい写真や他にも老夫婦や双子の兄弟などの幸せそうな写真がUPされているのを見つけます。

そして、このことを真壁から、担当している新進のミステリー作家・雨宮縁を紹介され、有楽町のガード下の焼き鳥屋で三人で呑んでいる時、雨宮にしゃべると、雨宮はこのエピソードに犯罪の臭いを嗅ぎつけて、という筋立てです。

この二つの事件の特徴はいずれも幸せな感じで撮影されていた家族が、突然、そのうちの一人が急死して、残された家族が悲嘆の顔に変わってしまう、ということなのですが、この写真投稿サイトにUPされていた他の写真の主も同じように、写っていた家族の一員が事故で突然な事故死に見舞われていることがわかります。

雨宮は、この複数の事故死が、家族の幸せそうな「笑み」に嫉妬して、それを突然奪って喜ぶ「サイコパス」が背後にいるのではと推理します。

しかし、犯罪を立証する証拠はどこにもないため、雨宮は蒲田や真壁を使って、このサイコパス(人の笑顔(スマイル)を奪うことを喜びとする「スマイル・キラー」と命名するのですが)をおびき出そうとあるトラップをしかけるのですが・・という展開です。

少しネタバレしておくと、最初「安楽椅子探偵」の様相を見せていた「雨宮縁」が事件を暴くために、犯人に罠をしかけていく落差が読みどころとなっています。

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レビュアーの一言>名探偵の正体は何?

ミステリーで注目するポイントの一つに、どれだけ個性的で魅力的な探偵役をひねり出すことができたか、ということがあります。今シリーズの「名探偵」である雨宮の姿は、焼き鳥屋で蒲田が出会った時は、黄金社で出版しているドブ板長屋の大家が主人公のミステリーの主人公そっくりの出で立ちをしていたのですが、次に雨宮の作業場であった時は、他の出版社で出している美人のマダムが活躍するミステリーの主人公そっくりのモデル顔負けの熟女美人という姿です。「雨宮」は出版社の編集者ごとに、執筆するミステリー主人公そっくりの姿で出現するという正体不明のミステリー作家で、というのが特徴です。
雨宮の本当の正体は、というのが本編の事件以外のシリーズの謎の一つとなっているのですが、ここはプロローグとエピローグのところにヒントが隠されているようなので、始めと最後のところも気を抜かないでおさえておきましょう。

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