内藤了「憑き御寮 よろず建物因縁帳」=座敷牢に封じられた娘の恨みを解き明かせ

広告代理店に勤務するバリキャリ・ギャルながら、怪異を呼び寄せてしまう「審神者」の才能もあわせもつ高沢春菜が、仙龍の号を持つ曳き屋師にして、古来から伝わる隠温羅流の導師である鐘鋳建設の経営者の守屋大地、守屋の会社の従業員で軽薄そのものの風貌ながら文化人類学の専門家・祟道浩一、廃寺三途寺の生臭住職・加藤雷助と、建物や山河に依った怪異を封じ浄めていく「よろず建物因縁帳」シリーズの第3弾が本書『内藤了「憑き御寮 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻では、信濃山中の滝に出現する、江戸時代のブサメンの彫刻師と美しい遊女上がりの人妻との純愛が生んだ怪異を祓った春菜・仙龍チームなのですが、今回は、義理の美人姉妹の対抗意識が生んだ怪異に挑みます。

あらすじと注目ポイント>座敷牢に封じられた娘の恨みを解き明かせ

構成は

プロローグ
其の一 藤沢本家博物館改修工事
其の二 仙龍の恋人
其の三 忍び門ノ怪
其の四 憑き物筋と狐憑き
其の五 ふたり小町
其の六 浄霊に能わず
其の七 見立て祝言
エピローグ

となっていて、今回、怪異の封印を解くのは、春菜が「パグ男」と呼んで忌み嫌っている、金儲け第一主義の設計事務所の所長・長坂金満です。性格と行動は下劣ながら、行政や旧家がらみの案件はしっかりと食い込むことに長けている長坂なのですが、今回はかつては三百年続いた藩御用達の豪商で、現在は屋敷の一部を博物館としている「藤沢家」という旧家の改修工事を請け負っています。ただ、金儲けに目ざとい彼が単純な改修工事をするわけがなく、工事のどさくさでお値打ちものの家財道具をちょろまかして売り払うという小悪事を企んでいます。
このため、夜にこの屋敷に居残って、物色を始めていたのですが、お値打ちものの箪笥を動かそうとして、箪笥が塞いでいた戸と柱に貼られていた「三本指の文様が描かれたお札」、隠温羅流の魔を封じ込めるお札を切り裂いてしまいます。
この箪笥が塞いでいたところは、部屋の中に格子の扉が設けられた「座敷牢」で、彼はここのいた「魔」の封印を解いてしまいます。
それは

ーお出やれ・・・こっちへ・・いいもの見しよう・・ー
(中略)
うふ・・うふふふ・・・痺れるほどの白粉の香り。その奥で、チーンンンン・・と鉦の音がした。お出やれ。こっとへ。お出やれ。こっちへ。惹かれる先は暗闇で、ザワザワと松が鳴っている。・・・そうれ、それ。あんしゃ・・これが愛しかろう・・?

といった感じで男を誘惑して取り殺してしまう「魔物」で、ここの工事に携わっていた職人が二人犠牲になってしまいます。しかも、一人は赤い帯締めを握りしめ、一人は振袖に撒かれた状態で、「笑ったような顔」で死んでいたという不気味さです。
本シリーズの主人公である春菜はいつもの悪縁で、長坂設計事務所経由の展示デザインを請け負っていたため、この屋敷で起きた死亡事件の謎解きに関わっていく、という設定です。

さらに、この魔物を以前封じ込めは、仙龍の父親の昇龍が行っていたことが、仙龍の祖父の末弟で鐘鋳建設の専務の記憶で明らかになります。それによると、封じ込めていたのは男狂いの死霊で、その時は若い女の好きそうな振袖、簪などを座敷牢のあった部屋に用意して、そこへおびき寄せ封印したとのことで、封じた死霊は藤沢家の六代目当主のひとり娘「マサ」だとのことです。ただ、彼女を封じ込めた後、昇龍のいいつけで、この家の物品を展示する時は、怪異がおきないように「りん」という名前を記すことにしているのですが、それとの関連性がわかりません。

仙龍と春菜は、「マサ」の死霊を祓うために、この家の歴史と「マサ」が死んだときの経緯を調べ始めると、彼女は「狐が憑いた」とされるのですが、その時に頼んだ祈祷師にイタズラされ、それがもとで気が触れて死んだということになっていることがわかるのですが・・・という流れです。

この後、「マサ」の義理の姉「りん」の存在や、さらに「りん」の妹が残していた手帳やい生き残っていた「妹」の証言から、この「狐憑き」自体が「りん」の仕込んだ「インチキ」であることもわかり、二人の美人姉妹「マサ」と「りん」のどろどろの対立と「りん」の仕掛けた罠の根深さが見えてきて・・という展開です。

そして、この死霊を祓う儀式が、彼女を落ち着かせるために、生きている人間が憑り代となって、婚礼の儀式をあげる「見立て祝言」という手法を遣いのですが、そのお婿さん役が「仙龍」なため、花嫁役に抜擢されると思っていた春菜が思わぬ伏兵にあい・・といったあたりは笑いを誘います。ただ、彼女がサニワの能力で透視した、「マサ」が調伏されるときの映像が、暴れ出した「マサ」を鎮めるキーとなるので、やはり彼女のサニワ(審神者」の能力は侮れませんね。

それにしても、今回の騒ぎの原因をつくった「長坂社長」は、体調を崩して入院するだけで終わっているのですが、こういう怪異を信じない、乱暴なふるまいをする人物には、妖異も避けて通る、ということなんでしょうか・・・。

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レビュアーの一言>「狐憑き」の正体についての新説?

本書ででてくる「狐憑き」というのは、狐の霊に取り憑かれたと信じる人の精神が錯乱した状態で、日本全国にその伝承が残っているものなのですが、現代では、暗示にかかりやすい人に多くみられる「発作性」のヒステリー精神病か脳炎などの脳の疾患とされるの一般的です。

ただ、本書では、今巻にでてくる「狐憑き」は、鉛を採掘した跡地に地滑りが発生し、そこから流出した鉛が井戸水に入り込み、その水を日常的に摂取したことによる「鉛中毒」だったかもしれない、という新説を提示しています。地方特有の病気の原因は、飲み水や土壌に含まれる有毒成分、寄生虫などが原因であるケースが多いことにヒントをえた面白い着眼なのですが、ここから先は未消化のまま、今話が完結しているのは惜しいところです。

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