内藤了「鬼の蔵 よろず建物因縁帳」=旧家の土蔵に書かれた「鬼」の血文字の意味は?

猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズや、東京駅おもてうら交番・堀北恵平シリーズなど、若い女性の活躍するホラー系ミステリーの名手である筆者が、因縁物件や因縁のある土地を題材にしたホラーシリーズが「よろず建物因縁帳」シリーズ。
そのシリーズ第一作が本書『内藤了「「鬼の蔵 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
其の一 国の重要文化財 蒼具家土戸
其の二 因縁切り物件専門業者
其の三 陰の曳き師 隠温羅流
其の四 ハラミノ火と夜参り講
其の五 オクラサマ
エピローグ

となっていて、今巻でおきる怪異をサクッと知らせてくれるプロローグのところはおいといて、最初はシリーズ第一巻とあって、主人公で語り部役となる大手の広告代理店「アーキテクツ」で博物館や文学館の展示プロデュースの営業担当をしている、高沢春菜(はな)が、建築設計事務所の社長・長坂から無理な注文を押し付けられているところから始まります。

長坂は、このシリーズで、春菜に契約をちらつかせては企画アイデアを出させて、それを横取りしようとして失敗したり、クライアントの苦情を春菜におしつけて責任逃れをしようとしたり、と彼女にとっての典型的な「ザコ天敵」を演じてくれる大事なキャラなので、覚えておきましょう。巻が進んでいってもしっかり登場してきます。

で、長坂が持ち込んできた企画というのが、山合いの村から持ち込まれた「道の駅」の建設予定地に経っていた地元の旧家・蒼具家が村へ寄贈した屋敷の中にある「土蔵」から文化財級の「土戸」が見つかったため、この土蔵の移転と民俗資料館としての保存活用のプランをつくってくれというものです。「土戸」というのは土間にある泥土あるいは漆喰が塗られた引き戸のことで、ここでは蔵の扉と考えていけばようようですね。この文化財級の「土戸」の内側には人間の血で「鬼」と2メートル近い文字が書かれているという設定で、いかにもホラーものにふさわしい代物です。

春菜は、この土蔵のことを詳しく調べるために、現地で調査をしている歴史民俗資料館の学芸員で民俗学者の小林元教授を訪ねていくのですが、そこで、このシリーズのもう一人の主人公である建物の移転を専門にする曳き師で、かつ古来から伝わる建物の因縁を解く隠温羅流の導師・仙龍と出会います。
博物館や文学館の展示企画を担当しているといっても、呪いとか因縁とかいったことには全く疎い春菜は、これをきっかけに古くからの伝承が導く様々な怪異に出会うことに・・といった筋立てです。

そして、今回、春菜が出会う「蒼具家」の伝承というのが、お盆の頃に「カミガエシ」と称して、一族が祀る「蒼具神社」から「オクラサマ」という神さまを招来するのですが、その神が帰るまでの間、「隠れ鬼」をすることが禁じられています。それを破ると、遊びに鬼が混じり込み、鬼に見つかった者が、口から下が噛み千切られ、手足の指がおられたりもがれて死んでしまうという伝承があって、実際に過去、夏に複数人の変死者がでています。
この屋敷を村に寄贈した持ち主の女性・蒼具美子も、幼い頃、隠れ鬼をして、年の離れた兄が変死体で見つかったという経験をもっています。

さらに、この屋敷の裏庭には、外便所のいう名前の、建物の中の土間に、四角く深い穴が掘られた建物が建てられていて、この周囲には村の女性たちによって多数の風車が飾られています。この建物内や裏庭に男性が出入りするには、村の女性たちの許可がいるという風習が残っています。ここで以前行われていた、女性たちが満月の夜に集まる「夜参り講」の時には、人魂が出るという伝承も残っていて、という感じで怪奇色満載の味つけがされています。

春菜は、仙龍や彼の会社の下っ端のコーイチの助けを借りながら、この土蔵に隠された因縁や秘密を探っていくのですが、こうした伝説やそれが基にある怪異をまったく気にかけない、「長坂」社長が、大手建設会社を引き込んで、土蔵に張られた「結界」や魔を封じてあるまじないをすべて取っ払ってしまいます。

この暴挙によって、封印を解かれた「オクラサマ」がもたらす災厄に、春菜と仙龍はどう対処するのか、そして、この「オクラサマ」の正体は?といった展開です。

少しネタバレしておくと、この「蒼具家」というのが、江戸時代から続く家という設定になっていて、飢饉の多かった江戸時代の集団的な人減らしなど、村全体が隠しておきたい「黒歴史」が今巻の怪異のキーになっています。

Bitly

レビュアーの一言

本巻は、旧家や古くからある「村」伝来の怪異や、コテコテの民俗学風味が盛り込んでありますので、ホラー系や民俗学系のシチュエーション好きのミステリーファンの「大好物」となっていることを保証しましょう。
また、このシリーズ第一巻では詳細が明らかになっていないのですが、仙龍が継いでいる「隠温羅流」の正体も気になるところです。ちなみに、この名称のもとになっている「温羅」というのは、古代に岡山県の吉備地方の支配者で、異国から飛来し、吉備に製鉄技術をもたらし、鬼ケ城を拠点としたという人物ですね。桃太郎伝説の原型の一つであるようです。

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